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2 御門の朝
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しおりを挟むその頃には白桜も、自分が御門流の跡継ぎであると自覚していた。
そして悩んでいた。月をその身に宿した自分なんかではふさわしくない、と。
月の化身が白桜から性別を奪ったことを知っていた黒藤は、なんで誰も白桜から月の化身を引きはがさないのか不思議だった。
だが、訊いてはいけないことだと本能が感じていて、口に出したことはない。
よって、今もその理由を知らない。
なぜか、それを聞いてしまえば永劫白桜に嫌われる気配がするからだ。そんなの無理。
「にいさま、またきてくれたのですね」
白桜は自分でも憶えていないくらい小さい頃は、黒藤のことを『にいさま』と呼んでいた。
「うん、ひさしぶり、白桜」
黒藤もその頃は『白桜』と呼んでいた。
逆仁について御門別邸を訪れるのが、黒藤は楽しみだった。
「にいさま、またお話をきかせてください」
「うん」
穏やかな笑顔を見せる白桜は、黒藤の癒しだった。
そしてこの頃の黒藤は白桜のことが大事でも、白桜大好きな変態ではなかった。
一応一歳年上の黒藤は、白桜にとっては陰陽師の先輩みたいな認識だったらしい。
逢うたびに話を聞かせてほしいと言ってきた。
陰陽術の話とか、陰陽術の話とか、陰陽術の話とか……はい、ちびの黒藤は同年代と関わることがなさすぎてコミュ力ゼロでした。
大人との会話は仕事柄得意だったのだが。
黒藤が関わっている人の中に自分より年下は、白桜しかいなかった。
白桜が黒藤に懐いているものだから、孫には甘い白里も黒藤を追い払えなかったようだ。
――逆仁と白里が込み入った話をしていて、黒藤と白桜が邸内で遊んでいろと言われたときだ。
「にいさま、あまねさんがまたかあさまのお話をしてくれたんです」
にこにことする白桜と、黒藤は白桜の部屋の縁側に腰かけて話していた。
「そうか。天音は白桃さまのことをごぞんじだったな」
まだ、天音が白桜の式にくだる前だった。
亡くなった白桃の代わりに白桜に母のように接していた天音は、白里に許されて、誰の式でもなかったけれど御門邸にいた。
黒藤には無月がもういたけれど、白桜はまだ無炎と出逢う前のこと。
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