異世界で料理を振る舞ったら、何故か巫女認定されましたけども——只今人生最大のモテ期到来中ですが!?——(改)

九日

文字の大きさ
66 / 68
第3章

4話―今度は精霊まみれの少女がおりました。

しおりを挟む

 ガキン!! バキィ!!

 只今何やら物騒な音が響いておりますが。
 三回目の野営地にて、シャルくんとルーベルさんが実戦形式の訓練中です。
 アルクさんもそうでしたが、隊長さんって容赦ないですよね? まぁ……命を守る為の訓練だから手なんか抜かないのだろうけど、それにしても見てるこっちがハラハラしてしまう。
 今も、シャルくん軽くボコられてます。素人だから私にはそう見えているだけかもですが、ルーベルさんの木刀が湾曲して見えます。剣筋がおかしな事になってます。シャルくんも受けてはいるけど、三回に一回は体に直撃してますね。本当に三回に一回かも微妙なところですし、アレ受けられるのもおかしくね? とも思いますが。
 体中アザだらけになりそうだなぁと思うけど、シャルくんは魔法で防御壁を常に展開しているとかで、対したダメージにはならないのだそうです。
 にしても、その音を聞いているだけで、私は体震えますけど。
 そして彼らは平然と言うのです。「大丈夫、慣れてるから」と。

 そして、彼方ではハワード様の放つ水の矢を、レンくんが避けたり弾いたりしている。
 ハワード様にとっては魔力についての持久力、装填速度の向上、瞬時に矢に込める魔力に強弱をつける訓練なんかになるようだ。
 レンくんはレンくんで訓練になっているらしいけど、ソラの説明が難しくてもう覚えておりません。
 私の目には矢自体見えませんが、この人達の動体視力って一体どんな構造をしているのでしょうか?

 そして、此方には地面に倒れ込むように転がる十人の騎士の皆さんと、優雅にお茶を嗜むアルクさんが。
 先程まで訓練してたのですが、この様子だとどうやら強制終了したようですね。皆さん起き上がれますか? と心配になる程、全員はぁはぁ言ってますけども。
 アルクさんの、汗ひとつかかず、息ひとつ乱さず、美しく優雅にカップを口に運ぶ様はもう芸術の領域です。

 男の子は元気一杯ですねー(棒読み)。

 ここでひとつ、新たな真実が明らかになった。
 普通の人って『聖剣』扱えないらしい。
 諸々の事情を考慮しても私が一番普通だと思っていたのに、女神様の魔力を宿した聖剣を扱えるのは、女神様の魔力を有する人間だけなのだそうだ。
 さっきシャルくんに「聖剣預かって」と言われたのだが、食事の準備中だったし、近くにいた騎士さんにお願いしたらそれら事実を教えてくれた。因みにその騎士さんが触ろうとすると、手が聖剣をすり抜けておりました。別の騎士さんは「え?  岩持ち上げてんの?」って突っ込んじゃうくらい重そうな顔してて、結局持ち上がりませんでした。
 私が持ってもずっしり重たくて、とても振り回せそうにはない。そう言ったらシャルくんに、「それはただ単に、えみに剣を振るうだけの筋力が無いだけだと思うよ」なんて笑われましたけども。
 そう言う大事な事は、先に言っておいて欲しかったよね……。
 道理で、選定の儀の時に私が聖剣を手にしてざわざわした訳だ。
 夜会で教会の面々に会わされた時なんて、全員平伏する勢いだったからね!?
 やっとその意味がわかった。と同時に自身が普通では無かったのだと再認識させられて、ダメージ半端ないですけども……。


 そんな元気いっぱいの男の子達を余所に、私はといえば晩御飯の準備の最中だ。
 連日こんな風にボロボロになるまで訓練するので、メニューを考えるのも大変だ。ただ疲労回復や滋養強壮に考慮した結果、翌日には皆さん体がぴんぴんしてるようなので、ある程度の効果は見られるようだ。魔力もしっかり回復出来ているみたいだし、私の役割のひとつはきちんと果たせているみたいでホッとしている。
 精霊達はあれから見た目に変化はないものの、魔力の質はぐんぐん上がっているとソラが言っていた。
 取り敢えずは今のままでいいのかな。なんてったって正解がわからん!

 因みに今夜のキャンプ…もとい野営飯は、魚介を使ったパエリアと、焼き肉のタレで作るジャージャー麺、スパイスを利かせたケイジャンシュリンプに、サラダ。後はワサビちゃん特製の疲労回復ハーブティーに、おやつで焼きリンゴだ。
 主食多めだけど、体を酷使する彼等には丁度良いらしい。
 味見と称して既に焼きリンゴを三つ程平らげたワサビちゃんが、地面にへばりついている騎士の皆さんに冷たいハーブティーを配って歩いている。笑顔が可愛くて良く気が付くワサビちゃんは、若い騎士の間で密かに人気があるらしい。レンくんがこっそり教えてくれた。
 アルクさんの部下の皆さんにワサビちゃんを泣かすような輩はいないと思うが、なんとなく心配になってしまうのは母性からだろうか。
 出産どころか結婚もしていないけれど。なんならワサビちゃん、精霊だけれども。

 毎回騎士の皆さんがしっかり石で即席コンロを組んでくれるので、とてもありがたい。流石野営慣れしているだけあって手際も良い。
 ワサビちゃんがいてくれるから下処理もする事ないし、私のやることと言ったら本当に作るだけ。
 そして訓練を眺める。
 後はソラのブラッシングと、皆さんとおしゃべり。
 最近はワサビちゃんが夜でも起きていられる時間が長くなってきたので、晩御飯後の自由時間で騎士の皆さんに囲まれている事が多い。
 この間なんて「ワサビちゃんはどんな男がタイプ?」なんて聞かれているところをたまたま目撃した。たまたまですよ!?
 そしたらワサビちゃんは「優しくて、頼もしくて、ホルケウ様より強い方がいいですぅ」なーんて、萌え萌えの笑顔でぶちかましていた。
 ……それ、最早勇者と魔王以外に、地上には存在しないよね。そもそも精霊だから、基準がおかしいのは仕方ない……のか?
 騎士くんが可哀想すぎて、そっとその場を離れました。

 そんな事を思い出してニヤけていると、レンくんとシャルくんがやってくる。訓練が一段落したみたいだ。こちらもそろそろ出来上がるし、丁度いいタイミングだ。

「えみ、何笑ってんの?」

 タオルを首に巻いたシャルくんがこちらを覗きこんでくる。

「ちょっと思い出し笑い」
「思い出し笑いって、行き遅れの始まりらしいぞ」

 レンくんがグサリと胸を貫通する言葉の棘を投げ付けてくる。
 それって「夜に口笛吹いたら蛇が来る」とか、「ご飯残したら勿体無いおばけが出る」とか、そう言う事かな!? こっちの世界のおばあちゃんの知恵袋的な事だよね!? 迷信でしょ!?

「何それ!?  すっごい理不尽!!」
「実際そうなんだから気にする事無いって!」

 ケラケラ笑いながらシャルくんがトドメを刺してくる。
 ……確かにそうなんだけどさ。

「……すっごい不本意」

 釈然としない。
 にしてもこの二人、いつの間にか息ぴったりになっている。その事は嬉しかったが。
 ……やはり釈然としない。




 その後は魔物の群れに出会す事もなく、王都を出発して四日目の夕方。私達は無事に目的地『イーリス』へ到着した。予定よりも一日早い到着だった。
 私達が通って来た南門は普段通りの街並みだったが、北門へ向かうとそれは一変した。森が隣接するそちら側では建物が幾つも崩れ、瓦礫の山が築かれている。
 防衛の要である門の修繕はほぼ終わっているようだったが、民家や商家は途中だったり未だ手付かずだったりと、思うように復興が進んでいない印象だ。ここへ来た先遣隊が到着してから一月程は経っている筈だ。それなのに、一体どうして……。

「……酷い」

 その日何が起こったのか……想像するのも恐ろしかった。
 シャルくんは自分の村が襲われた時の事を思い出しているのか、怖い顔で黙っている。

「それでもよくこれだけの被害で済んだな……」
「この辺りまでで被害が食い止められていますね。……何か理由があるようですが」

 ハワード様もルーベルさんも解せないといった様子だ。
 確かに群れの襲撃を受けたと聞く割には、街のとある場所から中心部にかけての被害が一切見受けられない。門と門に近い建物だけの被害で済んでいるのだ。

「とにかくウォルフェンさんと合流しましょう」

 アルクさんの言葉に皆んなが頷き、第一師団が拠点にしているという宿屋へ向かった。



 久しぶりに会ったウォルフェンさんは、やっぱり大きくてムキムキで豪快だ。「またお会い出来て嬉しい」と握られた手がじんじんしている。
 奥さん小さくて美人らしいけど、本当かな? 勝手なイメージで握り潰されてしまいそうだけど大丈夫なのかなぁ?
 そんな余計な心配を余所に、団長様方とハワード様、シャルくん、レンくんがテーブルを囲んだ。
 美しい人達は、もうその場にいるだけで違う。存在自体が別格なのだ。
 普段ならエールがなみなみと注がれたジョッキを片手に、野郎どもが談笑するような大衆向けの宿屋の食堂が、一気に華やかさを増し、雅な場所と化す。
 それはそれは絶美な様に、宿の女将さんと並んで感嘆のため息をついてしまう。

「美しいねぇ……」
「本っ当に……」

 もしもスマホが使えたなら、軽く数十枚は写真撮ってる。勿論連写機能を使用して。一番良いショットは絶対逃さない自信がある。
 あぁ……マジ尊い。
 ソラが盛大に溜め息をついているが聞こえない。

「お待たせしましたー」

 可愛らしい声と共に、奥から大きなトレーで飲み物を運ぶ少女がやって来た。女将さんの娘さんらしい。

「「「!!??」」」

 その姿を見た瞬間、全員が固まった。正確には、魔力持ち全員が固まった。
 少々ぎこちない営業スマイルで、ひとりひとりにグラスを配るその少女は、見事なまでに精霊まみれだったのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください

シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。 国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。 溺愛する女性がいるとの噂も! それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。 それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから! そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー 最後まで書きあがっていますので、随時更新します。 表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。

【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。 地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。 「――もう、草とだけ暮らせればいい」 絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。 やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる―― 「あなたの薬に、国を救ってほしい」 導かれるように再び王都へと向かうレイナ。 医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。 薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える―― これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

処理中です...