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2 御門の朝
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しおりを挟む「ここは御門の家だよ、涙雨殿」
「涙雨ちゃん、御門の家の外で倒れてたのよ」
『なんと。緋(ひ)の姫まで。それは迷惑をおかけした。かたじけない』
「は、白桜様? 何をされたのです?」
華樹は急な涙雨の復活に驚いたように見上げてきた。
「涙雨殿は空腹で倒れていたんだろう。涙雨殿は時空の妖異。霊力の消費が激しく、枯渇しやすい。だから、主である黒が寄越した文を涙雨殿の栄養にしたんだ」
白桜が取りに行ったのは涙雨の主である影小路黒藤の文。
しかも黒藤が自分で書いた物だから、黒藤の一部と解釈することもできる。さすがに血文字ではないけど。
陰陽師が妖異を式として契約するとき、自分の霊力をよりどころに――簡単に言ってしまえば餌として差し出す代わりに、配下にくだることを約することがある。
白桜の式である天音と無炎は存在が揺らぎやすいこともないため、そういった契約はしていない。
涙雨はある種特異だった。
時空の妖異は存在が稀で、文字通り時空を移動する能力を持つ。
過去や未来にもいけるということだ。
その分常に霊力が発散されているようで、涙雨は黒藤のもとにくだるまで、ほぼすべての時間を睡眠に費やしていたそうだ。
眠ることで霊力を補給するために。
だから黒藤の式になって自由に動ける時間が増えた今、散歩をするのが楽しみで日課だと黒藤から聞いていた。
時空の妖異に関する書物の記述も少なく、陰陽師の式にくだったという話も聞いたことがない。
黒藤は異例中の異例ということになる。
そのため、今の話も黒藤から伝え聞いたもの。
黒藤は涙雨と契約するとき、足りない霊力は自分が与えると約し、配下についたそうだ。
それも黒藤が涙雨の力を欲したからとかではなく、たまたま見つけた死にかけの小鳥が時空の妖異で、介抱しているうちに懐かれて、じゃあ俺の式になる? なる。みたいなノリで契約したらしい。黒……。
黒は鬼の血を引いているため、生まれ持った霊力が半端ではない。だから出来た芸当だ。
「涙雨殿、散歩が好きだと聞いているが、倒れるほど遠くまで来てはだめだぞ?」
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