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桜葉は夜も病院に泊まり込んでいた。基本的に付添が認められている病院だったらしく、医師から反対はされなかったようだ。

心配していたのは、桜葉の母と父。それから氷室の家族たちだった。

桜葉はずっと、ずっと傍に寄り添い続けた。

幽鬼となった氷室が見ているとも知らず、二日目は体育祭の話をして。

三日目は戒が持ってきた漫画を読みながら話し掛け。

四日目は―――何も言わずに、ずっと手を握っていた。

氷室の母や祖母が来ても、声を発しては応じなかった。言葉を忘れてしまったように。

『……何で、泣かないんだろうな』

変わらず隣に立つ櫻が、腕を組みながらぽつりと言った。桜葉は一度も泣かなかった。泣きそうになったこともない。……氷室は馬鹿みたいに泣いたのに。

『……桜葉は、弱いから』

弱いから、泣かないんだ。泣くことを負けだと思っているから。

『……だからお前が傍にいたのか』

『そうだよ』

『……馬鹿だな、お前らは』

『……ああ』

返す言葉もない……。

桜葉は弱かった。氷室は強かった。だから隣にいられた。弱いばかりでは寄りかかり合うだけで、いずれどちらかが倒れる。強いばかりでは相手を受け容れられない。

だから二人は一緒にいられた。

……でも、もう刻限だ。

『……桜葉』

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