月華の陰陽師2-白桜の花嫁-【完】

桜月真澄

文字の大きさ
47 / 93
3 動き出す当主

しおりを挟む



「月御門くん、あ、あの、これ、もらってください……っ」

呼び出しを受けた白桜は、顔を真っ赤にさせて手紙を差し出してくる同級生の女子生徒を前にして困っていた。

休日の昨日、逆仁から許嫁の話を出されたばかりで、やはり言霊は寄って来るな……と、感慨にふけってしまう。

「う、うまく言えないと思って、書いて、あるので……よ、読んでくれるだけでも――」

「河内(こうち)さん、もしこれが恋文なら、俺の返事は決まってしまっているんだ」

白桜の封じた言葉に、女子生徒はびくりと肩を震わせた。

そして傷ついた顔になる。

白桜が告白されるたびに同じ文言で断っているのを知っているのだろう。

――今は家のことが一番で、恋愛をする気はない。

という、定型文のようなものだ。

期待を完全に切ってしまう言葉が言えずそうなってしまう。

期待を持たせていてはだめだと自戒しながらも、突き放す言葉が言えない。

白桜の優しさで、愚かさだった。

結局告白してきた女子は、泣きそうな顔で引き下がった。

それでも、これだけは受け取ってほしいと言うので、白桜は手紙を受け取った。

去っていく女子の背中を見つめて、ちりちりと積もる罪悪感。

自分はいつまでこんな所業を重ねていくのだろう。

こんな自分を理解して、それでもいいと言ってくれる存在が、黒藤以外に現れることがあるのだろうか。

……黒藤に理解してもらったところで、奴は問題しか起こさないのだが。

「はあ……」

思わずため息が出てしまったところへ、最近仲良くなった二人が通りかかった。

「月御門? なんか疲れてるけど大丈夫か?」

「白桜様! な、何か学内で問題でもありましたか!? 修行中の身ですがお役に立てることがあればあああ」

「そういうことではないよ、月音。心配かけてすまない、小田切」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

彼女が望むなら

mios
恋愛
公爵令嬢と王太子殿下の婚約は円満に解消された。揉めるかと思っていた男爵令嬢リリスは、拍子抜けした。男爵令嬢という身分でも、王妃になれるなんて、予定とは違うが高位貴族は皆好意的だし、王太子殿下の元婚約者も応援してくれている。 リリスは王太子妃教育を受ける為、王妃と会い、そこで常に身につけるようにと、ある首飾りを渡される。

捨てられた王妃は情熱王子に攫われて

きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。 貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?  猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。  疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り―― ざまあ系の物語です。

婚約破棄された王太子妃候補ですが、私がいなければこの国は三年で滅びるそうです。

カブトム誌
恋愛
王太子主催の舞踏会。 そこで私は「無能」「役立たず」と断罪され、公開の場で婚約を破棄された。 魔力は低く、派手な力もない。 王家に不要だと言われ、私はそのまま国を追放されるはずだった。 けれど彼らは、最後まで気づかなかった。 この国が長年繁栄してきた理由も、 魔獣の侵攻が抑えられていた真の理由も、 すべて私一人に支えられていたことを。 私が国を去ってから、世界は静かに歪み始める。 一方、追放された先で出会ったのは、 私の力を正しく理解し、必要としてくれる人々だった。 これは、婚約破棄された令嬢が“失われて初めて価値を知られる存在”だったと、愚かな王国が思い知るまでの物語。 ※ざまぁ要素あり/後半恋愛あり ※じっくり成り上がり系・長編

水神様の巫女

藤ノ千里
恋愛
オリジナル小説「タバコと木札」の続編 美菜月が受けてしまった水神様の呪いを解くべく、美菜月と弘成は京都へ向かう。 徐々に明かされていく弘成の過去。そして、美菜月が受けた呪いの正体とは何だったのか。 普通の女子大生のはずの美菜月が経験する、恋人弘成との不思議な夏休みの物語。 ※「タバコと木札」本編より少し大人向けの内容となっています。

【完結】悪役令嬢は何故か婚約破棄されない

miniko
恋愛
平凡な女子高生が乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまった。 断罪されて平民に落ちても困らない様に、しっかり手に職つけたり、自立の準備を進める。 家族の為を思うと、出来れば円満に婚約解消をしたいと考え、王子に度々提案するが、王子の反応は思っていたのと違って・・・。 いつの間にやら、王子と悪役令嬢の仲は深まっているみたい。 「僕の心は君だけの物だ」 あれ? どうしてこうなった!? ※物語が本格的に動き出すのは、乙女ゲーム開始後です。 ※ご都合主義の展開があるかもです。 ※感想欄はネタバレ有り/無しの振り分けをしておりません。本編未読の方はご注意下さい。

【完結】前代未聞の婚約破棄~なぜあなたが言うの?~【長編】

暖夢 由
恋愛
「サリー・ナシェルカ伯爵令嬢、あなたの婚約は破棄いたします!」 高らかに宣言された婚約破棄の言葉。 ドルマン侯爵主催のガーデンパーティーの庭にその声は響き渡った。 でもその婚約破棄、どうしてあなたが言うのですか? ********* 以前投稿した小説を長編版にリメイクして投稿しております。 内容も少し変わっておりますので、お楽し頂ければ嬉しいです。

処理中です...