朧咲夜1-偽モノ婚約者は先生-【完】

桜月真澄

文字の大きさ
35 / 179
三 ……なんで、そんなものを?

side流夜2

しおりを挟む


華取、と、昨日と同じように呼びかけた。


その呼び方を聞いて、華取は軽く息をついた。


「本当に神宮先生だったんですね……」
 

やはりまだ信じていないようだった。


それで今朝のガン見か?


「ああ、すまないことにな」
 

思わず苦笑してしまう。


「いえ……昨日の件には先生の方をこそ巻き込んでしまったようですから」
 

華取は言うけど、そんなことは欠片もない。


一か所に属さずフラフラしている俺を繋ぎとめておくために、愛子が色々画策してきたのは今までにもあったことだ。


「いや……それについては、もう言わないことにしよう。お互い謝り続けて変な格好になるから」
 

お互いが相手を巻き込んだと負い目を感じているのはおかしな状況だ。


利害は一致しているのだから。


「……わかりました。先生の言ってた詳細って?」


「ああ。どの範囲まで言っても大丈夫かな、と思って」


「範囲?」


「そう。――仮婚約っつーか、偽婚約、な。華取の周り、友達とかで誰なら伝えても大丈夫か、とかそういったことだ。同じように俺の周りはどこまで話しておくか。愛子は学内には関わってこないだろうけど、あまり口の軽い奴がいたら気をつけた方がいいだろう。その辺りもお互い把握しておいた方がいいと思って」


「あ――確かにそうですね」
 

もし俺の知り合いで話を聞いている奴と華取が会話することになったとき、食い違っては不信感を持たれるだろう。


反対もしかりだ。


華取は口元に手を当てて考えている。


「でも……完全に秘密でなくていいんですか?」


「俺は構わないけど……華取が苦しくならないか?」
 

友達にも嘘をつかなくちゃいけなくなる。


そう言うと、華取は瞬いた。


「そういえばそうですね。私の方では……笑満には言っておきたいと思います。口は堅いですし、面白がってもからかってきても、下手なことは言いません」
 

俺が提案する前に名前が出た。


華取も松生のことが大事なんだな。


「日義はいいのか? 三人でいること多いだろう」

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

お隣さんはヤのつくご職業

古亜
恋愛
佐伯梓は、日々平穏に過ごしてきたOL。 残業から帰り夜食のカップ麺を食べていたら、突然壁に穴が空いた。 元々薄い壁だと思ってたけど、まさか人が飛んでくるなんて……ん?そもそも人が飛んでくるっておかしくない?それにお隣さんの顔、初めて見ましたがだいぶ強面でいらっしゃいますね。 ……え、ちゃんとしたもん食え? ちょ、冷蔵庫漁らないでくださいっ!! ちょっとアホな社畜OLがヤクザさんとご飯を食べるラブコメ 建築基準法と物理法則なんて知りません 登場人物や団体の名称や設定は作者が適当に生み出したものであり、現実に類似のものがあったとしても一切関係ありません。 2020/5/26 完結

それは、ホントに不可抗力で。

樹沙都
恋愛
これ以上他人に振り回されるのはまっぴらごめんと一大決意。人生における全ての無駄を排除し、おひとりさまを謳歌する歩夢の前に、ひとりの男が立ちはだかった。 「まさか、夫の顔……を、忘れたとは言わないだろうな? 奥さん」 その婚姻は、天の啓示か、はたまた……ついうっかり、か。 恋に仕事に人間関係にと翻弄されるお人好しオンナ関口歩夢と腹黒大魔王小林尊の攻防戦。 まさにいま、開始のゴングが鳴った。 まあね、所詮、人生は不可抗力でできている。わけよ。とほほっ。

僕ら二度目のはじめまして ~オフィスで再会した、心に残ったままの初恋~

葉影
恋愛
高校の頃、誰よりも大切だった人。 「さ、最近はあんまり好きじゃないから…!」――あの言葉が、最後になった。 新卒でセクハラ被害に遭い、職場を去った久遠(くおん)。 再起をかけた派遣先で、元カレとまさかの再会を果たす。 若くしてプロジェクトチームを任される彼は、 かつて自分だけに愛を囁いてくれていたことが信じられないほど、 遠く、眩しい存在になっていた。 優しかったあの声は、もう久遠の名前を呼んでくれない。 もう一度“はじめまして”からやり直せたら――そんなこと、願ってはいけないのに。

押しつけられた身代わり婚のはずが、最上級の溺愛生活が待っていました

cheeery
恋愛
名家・御堂家の次女・澪は、一卵性双生の双子の姉・零と常に比較され、冷遇されて育った。社交界で華やかに振る舞う姉とは対照的に、澪は人前に出されることもなく、ひっそりと生きてきた。 そんなある日、姉の零のもとに日本有数の財閥・凰条一真との縁談が舞い込む。しかし凰条一真の悪いウワサを聞きつけた零は、「ブサイクとの結婚なんて嫌」と当日に逃亡。 双子の妹、澪に縁談を押し付ける。 両親はこんな機会を逃すわけにはいかないと、顔が同じ澪に姉の代わりになるよう言って送り出す。 「はじめまして」 そうして出会った凰条一真は、冷徹で金に汚いという噂とは異なり、端正な顔立ちで品位のある落ち着いた物腰の男性だった。 なんてカッコイイ人なの……。 戸惑いながらも、澪は姉の零として振る舞うが……澪は一真を好きになってしまって──。 「澪、キミを探していたんだ」 「キミ以外はいらない」

僕の恋人は、超イケメン!!

BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

先生

藤谷 郁
恋愛
薫は28歳の会社員。 町の絵画教室で、穏やかで優しい先生と出会い、恋をした。 ひとまわりも年上の島先生。独身で、恋人もいないと噂されている。 だけど薫は恋愛初心者。 どうすればいいのかわからなくて…… ※他サイトに掲載した過去作品を転載(全年齢向けに改稿)

社長は身代わり婚約者を溺愛する

日下奈緒
恋愛
ある日礼奈は、社長令嬢で友人の芹香から「お見合いを断って欲しい」と頼まれる。 引き受ける礼奈だが、お見合いの相手は、優しくて素敵な人。 そして礼奈は、芹香だと偽りお見合いを受けるのだが……

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

処理中です...