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3 動き出す当主

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(ほんっと疲れる)

華樹からこの手の説教を受けることは何度目だろう。

華樹なりに白桜と御門のことを心配してのことだとはわかるが……自分は許嫁がいないと、そんなに頼りないだろうか。

当主白桜として以外の自分は、そんなに……。

価値がないだろうか。

己の手に目をやる。中性的な指。こんな自分で、一体どれだけのことが出来るだろう。

こんな……

「涙雨ぅうううううう!」

「はいはい。涙雨殿は元気だよ」

式文を飛ばして間もなく、涙目の黒藤が突撃してきた。

今回は縁も一緒だった。

「白ぢゃ~ん! ありがとう~!」

騒ぎが二倍になった。

門まで結蓮が抱いてきた涙雨を受け取ると、黒藤と縁は滂沱(ぼうだ)と涙を流した。

『す、すまぬ、主様、縁殿……』

その迫力に涙雨が負け気味だった。

結蓮は二人の様子に苦笑いをしている。

「黒、感動の再会をしてもらって構わないんだが、落ち着いたら話しておきたいことがある」

「うん」

目元をぬぐった黒藤が、コクコクと頷く。

涙雨を預かった縁は先に戻るというので、黒藤だけ邸内に入った。

窓を開け放たれた白桜の部屋の縁側に腰かけるふたり。

空はすでに昏(くら)くなっている。

「涙雨殿が二度も行き倒れ、どう考える?」

白桜の率直な問いかけに黒藤はうなった。

「んー、霊力枯渇、だけじゃないよなぁ……」

腕を組んで眉間にしわを寄せている。

白桜は話すことを決めた。

「もうひとつ伝えておく。作夜見家の長女は知っているか?」

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