マレカ・シアール〜王妃になるのはお断りです〜

橘川芙蓉

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18.電光石火

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 ファルリンは、メフルダードと一緒に櫓に登った。自分たちの陣地の前で、ヘダーヤトを始め駱駝に乗った騎士と魔術師達が待機している。それぞれ演習用の武器を装備している。
 演習の自陣としてわかりやすいように、指揮を執る櫓を中心に三重の防護柵でぐるりと囲ってある。この防護柵を越え、櫓にいる指揮官を倒せば演習終了となる。
 演習なので、弓矢には染色液がついた先の丸い矢を使い、剣には触れたところに染色液がつくようになっているもの、攻撃魔法はすべて染色液が出るように変換される杖を使用することになっている。
 相手に染色液を付けて染め上げられると戦死扱いとなり、演習が終わるまで待機することになる。

「全軍前進」

 ファルリンが兵を動かした。前進の合図である太鼓がリズムを奏でて鳴り響く。ヘダーヤト達は、アスワドの弓兵の弓矢が届かない位置まで駱駝で進んでいく。アスワドを率いるのは、同じ王の痣マレカ・シアールのピルーズである。
 アスワド側の弓兵の弓が届くか届かないかという位置までヘダーヤト達が前進する。その瞬間、大量の弓矢がヘダーヤト達の頭上を越え、アスワドのピルーズ率いる騎士達に降り注いだ。
 ピルーズの咄嗟の指示で、盾で防いだ者も居たが突然のことと、ここまで弓矢は飛んでこないという油断があったので、次々と騎士達が染色液に染まっていく。
「この弓、どこから……?」

 ピルーズが盾を頭上に構えながら、辺りを見回す。ここは、荒野で身を隠す場所はない。別働隊を隠しておけるようなところはない。
 ピルーズが、アフマルの陣地へ視線を向けると、弓矢の第二射が飛んできた。通常の弓であれば、ピルーズの居る位置まで飛んでくることはない。

「そんな弓あったっけ?とか思ってる時点で負けだよ」

 いつの間にか肉薄したヘダーヤトの杖で、ピルーズは軽く叩かれる。

「はい、染色液に染まったね。大人しくしててよ」

「参った。あの弓はなんだ?」

「演習が終わったら解説してくれるよ」

 ヘダーヤトは、ピルーズが演習から離脱するのを確認し、作戦通りにアスワドの陣地へと向かっていく。
 ピルーズは全軍に合図をだし、魔術師達に弓矢の防御と近衛騎士達に盾の魔法をかけさせる。
 そろそろ、アスワドの陣地から守備に回った者たちからの弓矢が届く範囲だ。
 アスワドの弓矢を魔法で躱しながら、敵陣地の防護柵へ肉薄する。

 まず、見張り櫓から弓を射ている騎士達を、アフマルの騎士達が弓を射て落とす。次に、防護柵を魔術師が魔法で破壊した。空いた穴をヘダーヤト達が駱駝に乗ったまま大挙として傾れ込んだ。

「僕は王の魔術師マレカ・アッラーフのヘダーヤトだ。誰か腕に覚えのある者は居ないか!」

 二重目の防護柵のところで、ヘダーヤトが名乗りを上げる。混乱し、右往左往していたアスワドの騎士や魔術師達が、たじろぐ。ヘダーヤトの無茶苦茶な魔法使いぶりは、名高い。

「ヘダーヤトを倒せ!それで指揮系統は混乱するはずだ」

 櫓で指揮をしているのは、モラードだ。あっさりと防護柵を乗り越えてきたアフマルチームたちに焦りを隠せない。櫓の柵を乗り越えそうなほど、身を乗り出して指示を出していた。

「それは、ちょっと遅すぎたのだと思います」

 聞き覚えのある声に、モラードは振り返る。同時に、べちゃっと体に染料液をかけられる。
 アフマルの陣地で指揮をしているはずのファルリンが得意げな顔で立っている。手には先ほどモラードにぶつけた染料液を染みこませた羊皮紙のボールが握られている。

「私の勝ちですよ」

 ファルリンが勝利宣言をした。
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