フラれたので倫敦で魔女の助手始めました

橘川芙蓉

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緑の紅玉

29.名字の頭文字はQ

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 詳しい調査結果は、レイがマリアにメールをすることになった。宝石部分の樹脂の成分とかどうやって作られたのか、とか。
 レイはそういう情報の分析が得意みたい。
 
 よかった。ずっと話を聞いていたらあれ以上におぞましい何かを聞かされそうだ。
 
「彼は、キューザックという苗字で諜報部員なの」
 
 マリアと二人で並んで通りを歩く。レイの家を後にして、あの宝石を手に入れた肉屋へ行くところだ。意味ありげにマリアが私を見る。
 
 諜報部員、苗字の頭文字がQってことはもしかして。
 
「え? Qなの? 」
 
 Q課という部署がスパイ映画で出てくるけど、あれは需品係将校の頭文字で登場人物の頭文字ではない。いや、でもMは苗字の頭文字からきているようなことを示唆していた。
 ジェームズのこともあるし、単なる偶然で私のことを揶揄っている可能性も捨てきれない。
 
 私は真実を見抜こうとマリアをじっくり見るけれど、彫像のように整った顔があるだけだった。顔色ひとつ変えない。
 
「そんなに見られると、流石の私でも穴が開くんじゃないかと思う」
 
 横目で私を見て言った。言っている割には全く恥じらっていないし、マリアはあまり感情の起伏がなさそうだ。
 
 
 私やマリア、スミスさんが利用している肉屋はコヴェント・ガーデンにある。お得意さんというわけではないけれど、スーパーで買うよりもお肉が美味しいから大抵はここで購入している。
 行列ができるお店というわけではないが、繁盛はしていて学生アルバイトが数名働いている。肉の部位も豊富に揃っていてほとんどのお客さんは肉の塊で買っていく。
 間口は狭くて奥に細長い昔ながらのお店だ。街の人気のお肉屋さんのイメージそのものだが、今日は少し様子が違った。
 お店の前には警察の車両が停車している。お店は臨時休業のようでシャッターが降りている。張り紙がお店の入り口に貼られていた。
 
「何か、あったのかな」
 
 マリアと二人で不思議そうに顔を見合わせる。流石のマリアもこの状況で何が肉屋で起きているのかわからないみたいだ。  
 
 
 肉屋の裏手にある従業員用の出入り口から出て来たのは、スコットランド・ヤードの警部であるエイドリアン・セイヤーズ警部だ。他にも何人か一緒にいるので肉屋の主人に聞き込みをしていたのかもしれない。
 
「マリア、ナオ、なぜここに」
 
 マリアは狼狽えたように声をかけてきたセイヤーズ警部を見逃さなかった。
 
「あら、ここは良く利用している近所のお店だわ。エイドリアンこそ、事件かしら」
 
 殊更、マリアは「近所」という言葉を強調した。近所なのだからここにいてもおかしくないというのだ。それではないセイヤーズ警部がいることの方がこの肉屋で何かがあったことを知らせていた。
 
「どうせ夕刊に載るから言っておく。ここの店のバイトが殺された。俺たちは聞き込みにきたんだ」
 
「強盗ではなく怨恨での殺人?」
 
 マリアは素早く周囲に目を走らせてセイヤーズ警部を見た。私も同じように周囲をキョロキョロしたけれど肉屋が閉まっているのを不思議そうに見て、次にマリアの美貌に驚いて立ち去っていく通行人ぐらいしかいない。

「お得意の推理ってやつか」
 
「あなた自身が語ったことよ。殺人現場がここなら規制線を張るはず。聞き込みをしたと言っていたから、バイトの就業態度や人となり、人脈などを洗いにきたのでは? とね」
 
 セイヤーズ警部は返事こそしなかったが、深いため息をついていたのでほぼ正解なのだろう。
 
「亡くなったのが昨日の夜から今朝ということであれば、多少の情報提供ができるわ。ナオが」
 
 マリアが突然私に話を振った。セイヤーズ警部からの強い視線を感じて私はたじろいだ。
 
「ナオは昨日の夕方この肉屋で七面鳥を買ったわ」
 
「……わかった。マリアの部屋に招待されよう」
 
 
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