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17.四阿での特訓
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ファルリンが王宮で近衛騎士として生活を初めてひと月が経過した。王宮での生活は慣れないことばかりで最初の頃は戸惑っていたが、メフルダードの助けによりだいぶ定住生活にも慣れてきた。
実践は抜群のセンスと力量を示すファルリンだが、どうにも座学が追いつかず、困っていたところをメフルダードが個人的に、毎日指導してくれているのだ。
二人がいつも集まるのは、中庭の人目につかないところにある四阿で、今日もファルリンはメフルダードが来るよりも早く四阿で待機している。この四阿は周囲に緑が多い茂っているため、恋人達の密会の場所として利用されていた。
最近ではメフルダードから呆れられることも減ってきてはいるが、ヤシャール王国に住んでいるとはいえ、異文化を持っていた砂漠に住む者であるために、ヤシャール王国人であれば知っているような、「常識」と言われるものが抜けていることがあった。
メフルダードは、呆れてため息をつくがそれでも丁寧にファルリンを指導した。メフルダードは、自覚していないことであったが、意外と人に教えるのは楽しいらしく四阿に居るときは、いつも楽しそうに口の端をあげていた。
「それで、今日はどこが理解不能だったのですか?」
仕事の合間だ、とメフルダードはやってきてファルリンの向かい側に座る。
「今日の座学は、以前教えて頂いたところでしたので、理解できました。今、勉強しているのは今度の演習の時の地形や参加者の資料を読んでいます」
どれどれ、とメフルダードはファルリンの持っている羊皮紙を覗いた。次に行われる近衛騎士の演習は宮廷魔術師との合同訓練で、ヘダーヤトとメフルダードも参加する。ファルリンが手にしている資料は、メフルダードも目を通したことがあった。
「砂漠での演習ですね。僕たち魔術師が多数参加するので、魔法の打ち合いになりそうですね」
ジャハーンダールが、気の優しい青年宮廷魔術師ヘダーヤトを最初に演じてしまったので、ファルリンと会うときは、いつも丁寧な物腰で話していた。
「そうなのですか?私たち近衛騎士の役割はなんでしょう?」
「魔術師は、魔法を使うのに呪文を唱えます。その間は隙だらけになるので、魔法使いを守るのが定石です」
「でも、メフルダードはあまり呪文を唱えませんよね?」
ファルリンはこの一ヶ月、メフルダードに色々な呪文をこの四阿で見せてもらったが、どれも簡単な指の仕草だけで魔法を使っていた。
「簡単な魔法は指の仕草だけで使えます。こういうのとか」
メフルダードは立ち上がって、ファルリンの頭上で両腕を広げた。何かを捧げるようにしていたメフルダード手のひらから、淡いピンク色をした花びらが舞い降りる。一枚、三枚、十枚、とどんどん数を増やしていき、花びらが雨のように降り落ちる。その花びらは、何かに触れると消えるようで、ファルリンが指先で触れると、跡形もなく姿を消した。儚く消えていく花びらに、ファルリンは簡単の息を漏らす。
「花びらがこんなに散って、夢みたい」
緑に囲まれることさえ楽園だというのに、美しい花を間近に大量に見れるのは、夢見心地だ。
「こういう魔法は演習では使えません」
「でも、素敵な魔法です」
「ありがとうございます。ですから、ファルリンは僕を守ってくれれば良いんですよ」
「メ……メフルダードをですか……!」
ファルリンは驚いた顔をして、ぽぽぽっと頬をピンク色に染めた。
ジャハーンダールは、その初心な様子を意外に思った。
(砂漠に住む者は、結婚が早いと聞いていたから、男慣れしているかと思っていたが、こんなに純真なのか)
図らずもジャハーンダールは、何も知らない乙女を口説いてしまったのがなんだか気恥ずかしく、ほんのりと顔を赤く染めた。
「メフルダードみたいに優秀な人から、そんなことを言って頂けるなんて、光栄ですけど、恥ずかしいです」
ファルリンの誇り高く嬉しそうな声に、ジャハーンダールは気分が落ち着いていくのを感じた。
(ファルリンめ、口説かれたから照れたのではなく、自分の近衛騎士としての力量を褒められたと思っているな……!俺の事が、好きとかではなく)
なんか悔しい、とジャハーンダールが内心で呟く。
「演習、頑張りましょうね。王の槍には負けませんから!」
ジャハーンダールは、ファルリンの両手をぎゅっと握りしめた。ファルリンは、とても気合いの入っているメフルダードに頷きながらも、内心で首をかしげた。
(メフルダードとピルーズは、仲が悪いのでしょうか?メフルダードは何かとピルーズを目の敵にしているし。ピルーズは、誰にでも人懐こい、いい人なんですけど)
メフルダードと四阿で座学の特訓を始めた頃、ピルーズにメフルダードを紹介したことがあったが、何故かメフルダードは、ピルーズに対して最初から不機嫌であった。俗に言う「相性が悪い」とか、そういうことなんだろうか、とファルリンは考える。
「任せてください。お守りします」
ファルリンは、メフルダードとピルーズの仲の悪さについて、考えるのを止めた。どう考えたって、友人の縁というのは本人がどうにかするしかないのだから。
演習の日当日、ファルリンはいつも着ている近衛騎士服の色違いを着ていた。今日は近衛騎士団と魔術団が二手に分かれて紅白戦を行うのだ。
相手チームには王の槍のピルーズがいる。ファルリンと同じチームには王の魔術師のヘダーヤトがいた。
王都の東側に広がる荒野で二手に分かれて簡単な陣取り合戦を行うのだ。
いつもの近衛騎士団の服装の色は、黒色を基調としているので、ピルーズの居るチームを黒、色違いの服装は赤色を基調としているのでファルリンの居るチームを赤とした。
赤の指揮官はファルリンである。指揮官は誰がやってもいいように、くじ引きで決められる。ファルリンは見事に指揮官のくじを引いた。
赤の陣地である赤色の旗が掲げられた櫓に登る。櫓は、戦場が見渡せる高さになっていて、ここから指揮をする。ファルリンは、参謀としてメフルダードを指名した。魔術師団の大将はヘダーヤトが行う。メフルダードとヘダーヤトにファルリンは、自分の作戦を説明した。二人は驚いていたが、やってみる価値はありそうだ、と最終的には賛成してくれた。
ファルリンは、赤のメンバーを集め出陣前に簡単に合図の説明をした。戦場で戦う者たちは、ファルリンの命令を太鼓を抱えた数名が鳴らす音で判断をする。ファルリンは、パターンを単純化し、「前進、全軍突撃、撤退」の三つだけにした。他の細かい指示は、伝令を走らせることにしたのだ。
「それと、魔術師団の方達も駱駝に乗ってください」
数名の魔術師が駱駝に乗ると騎乗に気を取られて、魔法が使えなくなると訴えた。
「そういう人は、後方の守備に当たってください。駱駝に乗っても魔法が使える人は全員駱駝に乗ってくださいね」
駱駝に乗って魔法が使えるのは、半数ぐらいのようだ。ヘダーヤトが、細かい部隊編成について指示を飛ばしている。
「それと、最初は前方防御の魔法だけに集中してください」
魔術師団の戦場での役割は、遠距離攻撃武器としてが主なようで、ファルリンはその役割を変えようとしていた。
「今回は、電光石火でいきます」
ファルリンの合図と同時に、開戦を告げる矢文を黒の陣地へ向けて飛ばした。
いよいよ、演習の幕開けだ。
実践は抜群のセンスと力量を示すファルリンだが、どうにも座学が追いつかず、困っていたところをメフルダードが個人的に、毎日指導してくれているのだ。
二人がいつも集まるのは、中庭の人目につかないところにある四阿で、今日もファルリンはメフルダードが来るよりも早く四阿で待機している。この四阿は周囲に緑が多い茂っているため、恋人達の密会の場所として利用されていた。
最近ではメフルダードから呆れられることも減ってきてはいるが、ヤシャール王国に住んでいるとはいえ、異文化を持っていた砂漠に住む者であるために、ヤシャール王国人であれば知っているような、「常識」と言われるものが抜けていることがあった。
メフルダードは、呆れてため息をつくがそれでも丁寧にファルリンを指導した。メフルダードは、自覚していないことであったが、意外と人に教えるのは楽しいらしく四阿に居るときは、いつも楽しそうに口の端をあげていた。
「それで、今日はどこが理解不能だったのですか?」
仕事の合間だ、とメフルダードはやってきてファルリンの向かい側に座る。
「今日の座学は、以前教えて頂いたところでしたので、理解できました。今、勉強しているのは今度の演習の時の地形や参加者の資料を読んでいます」
どれどれ、とメフルダードはファルリンの持っている羊皮紙を覗いた。次に行われる近衛騎士の演習は宮廷魔術師との合同訓練で、ヘダーヤトとメフルダードも参加する。ファルリンが手にしている資料は、メフルダードも目を通したことがあった。
「砂漠での演習ですね。僕たち魔術師が多数参加するので、魔法の打ち合いになりそうですね」
ジャハーンダールが、気の優しい青年宮廷魔術師ヘダーヤトを最初に演じてしまったので、ファルリンと会うときは、いつも丁寧な物腰で話していた。
「そうなのですか?私たち近衛騎士の役割はなんでしょう?」
「魔術師は、魔法を使うのに呪文を唱えます。その間は隙だらけになるので、魔法使いを守るのが定石です」
「でも、メフルダードはあまり呪文を唱えませんよね?」
ファルリンはこの一ヶ月、メフルダードに色々な呪文をこの四阿で見せてもらったが、どれも簡単な指の仕草だけで魔法を使っていた。
「簡単な魔法は指の仕草だけで使えます。こういうのとか」
メフルダードは立ち上がって、ファルリンの頭上で両腕を広げた。何かを捧げるようにしていたメフルダード手のひらから、淡いピンク色をした花びらが舞い降りる。一枚、三枚、十枚、とどんどん数を増やしていき、花びらが雨のように降り落ちる。その花びらは、何かに触れると消えるようで、ファルリンが指先で触れると、跡形もなく姿を消した。儚く消えていく花びらに、ファルリンは簡単の息を漏らす。
「花びらがこんなに散って、夢みたい」
緑に囲まれることさえ楽園だというのに、美しい花を間近に大量に見れるのは、夢見心地だ。
「こういう魔法は演習では使えません」
「でも、素敵な魔法です」
「ありがとうございます。ですから、ファルリンは僕を守ってくれれば良いんですよ」
「メ……メフルダードをですか……!」
ファルリンは驚いた顔をして、ぽぽぽっと頬をピンク色に染めた。
ジャハーンダールは、その初心な様子を意外に思った。
(砂漠に住む者は、結婚が早いと聞いていたから、男慣れしているかと思っていたが、こんなに純真なのか)
図らずもジャハーンダールは、何も知らない乙女を口説いてしまったのがなんだか気恥ずかしく、ほんのりと顔を赤く染めた。
「メフルダードみたいに優秀な人から、そんなことを言って頂けるなんて、光栄ですけど、恥ずかしいです」
ファルリンの誇り高く嬉しそうな声に、ジャハーンダールは気分が落ち着いていくのを感じた。
(ファルリンめ、口説かれたから照れたのではなく、自分の近衛騎士としての力量を褒められたと思っているな……!俺の事が、好きとかではなく)
なんか悔しい、とジャハーンダールが内心で呟く。
「演習、頑張りましょうね。王の槍には負けませんから!」
ジャハーンダールは、ファルリンの両手をぎゅっと握りしめた。ファルリンは、とても気合いの入っているメフルダードに頷きながらも、内心で首をかしげた。
(メフルダードとピルーズは、仲が悪いのでしょうか?メフルダードは何かとピルーズを目の敵にしているし。ピルーズは、誰にでも人懐こい、いい人なんですけど)
メフルダードと四阿で座学の特訓を始めた頃、ピルーズにメフルダードを紹介したことがあったが、何故かメフルダードは、ピルーズに対して最初から不機嫌であった。俗に言う「相性が悪い」とか、そういうことなんだろうか、とファルリンは考える。
「任せてください。お守りします」
ファルリンは、メフルダードとピルーズの仲の悪さについて、考えるのを止めた。どう考えたって、友人の縁というのは本人がどうにかするしかないのだから。
演習の日当日、ファルリンはいつも着ている近衛騎士服の色違いを着ていた。今日は近衛騎士団と魔術団が二手に分かれて紅白戦を行うのだ。
相手チームには王の槍のピルーズがいる。ファルリンと同じチームには王の魔術師のヘダーヤトがいた。
王都の東側に広がる荒野で二手に分かれて簡単な陣取り合戦を行うのだ。
いつもの近衛騎士団の服装の色は、黒色を基調としているので、ピルーズの居るチームを黒、色違いの服装は赤色を基調としているのでファルリンの居るチームを赤とした。
赤の指揮官はファルリンである。指揮官は誰がやってもいいように、くじ引きで決められる。ファルリンは見事に指揮官のくじを引いた。
赤の陣地である赤色の旗が掲げられた櫓に登る。櫓は、戦場が見渡せる高さになっていて、ここから指揮をする。ファルリンは、参謀としてメフルダードを指名した。魔術師団の大将はヘダーヤトが行う。メフルダードとヘダーヤトにファルリンは、自分の作戦を説明した。二人は驚いていたが、やってみる価値はありそうだ、と最終的には賛成してくれた。
ファルリンは、赤のメンバーを集め出陣前に簡単に合図の説明をした。戦場で戦う者たちは、ファルリンの命令を太鼓を抱えた数名が鳴らす音で判断をする。ファルリンは、パターンを単純化し、「前進、全軍突撃、撤退」の三つだけにした。他の細かい指示は、伝令を走らせることにしたのだ。
「それと、魔術師団の方達も駱駝に乗ってください」
数名の魔術師が駱駝に乗ると騎乗に気を取られて、魔法が使えなくなると訴えた。
「そういう人は、後方の守備に当たってください。駱駝に乗っても魔法が使える人は全員駱駝に乗ってくださいね」
駱駝に乗って魔法が使えるのは、半数ぐらいのようだ。ヘダーヤトが、細かい部隊編成について指示を飛ばしている。
「それと、最初は前方防御の魔法だけに集中してください」
魔術師団の戦場での役割は、遠距離攻撃武器としてが主なようで、ファルリンはその役割を変えようとしていた。
「今回は、電光石火でいきます」
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