どうしたらヤンキーになれますか!?-六花の恋6-【完】

桜月真澄

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突撃2 side水都

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ありゃ? なんかコガサクくん、聞いてたイメージと違う。

もっとオラオラした怖い人かと思ってたけど、ふわっと唇の端がゆるんだしゃべり方とか、怖い人よりも優しい人な感じがする……。

「わたし、どっちで呼んだ方がいいですか? 古閑くんの方がよかったらそうしますけど……」

「藤沢さんの好きでいいよ」

「じゃあ作之助で」

「……唐突だね」

ちょっと驚いた顔にさせてしまった。……はっ! また失礼なことをしてしまった!

「嫌でしたかっ? すみません、男子の友達とか小学生以来だったものでつい……ほ、ほら、小学生って男子も女子も下の名前呼びが多いじゃないですかっ?」

本当何言ってるんだわたし! 初対面で呼び捨てとか失礼だよ!

「こ、コガサクくんって呼びます! 愛称なんですよねっ?」

「そんなに慌てなくても……じゃ、それで。で、一番の疑問なんだけど」

「なんですか?」

これ以上押すのは申し訳ない。とりあえずコガサクくんの話を聞こう。

「なんでヤンキーになりたいの?」

「母様に憧れているからです」

「………」

コガサクくんは片手で頭を押さえた。

それから横気味に顔をあげて、わたしを胡乱な目で見て来た。

「……お母さん、ヤンキーなの?」

「中学の頃ヤンキーだったそうです」

母様の武勇伝は、羽咲ちゃんのお父様がよく話してくれるから知っている。

コガサクくんは、うーんとうなった。

「それで……ヤンキーを経験したい、と……?」

「はいっ」

元気よく肯くと、コガサクくんが今度は両手で頭を抱えた。

ありゃ? そんな悩ませるようなこと言っちゃったかな……? 

羽咲ちゃんたち以外まで頭抱える内容だったとは……。

「藤沢さん、一つ言って置くけど」

「なんですかっ?」

こ、心得とか教えてもらえるのかなっ? ドキドキしてきた!

「人を殴れる?」

人を? 殴る?

こくりと肯く。

「はい。よく変な人に声をかけられるので、ぶっ飛ばして逃げてます」

「……マジ?」

コガサクくんが、頭を抱えていた両手をその形のまま宙に浮かせて固まった。

「幼馴染の二人が空手習ってて、護身術程度には教えてもらいました」

由羽くんと羽咲ちゃんのことだ。

由羽くんは高校に入るのを機に辞めてしまったけど、羽咲ちゃんは高校でも空手部に入ると言っていた。

「……なんてことしてんだよ幼馴染……」

えっ? なんで羽咲ちゃんたちが恨まれてるのっ? 誤解を解かないと!

「でもその幼馴染たちと父様が厳しくて、中学の頃はわたしがヤンキーになろうとすると全力で止められていました……」

羽咲ちゃんたちに悪いことはないと伝えたくて言ったら、コガサクくんは大きく肯いた。

「幼馴染も父様も正解でしかないよ。その人たちの意見をきいてた方がいいと思う」

……う、コガサクくんも羽咲ちゃんたちの味方だった……?

「コガサクくんはヤンキーやってるじゃないですか」

新入生なのに学校で有名になってるくらいのヤンキーなのに……。だから弟子入りしようと思ったんだけど……。

コガサクくんは、軽く首を横に振った。

「俺は別にヤンキーやりたくてやってるわけじゃないんだよ。この図体と目つきの悪さのせいで喧嘩売られることが多くて、適当に相手してたら今の状態。自分からなりたくてなったわけじゃない」

え、そうなの? ………コガサクくんは巻き込まれ系でしたか……。

「そうなんですか……」

しょんぼりだ。せっかくだと思っていただけに……。

「だから藤沢さんは、見た目の点では得しかしてないんだよ」

「……そうなんでしょうか……」

見た目……由羽くんは、父様に似てるって言ってくれるけど……。

「あと髪は染めてないから」

コガサクくんが、今までになく強い口調で言って来た。

「地毛ですか?」

「クオーターなだけ」

「ピアスとかもしてませんね」

「校則違反でしょ、それ」

確かにコガサクくんの恰好は、校則に触れるものは一つもない。

髪が赤みが勝ってることをのぞけば、髪型はよくいる男子高校生って感じだし、アクセサリーの類もないし制服の着崩しもない。……。

「もしかして真面目な優等生でしたか……?」

わたし、突撃する相手を間違えた……?

「喧嘩やってるあたり、優等生ではないね。校則に違反する面倒にかける気力がないだけ」

ふむ? 無気力キャラというやつかな。

「じゃあコガサクくんはヤンキーじゃないんですね……」

声ががっかりしてしまうのを隠せなかった。

せっかくヤンキーのお手本を見つけたと思っていたのに……。

わたしが落ち込んでいると、コガサクくんが「あのさ」と言って来た。

「藤沢さん、なんでヤンキーになんてなりたいの? お母さんに憧れてるにもほどがあるだろ」

「……私、父様と母様の実の娘じゃないんです」

「え、急に重くなったな……」

コガサクくんは顔を引きつらせたけど、こほんを咳ばらいをしてから「……俺に話していいんなら、聞くよ」と言ってくれた。

わたしはうつむきながら話す。

「それでも、父様も母様も実の子のように可愛がってくださって……恩返ししたいのと同時に、父様や母様みたいになりたいんです」

優しくお強い父様と、お強く優しい母様。

くださった愛情に、少しでも答えたい。

「そして母様は、わたしの憧れそのものです。母様みたいになるにはヤンキーを経験しないと!」

「……藤沢さん」

「はい?」

コガサクくんが、一段低い声で呼んできた。

なんだろう、気が変わってくれたのかな?

「やめなさい」

「え……」

「ヤンキーはやめておきなさい。藤沢さんには向いてないよ」

「っ……、こ、コガサクくんはヤンキーで有名じゃないですか!」

「俺は自衛のために仕方なくって言ったろ。自分からヤンキーになりたいなんて乗り込んでないよ。そもそも――」

「……なんですか」

コガサクくんは、軽く息を吸ってから長く吐いた。

そのあと、平坦な目で私を見て言った。

「ヤンキーのなりかたなんて、俺もわかんない」

「あ……」

や、ヤンキーのなりかた……。

「藤沢さんが俺みたいに不良から絡まれやすい体質なら俺の過去語るけど、藤沢さんが遭ってるのは喧嘩売られてるんじゃなくてナンパだろ。ナンパから自衛するのはもっともだけど、それやっててもヤンキーにはなれないと思うよ」

「……そう、ですね……」

そんな……ヤンキーで有名なコガサクくんが、ご自分ではヤンキーとは思っていなかったなんて……。

「……そこまで悲壮な顔しなくても……」

コガサクくんに、呆れられたのか同情されたのか区別のつかない声音で言われた。

「だ、だって……羽咲ちゃんと離れ離れの高校になる理由なんて、みんなの目を盗んでヤンキーになるため、くらいしかなかったんです……」

「うさちゃん? うさぎ?」

ぐすっと、目元をぬぐう。泣きたくないのに勝手に涙が出て来る……。

「親友です。総常(そうじょう)高校に行きました」

「うわ……ってか親友の目を盗んでまでヤンキーになりたかったんだ……」

「はい」

総常って聞いてコガサクくんは少し驚いていた。県下トップの公立校で、全国的な知名度もある学校だからかな。

……ヤンキーになることは、わたしにとっては母様への近道だった。

コガサクくんは、はー……と長く息を吐いた。

「……とりあえず、俺を頼られてもなんも出来ないし、藤沢さんにその道は勧めない」

「………そうですか……」

コガサクくんに念を押されて、もう諦めるしかないとわかった。

ふらりと立ち上がる。

突っ立ってから、頭を下げた。

「読書の邪魔しちゃってすみませんでした。失礼致します……」

「あ、う、うん……」

コガサクくんの返事は戸惑っているように聞こえた。

わたしは期待していただけにショックが大きい。

……いや、勝手に期待されて失望されるなんてコガサクくんにはとんでもない失礼だってわかってるけど……。

フラフラした足取りで、屋上を出て階段を下りる。

はあ……とため息がもれた。

母様……わたしにヤンキ―の素質はないのでしょうか……。


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