桜の鬼【完】

桜月真澄

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弐 婚約者と鬼の関係

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湖雪は呆然と呟いた。

だから、私に死ねと。この身体は《ゆき》のものだから。

意識である《湖雪》を殺して、《ゆき》を取り還す。

……そういうことなの……?

「そうだ。腹が立った。俺がなりたくてもなれなかった人間を諦めてるお前に腹が立った」

だから――と続けた。

「お前は生きろ。生きて、ゆきが叶えられなかった未来を見ろ。そして終わって死ね」

残酷な言葉は、しかし湖雪に力を与えた。

《生きる》ために必要な、勇気。くっと唇を噛んだ。

「じゃあ、櫻はどうするの? ずっと待ち続けていた人を、取り還せなくてもいいの?」

「構わない。俺は次の魂を待つ。お前が生き抜けば、次の奴はそんな風に生きることもないだろう」

櫻は、ふわりと笑った。

その笑顔すら懐かしかった。

湖雪の中の、何かが知っている。

湖雪は手を差し伸ばした。気づかなかった。―――桜に触れることは、出来ない。思念体の櫻は、実体を持たない。

「でもさっき……車の運転……」

していたよね? と問うと、櫻はうなずいた。

「こう、ちょっとな、力を加えると実体を持つこともできる。すごく疲れるから滅多にやらんがな」

と、手を握ったり開いたりしてみせた。湖雪が触れることはなかったが、ここまで来た経緯を考えると、それは本当なのだろう。

「――湖雪さん?」

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