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2 御門の朝

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黒藤も情報を集めるにも、月・天ノ宮――黒藤たちは月の宮という呼び名で育ったからつい月の宮と言ってしまうのだけど――に関する情報はろくにない。

たまに古い文献を見つけて中を検(あらた)めても、月の宮に関する情報が出てきたことは一度もなかった。

出てきていいところ、『月の宮』『月天宮』『治めるは斎宮』程度の、ほかの書物にも記載のある、既に知っている内容だった。

そして月天宮及び斎宮が、小路と御門の主だと。

――黒藤は姫、大和斎月を、初代当主の伴侶の生まれ変わりではないかと考えている。

妻を持たない当主と言われていた、始祖当主の生まれ変わりが妻にと望んだ人。

そして、その容姿だ。

金糸と銀糸を織り交ぜたような不思議な髪の色、蒼い右目と銀色の左目。この上なく優美なる存在――それが、司家に口伝で継がれている初代当主の伴侶の姿だ。

初代当主の伴侶に関して残されているのはその口伝の特徴だけで、名前も判然としない。

だが、姫はその特徴とまったく同じ容姿をしている。

普段は髪を黒く染めてカラコンで瞳も黒く見せているけど、色を落とすと金髪と銀髪の混じったような髪色をしていて、瞳もそれだ。

そして厄介なことに――姫の見た目は、髪と目の色こそ違えど、幼い白桜に通ずるものがあった。

白桜はもともと茶色が勝った黒髪に黒目で、成長していく中で目線鋭くなり美丈夫と呼ぶにふさわしい面立ちになったが、幼い頃の白桜が女性として成長していたら、姫のようになっていたんじゃないかと、黒藤は思ったことがある。

……月天宮の姫巫女と間違われた、白桜にそっくり。

姫は何者だ? 本当にこの国の――この星の存在か? そして、白桜は……。

(ああくそ。この問題になるといつも行き詰まる)

もっとばっさばっさとなぎ倒すものでもあれば軽快にいけるんだけど、姫をなぎ倒すわけにはいかない。

(つか俺が姫に命(タマ)とられるわ。白に至っては蝶よ花よと接するつもりしかないし)

姫が何者か……それは白桜が何者かに通じる。

月・天ノ宮の者たちが、『姫巫女』と呼んだ。

そして、黒藤たちの――黒藤の前に姿を見せた、斎宮・白巫女。

彼女が本当に月天宮の主なら、なんのために白桜を……そういえばあのとき、三毛猫だったな? 先ごろ真紅のもとにくだった式も、三毛猫。紅姫(べにひめ)という名の。

紅姫は自ら望んで真紅の式にくだったと聞く。真紅の夢に現れる、という形で。

……月日を超えて、つながる点と線が確かにある。

四つの黒藤にはさっぱりわからなかったことだけど、今、新しく加わった情報を加味すれば……。

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