マレカ・シアール〜王妃になるのはお断りです〜

9.二つの王の痣

　カタユーンは、ハマムにファルリンが入ってきたとき、砂漠に住む者バディーヤであると言うこと以外に思うことはなかった。王から、「変わった力の持ち主である」と聞かされていても、普通の少女にしか見えない。
　ハマムの使用人達があれこれとファルリンの世話をしている。ファルリンのターバンが外された。燃えるような赤毛が肩より少し長い程度まで伸ばされていて、少し巻き毛のためふわふわとしている。ここまで見事な赤毛は珍しく、使用人達も口々にファルリンの赤毛を褒めちぎっていた。
　ファルリンの服を脱がせるのを手伝っていた使用人の一人が、カタユーンに合図を送った。王の痣マレカ・シアールを見つけたのだ。
　カタユーンは、使用人が指し示した右側の鎖骨あたりにある痣を羊皮紙に描きうつした。伝承に残るとおりの形で王の盾マレカ・デルウであった。

　単なる王の盾マレカ・デルウの持ち主ということであれば、ジャハーンダールは、「変わった力の持ち主」とは言わないはずである。そもそも王の妃マレカ・マリカを持っていると言い張っている偽者たちをふるい落とす試験に加えず、さっさと王の盾マレカ・デルウであることを宣言すればいいのである。
　カタユーンは、絶対他に何かあるはずだと右手の指先を顎に当てて考え込んだ。
　すると、もう一人別の使用人が合図を送ってきた。すでにファルリンは服を脱ぎ終えて、サウナ室に入っている。

「私の見間違え出なければ、右側腰と臀部の境目あたりに、王の痣マレカ・シアールが」

　二回目に見つけたという合図を送った使用人が、カタユーンに報告をした。垢すりをしているときに確認するしか無い、とカタユーンは場所を移動した。

　ファルリンがサウナ室から出てきて、ハマムの使用人に垢すりをしてもらっている。ファルリンが大理石で出来たベッドの上で仰向けとなり、使用人が背中を専用の布で擦っていく。
　カタユーンは、ファルリン右側の腰と臀部の境目に視線を向けた。そこには、まごう事なき王の妃マレカ・マリカが宿っていた。