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『入替花嫁』完結記念番外編
第六弾 妹から令嬢になった日
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コンコン
扉をノックする音が響く。一呼吸の後、中から返事が聞こえ、そっと扉が開かれた。
開けてくれたのはカナリア専属のメイド、ナタリーだ。
アズベルトは彼女に促され、部屋の中へと足を踏み入れた。
ドレッサーの前のカナリアは今、アズベルトに背を向けている。最後の調整中のようだ。
彼女が身に纏っているのは夜会用のドレスで、レースがふんだんに使われた華やかな衣装だ。
カナリアが十三歳の誕生日を迎えたこの日、少女だったカナリアは一人の女性として世間に認識される事となる。
「カナリア」
アズベルトが声をかけると、カナリアがゆっくり振り返った。ふわふわの幾重にも重なったレースが揺れ、綺麗にメイクを施された可憐な笑顔がアズベルトに向けられる。
「アズ!」
「っ……」
いつもの可愛らしさは鳴りを潜め、今は誰が見ても思わずため息をついてしまいそうな程美麗な令嬢へと変身を遂げている。
心臓が痛くなるほど胸が高鳴った。
いつの間にこんなに素敵なレディになってしまったのか……。
ついこの間まで『アズ兄さま』と後ろをついて歩いていたというのに……。
カナリアは生まれた時から身体が弱く、家の中で過ごす事の多い少女だった。不治の病だと医者に言われたのは八歳の時だ。
貴族の令嬢は一般的に十三歳で社交界デビューするが、病気を理由にカナリアはそれを諦めた。
そんな彼女を不憫に思ったカナリアの両親と、家族ぐるみの親交があったアズベルトの両親が、ならば十三歳の誕生日パーティーを盛大にやろうということで今に至る。
屋敷には両親の友人やアズベルトの友人たちを招いた。おかげでかなりの人数である。
学院時代の友人であるレオドルドやゲネシス、ジルの姿もある。皆カナリアの為ならと時間を作って参加してくれている。
アズベルト同様カナリアを妹のように可愛がって来たレオドルドは「ぜひエスコートしたい」と言ってきたが、ここは譲れなかった。
譲らなくて良かったと心底思う。誰よりも先にカナリアの晴れ姿が見られて嬉しい。その反面、他の誰にも見せたくないと一種の独占欲のような感情まで芽生えてしまっている。
「お誕生日おめでとう、カナリア」
カナリアはクスクスと笑いながら、頬をピンク色に染めてはにかんだ。
「もう二回目よ。朝一番に言ってくれたじゃない」
カナリアが起床して直ぐに薔薇の花束とブレスレットのプレゼントを持っていった。
驚きに目を丸くし、嬉しそうに破顔する姿は本当に天使のようだった。
「そうだったな。……とても綺麗だ。よく似合ってる」
「ありがとう」
「体調は?」
「平気よ。アズとダンスするまでは絶対倒れないから」
「どうか無理はしないで」
「ええ」と嬉しそうに微笑むカナリアに向かって手を差し伸べる。
「行こうか」
「はい」
その手にカナリアの手が重なりきゅっと握った。
会場に入ったカナリアは、案の定集まった全ての人の視線を独り占めしている。
両親はおろか、昔から彼女をよく知るレオドルドもゲネシスも、数多の女性を見て来たであろうジルまで、驚嘆の眼差しで見つめている。
皆がカナリアの脅威的な天使っぷりに驚きを隠せないようだった。
やがて音楽が流れ、アズベルトはカナリアにダンスを申し込む。
嬉しそうに彼の手を取ったカナリアは、この日の為に少しだがダンスの練習もして来たと聞く。
ゆったりとした曲に合わせて身体を動かす程度に留めたが、それでも可憐で華やかだ。
今日の主役はカナリアだから、きっと多くの男性にダンスを申し込まれる事だろう。
体調を理由に断ってしまおうか。倒れたら困るからと、この曲が終わったら連れ去ってしまおうか。
そうやってあれこれ理由をつけたが、結局この細くて華奢な身体に自分以外の誰かが触れるのかと思うと、酷く不快に思えてならないだけだった。
「ここに座って待ってて。飲み物を取ってこよう」
「わかったわ。ありがとう」
休憩にと少し側を離れただけだったが、その僅かな間に囲まれていた。
今まで人と接する機会がなかったせいだろうか。少し困ったように眉尻を下げながらも、時折微笑みを浮かべ楽しそうに談笑するカナリアの姿が目に留まる。そんな姿が喜ばしい筈なのに何故だろうか、やけに不快に感じてしまう。
「これは直ぐにでも求婚状が届きそうだな、アズベルト」
「ああ……そうだな」
「兄としては複雑だな」
「兄……そう、だな……」
ゲネシスに言われたその言葉が、いつも自分がそう思っていた『兄』という立ち位置に、今はっきりと違和感を覚えた。
自分は兄だから。
兄としてずっと一緒に過ごして来たから。
違う。
そう思い込んでいただけだったのだ。
もうとっくに気付いていた。
幾度となく聞かされたカナリアの『大好き』が、アズベルトのそれとは違う事を。
カナリアの気持ちが一人の女性としての想いである事に。
だが、十四歳という歳の差がアズベルトにずっとブレーキをかけている。
カナリアは今日やっとデビュタントの歳。かたや自分は二十七、適齢期は過ぎている。
いくら身体が弱くとも、カナリアが望むなら年相応の相手はいくらでもいるだろう。
自分のエゴで彼女の将来を邪魔してはならない。
頭では分かっているのに、仮にカナリアに求婚状が届いたとして、それを良かったなと笑って祝えるのか。平常心で傍観出来るのか。
いつものように兄然として背中を押してやれるのか。
いや……出来るのか、ではなくするのだ。
カナリアの可能性を、幸せを、自分が奪ってはならない。
そう自分に言い聞かせるように何度も何度も心の中で繰り返した。
人の輪の中心で可憐に微笑むカナリアを見つめ、胸のずっとずっと奥の方がズキズキと病んでいるのに気付かないフリをし続けた。
その時はまだ知らなかったのだ。
この数ヶ月後、アズベルトの両親が事故で他界する事を。
その事が一つのきっかけとなって、リアの病状が悪化することを。
数年後取り返しのつかない事になる事を。
この時はまだ、誰一人知る由もなかったのだ。
扉をノックする音が響く。一呼吸の後、中から返事が聞こえ、そっと扉が開かれた。
開けてくれたのはカナリア専属のメイド、ナタリーだ。
アズベルトは彼女に促され、部屋の中へと足を踏み入れた。
ドレッサーの前のカナリアは今、アズベルトに背を向けている。最後の調整中のようだ。
彼女が身に纏っているのは夜会用のドレスで、レースがふんだんに使われた華やかな衣装だ。
カナリアが十三歳の誕生日を迎えたこの日、少女だったカナリアは一人の女性として世間に認識される事となる。
「カナリア」
アズベルトが声をかけると、カナリアがゆっくり振り返った。ふわふわの幾重にも重なったレースが揺れ、綺麗にメイクを施された可憐な笑顔がアズベルトに向けられる。
「アズ!」
「っ……」
いつもの可愛らしさは鳴りを潜め、今は誰が見ても思わずため息をついてしまいそうな程美麗な令嬢へと変身を遂げている。
心臓が痛くなるほど胸が高鳴った。
いつの間にこんなに素敵なレディになってしまったのか……。
ついこの間まで『アズ兄さま』と後ろをついて歩いていたというのに……。
カナリアは生まれた時から身体が弱く、家の中で過ごす事の多い少女だった。不治の病だと医者に言われたのは八歳の時だ。
貴族の令嬢は一般的に十三歳で社交界デビューするが、病気を理由にカナリアはそれを諦めた。
そんな彼女を不憫に思ったカナリアの両親と、家族ぐるみの親交があったアズベルトの両親が、ならば十三歳の誕生日パーティーを盛大にやろうということで今に至る。
屋敷には両親の友人やアズベルトの友人たちを招いた。おかげでかなりの人数である。
学院時代の友人であるレオドルドやゲネシス、ジルの姿もある。皆カナリアの為ならと時間を作って参加してくれている。
アズベルト同様カナリアを妹のように可愛がって来たレオドルドは「ぜひエスコートしたい」と言ってきたが、ここは譲れなかった。
譲らなくて良かったと心底思う。誰よりも先にカナリアの晴れ姿が見られて嬉しい。その反面、他の誰にも見せたくないと一種の独占欲のような感情まで芽生えてしまっている。
「お誕生日おめでとう、カナリア」
カナリアはクスクスと笑いながら、頬をピンク色に染めてはにかんだ。
「もう二回目よ。朝一番に言ってくれたじゃない」
カナリアが起床して直ぐに薔薇の花束とブレスレットのプレゼントを持っていった。
驚きに目を丸くし、嬉しそうに破顔する姿は本当に天使のようだった。
「そうだったな。……とても綺麗だ。よく似合ってる」
「ありがとう」
「体調は?」
「平気よ。アズとダンスするまでは絶対倒れないから」
「どうか無理はしないで」
「ええ」と嬉しそうに微笑むカナリアに向かって手を差し伸べる。
「行こうか」
「はい」
その手にカナリアの手が重なりきゅっと握った。
会場に入ったカナリアは、案の定集まった全ての人の視線を独り占めしている。
両親はおろか、昔から彼女をよく知るレオドルドもゲネシスも、数多の女性を見て来たであろうジルまで、驚嘆の眼差しで見つめている。
皆がカナリアの脅威的な天使っぷりに驚きを隠せないようだった。
やがて音楽が流れ、アズベルトはカナリアにダンスを申し込む。
嬉しそうに彼の手を取ったカナリアは、この日の為に少しだがダンスの練習もして来たと聞く。
ゆったりとした曲に合わせて身体を動かす程度に留めたが、それでも可憐で華やかだ。
今日の主役はカナリアだから、きっと多くの男性にダンスを申し込まれる事だろう。
体調を理由に断ってしまおうか。倒れたら困るからと、この曲が終わったら連れ去ってしまおうか。
そうやってあれこれ理由をつけたが、結局この細くて華奢な身体に自分以外の誰かが触れるのかと思うと、酷く不快に思えてならないだけだった。
「ここに座って待ってて。飲み物を取ってこよう」
「わかったわ。ありがとう」
休憩にと少し側を離れただけだったが、その僅かな間に囲まれていた。
今まで人と接する機会がなかったせいだろうか。少し困ったように眉尻を下げながらも、時折微笑みを浮かべ楽しそうに談笑するカナリアの姿が目に留まる。そんな姿が喜ばしい筈なのに何故だろうか、やけに不快に感じてしまう。
「これは直ぐにでも求婚状が届きそうだな、アズベルト」
「ああ……そうだな」
「兄としては複雑だな」
「兄……そう、だな……」
ゲネシスに言われたその言葉が、いつも自分がそう思っていた『兄』という立ち位置に、今はっきりと違和感を覚えた。
自分は兄だから。
兄としてずっと一緒に過ごして来たから。
違う。
そう思い込んでいただけだったのだ。
もうとっくに気付いていた。
幾度となく聞かされたカナリアの『大好き』が、アズベルトのそれとは違う事を。
カナリアの気持ちが一人の女性としての想いである事に。
だが、十四歳という歳の差がアズベルトにずっとブレーキをかけている。
カナリアは今日やっとデビュタントの歳。かたや自分は二十七、適齢期は過ぎている。
いくら身体が弱くとも、カナリアが望むなら年相応の相手はいくらでもいるだろう。
自分のエゴで彼女の将来を邪魔してはならない。
頭では分かっているのに、仮にカナリアに求婚状が届いたとして、それを良かったなと笑って祝えるのか。平常心で傍観出来るのか。
いつものように兄然として背中を押してやれるのか。
いや……出来るのか、ではなくするのだ。
カナリアの可能性を、幸せを、自分が奪ってはならない。
そう自分に言い聞かせるように何度も何度も心の中で繰り返した。
人の輪の中心で可憐に微笑むカナリアを見つめ、胸のずっとずっと奥の方がズキズキと病んでいるのに気付かないフリをし続けた。
その時はまだ知らなかったのだ。
この数ヶ月後、アズベルトの両親が事故で他界する事を。
その事が一つのきっかけとなって、リアの病状が悪化することを。
数年後取り返しのつかない事になる事を。
この時はまだ、誰一人知る由もなかったのだ。
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