異世界で料理を振る舞ったら、何故か巫女認定されましたけども——只今人生最大のモテ期到来中ですが!?——(改)

九日

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第1章

第一章完結記念番外編②——独りぼっち

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 目を開けるとそこは知らない世界だったのです。

 いつの間に眠っていたのでしょうか。そよそよと揺れる寝床から体を起こして辺りを見回してみたのですが、全く見覚えの無い場所でした。
 目を閉じるまではミランツェ様のところにいた筈なのに。
 目を覚ますと上は青くて白いふわふわした物が散らばっていて、寝床は緑で、下は茶色でした。
 色のある世界。
 ここがミランツェ様が創造した世界なのだと、そこで初めて気が付きました。
 その時はここで何が起こるのか、これからどんな事が待ち受けているのか、名も無い一精霊の私でもワクワクドキドキしたのです。


 目が覚めて直ぐ、風の聖獣様がこの世界について教えてくださいました。お姿は見えませんでしたが。
 私が寝床にしていたのは『葉』で、葉を沢山つけた大きな茶色が『樹』。上の青は『空』、白いふわふわが『雲』。下の茶色は『土』。
 知識としてあったそれらは、初めて目で見て感じて、ようやく私の中で知識として認識されていきました。その感覚が嬉しくて楽しくて、それから色んなものを見て感じて覚えていきました。

 ホルケウ様は相変わらずお姿を見せてはくれませんでしたが、精霊としてこの世界に落とされた私の役割も教えてくださいました。
 世界の循環を管理しその補助をする事。
 んー……ちょっと難しくてよく分かりませんでしたが、とりあえずお腹が空いたらその辺から魔素を貰えと言われました。
 でもどういう訳か、私のお腹は自然から貰う魔素だけでは全然全く足りなかったのです。
 いつもお腹が空いていて、全然満たされる事が無いのです。
 それにどこに行けば会えるのか、他の精霊が全く見当たりませんでした。
 女神様のところには他に沢山仲間がいて楽しかったのに、ここでは独りぼっちなのです。
 お腹は空くし、寂しいし、心細しでいつしか私は帰りたいと思うようになりました。

 そんな時、どこからか良い匂いがして来たのです。
 いてもたってもいられず向かった先が人の住む家で、とっても楽しそうに料理をするえみ様を見つけたのです。
 えみ様が作るご飯はどれもとっても美味しそうな匂いがしていて、私のお腹は鳴り止まなくなってしまいました。
 本当はいけないのに、厨房にお邪魔して目の前にあった果物を食べちゃったのです。
 それがとっても美味しくて、その味は今でも覚えてます。
 食べてるところをえみ様に見つかった時は、びっくりして思わず隠れてしまいました。
 その次の日も忍び込んで果物を食べました。食べた時はお腹もですが、寂しい気持ちが少しだけ満たされた気がしたのです。
 だから直ぐにまた欲しくなって、朝が早ければ見つからないと思いました。
 そう思ったのですが、何故かえみ様がいて、自分に話し掛けて来たのです。
 まず私の姿が見えている事に驚きました。人間の中には稀に精霊が見える人もいるらしいけれど、まさかそんな人間に出会えるとは思ってもみなかったのです。
 そして美味しそうな匂いの『マフィン』をくださいました。
 すっごく良い匂いで、我慢が出来ませんでした。食べたらとってもとっても美味しくて、気がついたら無くなっていました。
 しかもしかも、初めてお腹が膨れたのです! 魔素がたんまり入っていて、その魔素がなんだか懐かしい感じがしました。それにとっても優しい味がしたのです。
 えみ様からは女神様の匂いもして、本当に美味しくて、寂しくて、嬉しくて、悲しくて……涙が出そうになりました。
 名前の無い私に名を下さると言い、お友達になって欲しいと言ってくださったのです。
 その言葉が私には何より嬉しくて、心を癒してくれたえみ様のお側にいたいと、そう思ったのです。それを強く願ったら、自然とえみ様にキスをして私の魔素をお返ししてました。
 あれが契約の儀だという事は後から知りました。


 ワサビ
 これが今の私の名前です。
 私はえみ様の為に、えみ様のお役に立てる精霊でいたいのです。
 だからホルケウ様との訓練も頑張ります! いざという時にお守り出来るように。
 いつか一緒に料理が出来るといいなと思うので、風魔法の訓練も頑張ります。
 私の身体がもっと大きくなれば、もっともっとお手伝いが出来るのに。
 もっともっと美味しいご飯が沢山食べられるのに……。あ、こっちが本音です。
 でもでも一緒に料理が出来たら良いなと思ってるのは本当ですよ。ただ食いしん坊なだけではありません!
 だから沢山食べて、沢山訓練して、沢山食べて、沢山寝るのです。
 いつまでもお側にいられるように。
 いつでもお役に立てるように。
 えみ様の美味しいご飯を食べる度に、ワサビは改めてそう心に固く誓うのです。
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