マレカ・シアール〜王妃になるのはお断りです〜

橘川芙蓉

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8.試験の開始

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 王宮内にあるハマムに向かったジャハーンダールは、王の痣マレカ・シアールの判定試験のための準備をしているカタユーンを探した。
 今、誰も利用はしていないが女性が利用する側にジャハーンダールは入り、うろうろとしているのでハマムの女性の使用人たちから白い目で見られている。
 ハマムの女性の使用人たちに指示を出していたカタユーンを見つけ、ジャハーンダールは声をかけた。

 ジャハーンダールの宮廷魔術師の格好に、カタユーンは、新緑色の瞳をわずかに大きくし、右眉をあげた反応だけだった。

「何か、ご用ですか?至らないところでも?」

 カタユーンは、ジャハーンダールの服装について言及せず、自分に与えられた役割について聞き返した。

「いや、カタユーンは良くやっている。一人、面白い娘を見つけたのだ。その娘の王の痣マレカ・シアールを確認したい」

「ハマムに入っているところをご覧になるのですか?」

「もちろん」

「……女になって出直された方がよろしいのでは?」

 神官長の辛らつな言葉に、ジャハーンダールもさすがに覗きは難しいか、と呟く。

「当たり前です。貴方の妻でも無い女性の裸なんて、簡単に見ていいものではありません」

「痣の形だけ確認したい。数日前、王都の西側で王の痣マレカ・シアールの力が働いただろう。おそらく、その娘だ」

「本人に尋ねたらいいのでは?」

「それが全てとは限らない。あの娘、痣以外の秘密がありそうだ」

「……そこまでおっしゃるのなら、私が確認します。痣の形を描き、お見せします」

「いいだろう。どんな文様だろうと正確に記して俺に知らせろ。その娘が変わった力を持っていることは俺もヘダーヤトも確認している」

 承知しました、とカタユーンは頭を垂れた。




 大広間に到着したファルリンは、自分は場違いな場所に来たのでは?とこの場所から逃げたくなった。
 どこかの夜会会場ではないかというぐらい、着飾った年頃の娘達が部屋を埋め尽くすほどいて、グループになって話をしている者も居れば、相応しいのは自分だと他の娘達にかみついている者も居た。

王の痣マレカ・シアールの持ち主がこんなにたくさん居たなんて)

 王の妃になりたいから、虚偽の報告をしてまで王宮にやってきた娘達がいるということをこれっぽちも考えていないファルリンは、感嘆した。

(しかも、綺麗な女性ばかりこんなに。あんな細腕の女性が戦場に出たらひとたまりもないわ)

 宝石を縫い付けてある貫頭衣カンドーラに身を包んだ女性達は、頭のてっぺんからつま先まで磨いていない場所は無いのではないかというほど整えられている。
 そんな光の洪水のようなところに、ファルリンはぽつんと一人で浮いていた。王都についてすぐに着替えたものの砂漠を旅してきたのでどことなく砂っぽい上に、持っていた服の中で一番上等な服も、遊牧生活だと砂っぽくなってしまっていた。
 あのように、結い上げた髪に金粉を散らしたり、爪が光るまで磨いたり、下に着ている布地が透けるほど薄い貫頭衣カンドーラなど身に纏ったことは無かった。

 着飾った娘達は、ファルリンと視線が合いそうになると目が合わないようにそらし、ファルリンの影で、ひそひそと噂話をし、あざ笑っていた。

「どこの田舎者が王の妃になろうとしてきたのかしら?」

「どなたか教えて差し上げるべきじゃ無い?王の妃は美人しか成れないのよ、って」

 ファルリンの耳に令嬢達の悪口が届いた。彼女は首の後ろに右手の平を当てて擦った。

(何故、私が王のお后様になりたいと思ったのかしら?王の痣マレカ・シアールを宿したからと言って、必ずしもお后様になるわけはないのに)

 ファルリンは疑問に思っても、誰かに答えてもらえそうに無かった。そんな中、一人の役人が大広間にやってきた。
 最初に、ハマムで湯を浴び、つぎにこの大広間で魔力の検査を行うと役人から説明があった。着飾った娘達は、不平不満を口々に申し立てていたが、役人の「陛下の命令だ」の一言で押し黙った。役人は、順番に娘達をハマムへと案内していった。ハマムから上がった女性達は、先ほどのような過剰なほどに飾り立てた姿では無く、深窓の令嬢というのに相応しい奥ゆかしさのある姿に変わっていた。
 ハマムから戻ってくる者、戻ってこない者などがいることにファルリンは気がついて、小首をかしげた。

(なにか、規則性がありそうだけど……?)

 ファルリンが規則性を見つけ出す前に、ファルリンがハマムへ向かう番となった。
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