フラれたので倫敦で魔女の助手始めました

橘川芙蓉

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緑の紅玉

28.宝石の正体について

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「その気持ち悪いのは何?」
 
 あまりの気持ち悪さに私は両手をスカートの腿の辺りに擦り付ける。マリアが右の眉を高くあげて意味ありげにこちらを見ている。
 
 あ、分かった。
 
「表に出てきてはいけない幻想の品物ってこと?」
 
「そうね。もうちょっとよく調べてみる必要があるけれど、こんなものどこから持ってきたのかしら」
 
 マリアは気味悪くないのか、机の引き出しからルーペを取り出して宝石を観察している。表に裏に角度を色々変えてじっくりと念入りに見ていた。
 
「それ、何なの」
 
「詳細なことはわからないけれど、どういったものに利用するのかということなら答えられるわ。タリスマンにするために使うの」
 
 タリスマンとは魔術的なお守りでマリアも依頼されて作ることがあるようだ。最もこんなふうに不気味な石を使って作ることは最近はしていないと言っていた。
 最近……?と気になることをマリアは言っていたが、ここで深く考えると闇の底に突っ込んでいきそうなのでやめておくことにした。
 
「これが何でできているか調べて欲しいんだけど、できそう?」
 
 一人用のソファに腰掛けているジェームズにマリアはペリドットを渡した。ジェームズも気持ち悪がらず受け取っている。
 気味悪くないの?
 
「これだけ立派な物が無くなったらどこかで話題になっていそうな物だが」
 
 ジェームズは先ほどの私と同じようにペリドットを太陽の光に透かしてみている。
 
「中に入っているのはエルフかニンフか?」
 
「ニンフ……と言いたいところ。そこらへんも詳しい人に調査してほしいの」
 
 何でも知っていそうなマリアでも知らないことがあるようだ。知らないというより確証が得られないって感じかな。
 
「それはこちらMI6で調べるとしよう。それでは失礼する」
 
 ジェームズは来た時と同じように一礼して帰っていった。先ほどフラットにやって来るなりマリアが件のペリドットを渡して話をしたのでジェームズの要件は何も聞いていない。元々ジェームズが用があってこちらに来るとマリアが言っていたはず。

「ジェームズの用件を聞かなくてよかったの?」
 
「ジェームズはクリスマスプレゼントの需要を確認しに来ただけよ」
 
「何も聞かれてないけど?」
 
「十分調べられたから、尋ねる必要がなかったんでしょ」
 
 え? えっ、どういうこと?
 
 私の頭の中が疑問符で埋まりそうだ。誰にも何も聞いてないけれどクリスマスプレゼントの需要が分かったの?
 ジェームズってエスパーとか心の中を読んだりとかそういう力があったりするとか。
 
「ジェームズは、エスパーじゃないわ。ドラゴン族よ」
 
 マリアこそ、私の心の中を読んでいるみたい!



 調査結果はすぐに出た。というか、マリアが強引に出させた。明日の夜はクリスマスパーティーだし、週末は日本へ行く。事件解決に割り当てる時間がいつもより少ないのだ。
 マリアの厳しい取り立ての犠牲者になったのは、正真正銘、秘密情報部の職員であるレイ・ラッセル・キューザックだ。
 秘密情報部の本部ではなくレイのフラットへ押しかけた。彼は、こういう調査には向いていて、ジェームズが依頼するならここだろうとマリアは当たりをつけてやってきたのだ。
 レイは綺麗好きなのだろう。掃除が行き届いて整理整頓された部屋にパソコンとモニタが何台も並べられている。最初は嫌がっていたのに、マリアの口八丁に踊らされて休暇中のレイは、あの妖精入りの宝石を分析している。
 
「よくこんな物見つけましたね」
 
 天然パーマなのかふわふわの黒髪をかき上げながらレイは言った。青い瞳に髪色と同じ黒縁の眼鏡。インテリっぽい。
 
「七面鳥の体内から出てきたの。クリスマスプレゼントよ」
 
 気の利いたジョークだと思ったのか、レイは笑ったが私もマリアも真顔だったのですぐに笑みを引っ込める。
 
「本当に?」
 
「本当。オーブンで丸焼きしようとした七面鳥から出てきた」
 
「すぐにその肉屋を捕まえたほうがいいかもしれないですね」
 
 レイはモニタに映し出した宝石の分析結果を指した。
 
「宝石のように見える部分は、大半が樹脂でできています。問題は、中身。これは本物ですよ」
 
 あの宝石の中の人らしきモノについて、地球上のあらゆる動物の骨格の特徴と一致させようとしたがどれも一致しなかった。かろうじて、人の骨格に近い。もし、人が五センチぐらいの大きさになれば、骨格が一致するだろうと思われた。
 
「よくできたミニチュアならいいんですが。こっちの資料を見てください」
 
 レイがパソコンを操作して、画像付きのデータを表示させる。そこには、宝石の中にいた人とよく似た特徴を持つ人らしき者の画像があった。
 
「ニンフのデータと一致」
 
 幻想動物と言われる「現実には存在しない生き物たち」の骨格や生態、特徴などをデータベースで秘密情報部で管理している。レイはそのデータにアクセスして、宝石の中身の人物と骨格や特徴の共通点を分析したのだ。
 
「誰がやったか知りませんが、ニンフを捕まえて樹脂の中に入れて固めるなんて悪趣味です」
 
「え? 中に入れて固めたの?」
 
 思わず声を上げてしまった。「虫入り琥珀」みたいにして自然に作られた物かと思っていたら全然違った!
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