42 / 93
3 動き出す当主
1
しおりを挟む「――俺に許嫁ですか?」
さしもの白桜も面食らった。
「然様(さよう)。貴方は御門流当主。御年にもなればそれ相応の者が必要でしょう」
御門別邸の客間で白桜の前に座るのは老齢の男性――小路流現当主・鴇卂逆仁(ときはや さかひと)だ。
以前は紅緒の当主名代を務め、紅緒が眠ってからは当主となっていた。
白桜は逆仁の言葉の意味を探った。
御門流と小路流は、お互いに婚姻の行き来はない。流派内での婚姻が主だ。
それをなぜ逆仁が白桜の婚姻問題に口出ししてくる?
「まあ、御門流でも小路流でもないが、力の強い方をご紹介することは出来ます。ですが私が貴方にそれを持ちかける理由はそれではありません」
そっと、湯飲み茶わんを持ち上げる逆仁。
流派内の婚姻が主といっても、派閥外の霊力の高い者を伴侶とすることは、過去にもある。
なぜそんな話を逆仁が白桜に持ちかけるのか……。
「……黒ですか?」
「ええ。白桜さんに許嫁が出来れば、黒藤様もいい加減にあきらめるのではないかと思いましてな。なにせ黒藤様が襲名を蹴る理由が、『白に惚れたからだ』ですから。……大丈夫ですか?」
机に突っ伏してしまった白桜を、逆仁が気遣う。
「……今心底からこう言葉に表せないけどぐつぐつとした感情にさいなまれています……」
「お可哀そうに……」
正座した膝の上でこぶしを握り締めうなだれる白桜に、逆仁は心底からの同情の眼差しをむける。
これはうちの若君のせいだから……。逆仁が困っていると、白桜はやおら顔をあげた。
その目は据わっている。
「……逆仁殿、俺に恋人が出来たら黒はあきらめると思いますか?」
「どうでしょうなあ……。相手を抹殺することはしないでしょうが、すぐに退くかは……私も、許嫁の話を持ってきておいて言い切れないのが申し訳ないですが」
言葉を濁す逆仁。そこは白桜も同意だった。
「ですが、真紅嬢の登場で一気に小路内部はあわただしくなってしまいました。元々知っていたのは十二家(じゅうにけ)の幹部連中だけでしたから、末端は黒藤様のほかに――それよりも当主に相応しいお方が帰っていらした、と。真紅嬢を推す空気は高まっています」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
婚約者はこの世界のヒロインで、どうやら僕は悪役で追放される運命らしい
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
僕の前世は日本人で25歳の営業マン。社畜のように働き、過労死。目が覚めれば妹が大好きだった少女漫画のヒロインを苦しめる悪役令息アドルフ・ヴァレンシュタインとして転生していた。しかも彼はヒロインの婚約者で、最終的にメインヒーローによって国を追放されてしまう運命。そこで僕は運命を回避する為に近い将来彼女に婚約解消を告げ、ヒロインとヒーローの仲を取り持つことに決めた――。
※他サイトでも投稿中
水神様の巫女
藤ノ千里
恋愛
オリジナル小説「タバコと木札」の続編
美菜月が受けてしまった水神様の呪いを解くべく、美菜月と弘成は京都へ向かう。
徐々に明かされていく弘成の過去。そして、美菜月が受けた呪いの正体とは何だったのか。
普通の女子大生のはずの美菜月が経験する、恋人弘成との不思議な夏休みの物語。
※「タバコと木札」本編より少し大人向けの内容となっています。
【完結】前代未聞の婚約破棄~なぜあなたが言うの?~【長編】
暖夢 由
恋愛
「サリー・ナシェルカ伯爵令嬢、あなたの婚約は破棄いたします!」
高らかに宣言された婚約破棄の言葉。
ドルマン侯爵主催のガーデンパーティーの庭にその声は響き渡った。
でもその婚約破棄、どうしてあなたが言うのですか?
*********
以前投稿した小説を長編版にリメイクして投稿しております。
内容も少し変わっておりますので、お楽し頂ければ嬉しいです。
第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行「婚約破棄ですか? それなら昨日成立しましたよ、ご存知ありませんでしたか?」完結
まほりろ
恋愛
第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行中。
コミカライズ化がスタートしましたらこちらの作品は非公開にします。
「アリシア・フィルタ貴様との婚約を破棄する!」
イエーガー公爵家の令息レイモンド様が言い放った。レイモンド様の腕には男爵家の令嬢ミランダ様がいた。ミランダ様はピンクのふわふわした髪に赤い大きな瞳、小柄な体躯で庇護欲をそそる美少女。
対する私は銀色の髪に紫の瞳、表情が表に出にくく能面姫と呼ばれています。
レイモンド様がミランダ様に惹かれても仕方ありませんね……ですが。
「貴様は俺が心優しく美しいミランダに好意を抱いたことに嫉妬し、ミランダの教科書を破いたり、階段から突き落とすなどの狼藉を……」
「あの、ちょっとよろしいですか?」
「なんだ!」
レイモンド様が眉間にしわを寄せ私を睨む。
「婚約破棄ですか? 婚約破棄なら昨日成立しましたが、ご存知ありませんでしたか?」
私の言葉にレイモンド様とミランダ様は顔を見合わせ絶句した。
全31話、約43,000文字、完結済み。
他サイトにもアップしています。
小説家になろう、日間ランキング異世界恋愛2位!総合2位!
pixivウィークリーランキング2位に入った作品です。
アルファポリス、恋愛2位、総合2位、HOTランキング2位に入った作品です。
2021/10/23アルファポリス完結ランキング4位に入ってました。ありがとうございます。
「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」
召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?
浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。
「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」
ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。
だから愛は嫌だ~虐げられた令嬢が訳あり英雄王子と偽装婚約して幸せになるまで~
来須みかん
ファンタジー
伯爵令嬢ディアナは、婚約者である侯爵令息ロバートに、いつもため息をつかれていた。
ある日、夜会でディアナはケガをし倒れてしまったが、戦争を終わらせた英雄ライオネル第二王子に助けられる。その日から、ディアナは【相手が強く思っていること】が分かるようになった。
自分を嫌うロバートとの婚約を解消するために、利害関係が一致したライオネルと契約婚約をすることになったが、彼の視線はとても優しくて……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる