入れ替わった花嫁は元団長騎士様の溺愛に溺れまくる

九日

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『入替花嫁』完結記念番外編

第二弾 邂逅 『レオドルドとアズベルト』

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 ここも結局、家に居るのと変わらないな……

 レオドルド・サージェンスは、その端正な容姿を蠱惑的に歪ませ、今まさにすれ違った女生徒達へと流し目を送った。
 目の前を通る彼女達は、黄色い歓声を上げながら興奮気味に小走りで去って行く。身なりからいいとこのご令嬢達だろう。遠くからチラチラ盗み見て来てはヒソヒソと小声で囁き合っている。あれもいつかは我が家の良きカモとなるのだろう。
 不躾な眼差しに勝手な妄想、挙句の果てに自分本位な要求まで押し付けてくる上流階級の連中に、レオドルドは十五にして既に辟易していた。

 サージェンス家は成り上がりの商家である。一代でここまで築き上げた父は、莫大な利益をもたらす貴族達との繋がりを重んじている。
 自分をこの学院に入れたのも、大方横の繋がりを広く太くする為だ。母譲りのこの容姿を余すところなく使えと、生まれた時から強要されて来たのだ。自分の生き方に自分の希望など一切聞き入れてもらえない。

 母は異民族で、その妖艶な見た目で父に見初められ、妾としてサージェンス家に入った。この金髪もサファイアブルーの瞳も、何なら陶器のような肌も人を惹きつける才能も、全て母から譲り受けた。
 当時既に正妻がおりお腹に長子がいた事で、母は酷い扱いを受けて来た。それが嫡男で、しかも自分まで男児を産んだとなると、その風当たりが如何ばかりだったかなど想像にかたくない。そのせいで精神を病んでしまった母は、幼いレオドルドを置いて家を出た。
 その先の事は知らない。自分を捨てていなくなった女の事など、レオドルドにはどうでも良かった。
 正直家を継ぐかどうかもどうでも良かったし、やりたい事も目指す物も無かった。ただただ父の言う通りに事が運んでいくのだけが癪だった。


 そんなレオドルドがアズベルトと出会ったのは、ただの偶然だ。
 ただ何となく適当に取った専攻授業の初日の事だった。

 顔合わせだけの無駄な時間、面倒だと思ったが単位に厳しい教授だからと教えられ、傍観するつもりで後ろの席に座った。
 教室の前方にある入り口から入ってくる人物を、机に肘を付き顎を預けるような崩れた格好で眺めていた。
 大方席が埋まって来た頃、一人の人物が入って来た事で室内がざわついた。
 茶に近いクセの無いブロンドをさらりと揺らし、友人らに向かって微笑むその表情は酷く爽やかだ。
 色んな人間を見てきたレオドルドには、貼り付けた表情の裏側が視えてしまう事が多々ある。のだが、彼には嫌味も作り笑いも無いのだ。
 余程有名な人物なのか、色んなヤツから話しかけられていて、しかもそれ全部に律儀に返す真面目野郎だ。
 制服の上からでも身体ががっしりと作られているのが分かる。ジャケットの胸ポケットに施された所属する科を示す刺繍で分かった。

「(騎士科、か……どうりで)」

 おまけに襟に付けられたゴールドのラペルピンが、その科の首席である事を示している。
 どうせ良いところの坊ちゃんだろうと、周りと爽やかに会話をする彼を何となしに目で追っていた。
 キョロキョロと席を探しながらこちらへ近づいてくる彼と不意に目が合った。僅かに目を見開いた彼が真っ直ぐこっちに向かって来た。

「(そういや隣が空いてるんだったな)」
「失礼。隣の席に、良いだろうか?」
「どうぞ」

 教授が入室し、講義が始まった。といっても、簡単な自己紹介と講義内容の説明だから講義と呼べるような物では無い。
 自分なりに愛想よく接したつもりだったのだが、隣のヤツがさっきからチラチラとこちらを伺ってくるが気になった。態度が気に入らなかったのか、はたまた他の奴ら同様この容姿が気になったのか。
 言いたい事があるなら、はっきり言えば良いだろうに。少しの苛立ちを交えながら、レオドルドが前を見たまま隣へ問う。

「何?」
「あ……いや」
「気になるんだけど」
「……その、君は男性……だよな?」

 あぁ、見た目の方ね。

「そうだけど——」
「申し訳ない」
「……は? ……何の謝罪?」

 いきなり謝罪の言葉を告げられて、困惑したまま隣へ視線を移した。こちらへ向けられていた琥珀色の眼差しがあまりにも真っ直ぐで、レオドルドは思わず見つめてしまっていた。

「それは……その」

 煮え切らない態度に余程言い難い事なのかと勘ぐってしまう。確か初対面の筈なのだが。
 濁される方が気になると告げると、彼は渋々口を開いた。

「実は、女性だと思って声を掛けたんだ。君の声を聞いて男性だと分かった。……その、勘違いした上に不躾な視線を送ってしまって……私の態度も含めて不快だっただろうと思って……すまない」
「……そんな事……?」

 正直に言って驚いた。
 女と勘違いされる事など日常茶飯事だったし、今更気にも留めていない。自分の周りにいたヤツなど、自分の都合が最優先の横柄な人間ばかりだった。こちらが不快だったかなんて気にも留めないだろうし、気付きもしないだろう。
 レオドルド自身それが当たり前の世界で育ったし、そんなものだろうと割り切っていたのだ。
 気にしても仕方が無かったから、気にするだけ無駄だからと、いつしかそう諦めて視ないようにしていたのかもしれない。

 しかし彼は違ったのだ。
 レオドルドですら気付かなかったそれに対し、悪いと思ったからと言う理由で謝意を述べてみせた。こちらを見つめる瞳は真っ直ぐで、誠実で、素直だった。それが酷く眩しく思えて、レオドルドには新鮮な感覚だったのだ。

「ふ……っ、ふふっ……っははは!」
「???」

 講義の最中だった事も忘れて大笑いしてしまった。
 変なヤツもいるんだなと思うと同時に、面白いとも思う。今まで出会ってきた中には居なかったタイプの人間だった。
 彼は急に笑い出した隣席に困惑していたし、教授には当然の如く怒られた。彼にも注意が与えられ、それに関しては少し申し訳なく思う。

「君は……随分と律儀で正直者だな」
「そうだろうか?」
「君のような人間とは初めて会った……」
「アズベルトだ」
「え?」
「アズベルト・フォーミリオ。騎士養成科、五年だ」
「レオドルド・サージェンス。経済学科五年」

 こうして出会った友人に、今後大きな影響を受けるとは思いもよらず。
 ただ、これからの学院生活がつまらないだけでは終わらなそうだと、注意を受けて姿勢を正すクソ真面目な男を見ながら、レオドルドはふっと口元を緩めたのだった。
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