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3 動き出す当主
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しおりを挟む「しかし涙雨殿。こう何回もあってはただの行き倒れでは済ませられない。一緒に倒れていた人が誰か、わかるか?」
『一緒に? 涙雨以外に誰かおったのか?』
はて、と首を傾げる小鳥。
――先ほど冬湖は、涙雨のことを黒い小鳥と言った。
霊感のないものにとって涙雨は『黒い小鳥』に見えて、霊感のある者には『紫色の小鳥』に見えるとのことだ。
無論、白桜たち御門の人間には紫色の小鳥に見えている。
冬湖が、己に霊力がないと言ったのは本当のようだ。
「では涙雨殿、質問を変えよう。倒れる前、最後に憶えている記憶はなんだ?」
白桜にたずねられて、今度、涙雨は腕を組むような恰好をした。羽で。
『む。最後か……。そう、じゃの……なんかこう、人の姿をして者たちがわっしゃーといて、涙雨はその空を飛んでおったな。涙雨以外にも飛んでおったものがあったような気がするのぉ……』
「飛んでいた? 鳥とか――飛行機とか?」
『いや、鳥なのか人なのか……むう、涙雨にはちょっとわからん。すまぬ、御門の主殿』
(……鳥なのか人なのかわからない?)
「飛んでいて――いきなり意識を失った?」
『かも、しれぬ……空を飛んでいて、次に目覚めたらここじゃったから』
ならばそれが涙雨の最後の記憶で間違いはないだろう。
冬湖は小鳥が落ちてきたと言っていたが、何かを受けて涙雨は意識をうしなったのだろうか……?
「……黒から、涙雨殿は散歩がすきだと聞いているのだけど、いつも同じ場所を飛んでいるのか?」
『うむ。大体はいつもと一緒だ。じゃが、たまに風任せというか……ふらりと見知らぬ土地を飛ぶこともある』
「では、今日最後に飛んでいた場所を、はっきりどことは言えない?」
『むう……すまぬがその通りじゃ。この涙雨、飛んでると楽しくなって場所は気にしなくなってしもうての』
はたはたと翼を振る小鳥。
白桜は先ほどの冬湖の証言と併せて考えた。
冬湖は、どこかはわからないけど人がいる中を歩いていて、空から黒い小鳥が降ってきたと言っていた。
涙雨も、人がたくさんいたと言っている。
首都やその近隣県にどれだけの繁華街があるというのだ。
二人の記憶に最後の場所として残っているそこを、しらみつぶしに調べるしかないだろうか……。
こういうとき、使役がたくさんいる黒藤ならば各地のあやかしを動かしてつぶさに調べ上げるだろう。
式はあくまで涙雨や無月たち三基しか持っていないが、黒藤は騒ぎを起こしたあやかしをシメるついでに使役に下しているので、動かせる手勢を白桜とは段違いだ。
白桜は直轄の式しかいない。
(……ちょっと負担だけど、桜苑(おうえん)を頼るかな……)
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