朧咲夜1-偽モノ婚約者は先生-【完】

桜月真澄

文字の大きさ
50 / 179
四 偽モノの、婚約者ができました。

side遙音1

しおりを挟む


「あれ?」
 

旧校舎の廊下を歩いていると、窓の外に小走りで出て行く女生徒の姿が見えた。


今まで旧校舎に生徒の影を見たことはない。


あれは……と、俺は記憶をめくる。一年生の女子だ。名前はよく知っている。華取咲桜だ。あの子の――


「……え?」


華取。その名は、俺には聞き馴染んだものだった。


むしろ今まで気にしないでいたことに不審を覚える。


「神宮―、今、華取本部長の娘が出てったんだけど、知り合い?」


資料室の扉を開けると、中にいた神宮の肩が跳ねたように見えた。……あ?


「またお前か」


うんざりしたような顔も、もう見慣れた。俺が小学生の頃からの付き合いだからかねー。


……神宮たちは、俺がそっちに関わるのを快く思っていない。


それも知っていて、俺はここにいるけどな。


一つだけ置かれた机に据えられた回転椅子に腰かけていて、タブレット端末で何かを読んでいるようだ。


どーせ外国(そと)のニュースか論文かだろ。


「で、知り合い?」


話の腰を折られたからといって、自分の問いを有耶無耶には出来ない。


机に腰かけて神宮を見ると、神宮は疲れたように息を吐いた。


「一年の華取なら、提出物が遅れたからここまで来ただけだ」


「なんでわざわざこっちに? 教師室、新館にあんじゃん」


「俺がこっちにいたからじゃないか?」


すげなく返されて、まあそうか、と納得しかけた。


華取在義県警本部長の娘が藤城にいるとは知っていたけど、神宮からその存在を聞いたわけではなかった。


神宮の幼馴染の一人で、探偵をやっている雲居降渡の情報だったのだ。


華取さんと二宮さんを師事する幼馴染三人衆だから、神宮とその娘が顔見知りでもおかしことはない。


――そう、それでこそ正当と言える。


警察に関わっていることを隠しているため学校では目立たないようにしている神宮だけど、ここは学校でも、一人で過ごしている旧館では素との境が曖昧になるところがある。


さっきの言い方はおかしい。


少なくとも、俺には素で接しているのに、あんな興味のない言い方はしない。


華取さんの関係者に興味がないはずがないからだ。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

マキノのカフェで、ヒトヤスミ ~Café Le Repos~

Repos
ライト文芸
田舎の古民家を改装し、カフェを開いたマキノの奮闘記。 やさしい旦那様と綴る幸せな結婚生活。 試行錯誤しながら少しずつ充実していくお店。 カフェスタッフ達の喜怒哀楽の出来事。 自分自身も迷ったり戸惑ったりいろんなことがあるけれど、 ごはんをおいしく食べることが幸せの原点だとマキノは信じています。 お店の名前は 『Cafe Le Repos』 “Repos”るぽ とは フランス語で『ひとやすみ』という意味。 ここに訪れた人が、ホッと一息ついて、小さな元気の芽が出るように。 それがマキノの願いなのです。 - - - - - - - - - - - - このお話は、『Café Le Repos ~マキノのカフェ開業奮闘記~』の続きのお話です。 <なろうに投稿したものを、こちらでリライトしています。>

僕の恋人は、超イケメン!!

BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

僕ら二度目のはじめまして ~オフィスで再会した、心に残ったままの初恋~

葉影
恋愛
高校の頃、誰よりも大切だった人。 「さ、最近はあんまり好きじゃないから…!」――あの言葉が、最後になった。 新卒でセクハラ被害に遭い、職場を去った久遠(くおん)。 再起をかけた派遣先で、元カレとまさかの再会を果たす。 若くしてプロジェクトチームを任される彼は、 かつて自分だけに愛を囁いてくれていたことが信じられないほど、 遠く、眩しい存在になっていた。 優しかったあの声は、もう久遠の名前を呼んでくれない。 もう一度“はじめまして”からやり直せたら――そんなこと、願ってはいけないのに。

先生

藤谷 郁
恋愛
薫は28歳の会社員。 町の絵画教室で、穏やかで優しい先生と出会い、恋をした。 ひとまわりも年上の島先生。独身で、恋人もいないと噂されている。 だけど薫は恋愛初心者。 どうすればいいのかわからなくて…… ※他サイトに掲載した過去作品を転載(全年齢向けに改稿)

社長は身代わり婚約者を溺愛する

日下奈緒
恋愛
ある日礼奈は、社長令嬢で友人の芹香から「お見合いを断って欲しい」と頼まれる。 引き受ける礼奈だが、お見合いの相手は、優しくて素敵な人。 そして礼奈は、芹香だと偽りお見合いを受けるのだが……

冷徹社長は幼馴染の私にだけ甘い

森本イチカ
恋愛
妹じゃなくて、女として見て欲しい。 14歳年下の凛子は幼馴染の優にずっと片想いしていた。 やっと社会人になり、社長である優と少しでも近づけたと思っていた矢先、優がお見合いをしている事を知る凛子。 女としてみて欲しくて迫るが拒まれてーー ★短編ですが長編に変更可能です。

【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました

藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。 次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。

好きになったあなたは誰? 25通と25分から始まる恋

たたら
恋愛
大失恋の傷を癒したのは、見知らぬ相手からのメッセージでした……。 主人公の美咲(25歳)は明るく、元気な女性だったが、高校生の頃から付き合っていた恋人・大輔に「おまえはただの金づるだった」と大学の卒業前に手ひどくフラれてしまう。 大輔に大失恋をした日の深夜、0時25分に美咲を励ます1通のメールが届いた。 誰から届いたのかもわからない。 間違いメールかもしれない。 でも美咲はそのメールに励まされ、カフェをオープンするという夢を叶えた。 そんな美咲のカフェには毎朝8時35分〜9時ちょうどの25分間だけ現れる謎の男性客がいた。 美咲は彼を心の中で「25分の君」と呼び、興味を持つようになる。 夢に向かって頑張る美咲の背中を押してくれるメッセージは誰が送ってくれたのか。 「25分の君」は誰なのか。 ようやく前を向き、新しい恋に目を向き始めた時、高校の同窓会が開かれた。 乱暴に復縁を迫る大輔。 そこに、美咲を見守っていた彼が助けに来る。 この話は恋に臆病になった美咲が、愛する人と出会い、幸せになる物語です。 *** 25周年カップを意識して書いた恋愛小説です。 プロローグ+33話 毎日17時に、1話づつ投稿します。 完結済です。 ** 異世界が絡まず、BLでもない小説は、アルファポリスでは初投稿! 初めての現代恋愛小説ですが、内容はすべてフィクションです。 「こんな恋愛をしてみたい」という乙女の夢が詰まってます^^;

処理中です...