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三
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しおりを挟む氷室は、今自分がいるのは、ある存在のおかげだとわかっている。だから、悲嘆などしない。
これは俺の命じゃない、俺があの人にもらった命だ。大事にしないといけない。
いつか天寿をまっとうしてまた逢うことになったとき、愚痴なんてこぼしたら申し訳が立たない。
だから、前を向くことにした。
車椅子で病室の窓側にいる氷室の隣に、桜葉が立つ。
「氷室くん、今日はりぃちゃんがお見舞いに来るって言ってたよ。氷室くんの担任の先生が用事あって来られないから、代理だって」
「そっか。岬先生にはお礼言っておかないとな」
「お礼?」
「うん。お礼。俺、岬先生のことを大事にしてる人に、たくさん助けてもらったんだ」
「うん? よくわかんないけど、そうなんだ? じゃあめいっぱいお礼言わないとだね」
笑顔で答える桜葉。
また、桜葉の笑顔が見られる。桜葉が、俺のことを見てくれる。氷室が勝手に逢いに来たときのことは、桜葉は夢だと思っているようだ。
だが、氷室は櫻が夢ではないと知っている。確かに存在して、氷室を助け、そしてこの世を離れた。
ふたつの命に祝福を与えてくれた、優しい鬼。
愛しい愛しい、さくらの君―――。
終
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