異世界で料理を振る舞ったら、何故か巫女認定されましたけども——只今人生最大のモテ期到来中ですが!?——(改)

九日

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第3章

5話―まさかの『うどん』発見しました!!

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「……これは……」
「……また何と言うか……」
「……面白い光景だな……」

 レンくん、アルクさん、ハワード様の順に言葉を発すると、各々が固まっている。視線の先には皆んなにグラスを配る少女の姿がある。

「シャルくんもこんな感じでしたよ?」
「ああ」
「「「えっ?」」」

 恐らく予想と違ったのでしょう。彼らはもっとこう、神々しいのを想像していたのだと思う。
 現実は違う。
 精霊達は少女、マーレの体にことごとくへばりついているのだ。所狭しと。
 精霊が見える人にとっては衝撃映像の為二度見ものだが、見えない人にとっては一切支障はない。現にウォルフェンさんとルーベルさんはいつも通りグラスを傾けながらお話中だ。
 きっと煩わしいだろうに、マーレはそんなの関係ねぇとばかりに仕事をこなしている。流石宿屋の娘。そのプロ根性に頭が下がります。

 ひとつ気になったのは、彼女にまとわりついている子達が白い光を放つ精霊ばかりだと言う事。
 ソラに聞けばおかしな事ではないらしい。逆に四属性全ての精霊が付いている方が稀なのだそうだ。
 そりゃそうか。でなければ、勇者様が沢山いる事になっちゃうものね。
 あんな規格外がそうそう居てたまるものですかとそちらを見れば、シャルくんがマーレとお話中だった。コミュ力まで高い勇者様は、もう既に同じ歳だと言う事を聞き出したようで、「敬語なんか止めろよ」となかなか難しそうな事を言っている。
 マーレにとってみれば、相手は今日会ったばかりの、しかも『勇者様』ですよ?
 緊張のせいか、シャルくんの美貌のせいか、うっすら頬を染めて俯きがちな彼女を哀れみを込めて見つめる。

 ◇  ◇  ◇

 三人の硬直が溶けて衝撃映像にも慣れた頃、ウォルフェンから今の状況について説明がなされた。
 支援物資は持って来ており、追加分も届いている。勿論資材もある。それと同時にある程度の人員も確保出来ている。それなのに何故復興が思うように進んでいないのか。

「定期的に魔物の襲撃を受けているのです」
「「「!?」」」
「防衛の要である門を破壊される訳にはいかず、そちらの防護へ騎士団の戦力を回しています。……ですが、守り切るには限界があり、襲撃を受ける度に修繕へ職人達を取られてしまい、街の復興に人員を回せないのが現状なのです」

 聞けば、ほぼ毎日のように群れでの襲撃があるのだという。時間が決まっている訳ではなく、昼間の事もあれば、夜の事もある。しかもある程度破壊すると撤退していくのだそうだ。魔物の動きとしては不自然すぎた。

「統率されてますね。上位種がいるとみて、まず間違いないでしょう」

 ルーベルの言葉に皆同じ事を思っていたようだ。

「やはりそうか……」
「此方の消耗が目的ではないかと。上位種それを確認した訳ではないのですか?」

 ルーベルの疑問にウォルフェンは首を振った。

「自分がここへ来てからはまだないな。……ただ」

 言葉を切ると、一瞬だけえみと共に少し離れた席へ着くマーレへ視線を流す。

「狙いは分かってる」

 その意味を理解した彼らの顔が変わった。

「何故言い切れる?」

 えみにはわからない程度に声のトーンを下げたハワードに、ウォルフェンがしっかりと視線を合わせた。

「目撃者が何人かおりました。襲撃のその日、奴等の狙いは明らかだった、と」

 膝の上で固く握られたシャガールの拳が僅かに震える。
 隣に座っていたレンには、わざわざ目視するまでもなく、シャガールから滲み出る魔力でそれに気付く程だった。

「駄々漏れてんぞ」

 えみの心の声ばりに漏れ出した魔力からは、グツグツと煮えるような怒りを感じたのだ。恐らく無意識だったのか、レンが指摘すると直ぐにそれは収まった。

「それともうひとつ、俄には信じがたいのですが……」

 今でもその目撃証言が本当かどうかが分からない。極度の緊張状態にあった民衆の話だ。ウォルフェンは多少脚色されていると読んでいるが。

「襲撃の当日、旅の者が街を救ったそうなのです。一人の女性が、門を破壊し街へ雪崩れ込もうとした群れと民の間に結界を張り、奴等の猛攻からイーリスを護ったと」
「ほぅ……」
「それが事実なら是非勧誘したいが」

 ルーベルとアルクの言葉に、ウォルフェンは軽く首を振った。

「それが、その後彼女の姿を見た人間がいないのだ。もうこの街にはいないのではないかと」
「それは残念ですね。是非お会いしたかったのに」

 ルーベルの台詞とは思えないそれに、ウォルフェンは瞠目したまま凝視している。その様子に、ルーベルが僅かに目を細めた。

「なんですか?  その顔は」
「いや……お前の口から女に会いたかったと言う台詞を聞く日が来ようとは……」

 失礼なと思ったが、ルーベルは口に出さなかった。此方へ向けられた視線の全てが、ウォルフェンと同じ意味を持つと悟ったからだ。

「群れの殲滅は絶対だな」

 そう結論付けたハワードに、レンが口を開いた。

「近くにいますよ。恐らく上位種も。北門の向かいの森から気配を感じます」

 ハワードが両隣のアルクとルーベルを見たが、二人とも首を振った。団長二人には分からないと言う事だ。
 が、獣人としても覚醒したレンには確信があった。気配も臭いもちゃんとする。まるで早く気付けとでも言わんばかりの絶妙な魔力の漏れ具合。

 いや違うな。気付けるものならやってみろの方が正しそうだ。

 その話にソラも頷き、準備が出来次第群れの殲滅へ向かう事が決定したのだった。

 ◇  ◇  ◇

 男性陣が話している席から少し離れたところで、私はマーレと机を囲んでいた。ワサビちゃんも一緒だ。

「この子精霊なの?」
「はい。ワサビと言います」

 信じられないといった様子で目をぱちくりしている。
 十五歳の女の子らしく、肩までの青い髪は丁寧にとかされ、肌も唇も艶々だ。こちらへ向けられたスカイブルーの瞳がまた美しい。
 ハインヘルトさんのような深い青色の髪は見た事があったが、マーレのような綺麗な空色の髪とお揃いの瞳は初めてだ。シャルくんのとも違うその色は、マーレの清楚な雰囲気に良く合っていて本当に可愛らしい。

「ご飯食べてただけなんだけどね。おっきくなっちゃって」
「へぇー、精霊ってご飯食べるんだね」

 驚く所はそこらしい。おっきくなった所は綺麗にスルーされた。
 マーレの肩には三人の水の精霊が乗っている。大きさは手の平程度。出会った頃のワサビちゃんくらいだ。さっきまではわらわら居たのだが、今居るのはこの子達だけだ。常に側にいる子達なのだろう。
 因みにマーレは側にいる精霊が食事をするところを見た事がないそうだ。本来は自然界から魔力を貰っているのだ。食事の必要はないのだろう。本来は。
 私の周りの子達が他と違うだけなのだ。

「マーレはいつからこの子達と?」
「うーん、いつからかなぁ?  気付いたら一緒だった気がする」
「いつもあんなに精霊まみれだと、大変じゃない?」
「全然。むしろ話し相手になってくれて楽しいよ。皆んな好き勝手話すから、たまにうるさいんだけどね」

 確かに出会ったばかりの頃、シャルくんも「こいつらうるさい」って言ってたっけ。

「この子達に名前はあるの?」

 それを聞くと、マーレはふるふると首を振った。

「名前はつけちゃいけないって言われてるから」
「そっか。私なんて出会って二回目でワサビちゃんって呼んでたよ。契約の事、知らなくてさ」
「ええっ!?  よく怒られなかったね」

 苦笑い。

「そこはアルクさんとハワード様が頑張ってくれたみたい」
「……良かったね。……怒られなくて」

 マーレは色々と察してくれたらしい。良い子だ。
 私達にも物怖じせずに接してくれる。肝が座っているというか、この年齢にしては落ち着いているというか、さすが宿屋の看板娘だ。
 私達の目的の一つが炊き出しをする事なのだと伝え、この街の名物を尋ねると「とっておきがあるよ」と食堂の奥の方へ入って行ってしまった。
 しばらく待っていると、大きなトレーに丼のような大きな器をいくつか乗せたマーレが戻って来る。

「これぞ、イーリス名物『ウードゥム』です!!」
「!! こ……これは……」

 目の前に置かれた器の中には、透明なスープに浸かったまさしく『うどん』が! 私にはうどんとしか聞こえなかった。
 異世界ここに来て初めて、自分の故郷の慣れ親しんだビジュアルの登場に興奮してしまう。
 がしかし! 食べて爆上がったテンションは、まぁ下がりましたよね。知ってるうどんだと脳ミソが思い込んでしまったのが悪かった。
 よって、一生懸命作ってくれた女将さんとマーレが悪い訳では決してない。
 食べられるんだよ? でも味が無いの。
 このビジュアルで来られたら、絶対出汁利かせてあるタイプだと思うじゃないですか!
 味が無いの!
 素うどんなんて、麺を楽しむ為にあるんだって期待しちゃうじゃないですか!!
 味が……無いの……

「えみ。なんとかしろ」

 ソラに言われてスックと立ち上がる。
 巫女の名にかけて、このままで済ませられる訳がない!

「ホルケウの命令なんで、厨房貸してください!!」

 え? 巫女が台所立つの? マジで?
 みたいな顔されましたがスルーします。
 女将さんとマーレに見守られながら、ついに私はワサビちゃんと共に、宿屋の戦場へと足を踏み入れたのだった。
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