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3 動き出す当主

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「作夜見? 作夜見は当主の秋生以外とは面識もないな。俺人間には嫌われがちだからさー」

黒藤は人間同士――陰陽師同士の付き合いが薄い。

生まれのことが知られていて、忌避されているせいもあるだろう。

現当主の逆仁が黒藤一本に絞れない理由のひとつだと白桜は思っている。

「作夜見が長女、作夜見冬湖が、涙雨殿と一緒に倒れていたらしい」

「――は?」

庭に向いていた黒藤の目が白桜に向く。

「言葉の通りだ。今、冬湖もこの家にとどめ置いている。秋生に連絡を取ったら、なんでも見合いを勧めて冬湖がキレて家出した――ということがあったらしい。それで、どこかでふつりと意識を失って起きたらここだった、と。黒い小鳥が空から降ってきてそれを受け止めたとも言っているが、涙雨殿の方は誰かと一緒に倒れていた記憶はないようだ」

「………」

黒藤が黙って視線を下げた。

白桜も考える。

「……烏(からす)に」

黒藤が声を出した。

「うん?」

「烏に聞いたんだ。涙雨が倒れていたこと、何か知ってるか? って」

「……うん」

烏とは、黒藤の配下の烏天狗だろう。

「答えられない、って言ってた」

「知らない、ではなく?」

「ああ……」

――答えられないということは、何かしらを知っている可能性がある。

「ちなみに、俺が式文飛ばすまでは探してたのか?」

「それが……俺、無月と仕事に出てて、縁はうちにいて涙雨は自由にさせてたんだ。力の補給用に霊符も持たせてたから、もう大丈夫だろうとタカをくくってて……白から連絡が来るまで、気づかなかった。面目ない」

「霊符? 持っているようには見えなかったけど……」

「こう、涙雨の羽の一枚を護符代わりに使ったんだ。さっき見たらその羽は霊符ではなくなってたから、途中で使ったのかもしれない」

と、自分の首元の後ろを指す黒藤。

そのあたりの羽だと言いたいようだ。

「……霊力枯渇とは、違う線だと俺も思う」

黒藤の声が低くなる。

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