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八 先生、咲桜になにしたんですか?
side流夜1
しおりを挟む忘れられていた……。
咲桜が、昨日深夜にあったことを綺麗さっぱり――までとかいかないが、忘れていたことのショックが今頃来た。昼休みに、旧館の資料室にこもって項垂れるくらいには。
名前で呼んでくれただけ、よかったと思うしかないのか……。
ここに遙音が来たら風邪が悪化したかを疑われるだろう。降渡が来たらからかわれる。吹雪だったら爆笑される。……よく考えれば、周りにこういった相談が出来る奴、一人もいなかった……。
知り合いの中では絆(きずな)あたりは女性だけど、まず俺の話なんて聞いてもくれないことは確実だ。会えばいつも物が飛んでくるくらいに自分、すごい勢いで嫌われている。バカな弟は相談候補の対象外だ。
……なにがショックって、家族のことを話したこともそうだけど、キスしたこと、咲桜から抱き付いてきたこと、そして咲桜の言葉が忘れられていたこと。……咲桜が憶えていないとなると、あれは全部自分に都合のいい妄想だと思えてくるから凹む……。
朝起きて、咲桜の腕が自分の右腕に絡んでいなかったら、完全に妄想だと思ったかもしれない。
あたたかさは、まだ腕の中にある。
抱きしめた鼓動。繊細な輪郭。涙の瞳。咲桜の行動が全部、咲桜の意思あってのことだと願いたい。そうすれば、あのあたたかさをまた抱きしめることが出来るかもしれない。
気づくのは、感情ばかり。
「………」
手を開いて、また握った。今はない細い指。
今夜は在義さんに呼ばれている。場所が龍さんの店というならば、咲桜は知らない話だろう。
邪道優等生(じゃどうゆうとうせい)。
正道不良(せいどうふりょう)。
最高の相棒と称される、対角の二人だ。
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