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3 動き出す当主

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涙雨が――格と霊力の高い時空の妖異が二度も行き倒れになるなんて、黒藤からもらった霊力不足では片付けられなくなってきた。

ましてや二度目は人間も一緒だ。

説明して納得してもらえる陰陽師の家系の者であったことは不幸中の幸いだが、これが一般の人間にまで被害が及べば、白桜の失態でしかなくなる。

――冬湖が巻き込まれている時点で、白桜はひとつ失敗していることになるのだから。

涙雨が倒れていたことを、問題視しなかった、と。

「涙雨殿、もう夜になってしまうから、黒に迎えに来てもらえるか連絡しておこう。元気だと言っていたが、問題ないか、華樹に診させてもらっていいか?」

『御門の主は心配性じゃのう。じゃが心配をかけたのは涙雨じゃ。気のすむまでやってくれ』

腰(と思しき位置)に翼の先を当てて、胸を張るような恰好をする涙雨。

なんとも可愛い。白桜にとって涙雨は、月音や煌と同じほのぼの要員かもしれない。

「今式文を飛ばしてくる。何か食べれるか? 結蓮、食事を出してもらえるか」

「承知致しました」

結蓮がうなずく。

『何から何まで申し訳ない、御門殿たち。じゃが、食事は大丈夫じゃ。主様に、外では食べるなと言われておっての。何やら、主様の霊気と合わぬものを食してしまうと、涙雨の中のバランスが崩れてしまうから……とか言っとったな』

「そうか? なら結蓮、この前黒からもらった菓子はまだ残ってるか? あれならひとつ二つ食べても大丈夫だろう。黒から直接もらったものだから。涙雨殿、勝手ながら見分させてもらったが、霊力の消費はある。黒が来る前に倒れては大変だから、少しでも補給してくれ」

『む……。そうか。しかしじゃ、涙雨を助けてくれた詫びの品を、涙雨が食べてしまってもよいのか?』

心配そうに小首をかしげる小鳥。

白桜の口元がほころんだ。

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