桜の鬼【完】

桜月真澄

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弐 婚約者と鬼の関係

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人間になりたかった鬼。人間になれず、人間を愛した。愛するあまり、殺すことを躊躇った。それでも殺して殺して、そしてたった一人を見つけた――《ゆき》。

愛した故に、最後も、人間を殺す終わりになってしまった。

「そんな櫻はどうしてまた?」

「存在しているのか、か?」

湖雪はこくりと頷く。

殺されることはなかった鬼が、殺された。しかし今、この世界に息づいている。

「俺は今、生きているわけじゃない。鬼としても、勿論人間としてだって。いわば残留思念ってやつだ」

櫻は片手を軽く掲げて見せた。その手は風に溶けるように形が揺らめく。実体を持たない……ということだろうか。

「桜の樹に、残った……?」

残留思念体。

「ああ。あれは《夏居》の家にあった樹だった。ゆきの最期のとき、俺は夏居に刀で首元を貫かれ桜の樹に張り付けられた。しかしそれでも死ねず、俺は夏居を殺した。その時……もう死んでもいいと思った。人間になりたいという願いも、総て叶えられた気がしたんだ。ゆきに逢えたことで。――そして俺は死んだ。だが、心残りはあったんだな。ゆきに、もう一度逢いたかった。それをあの樹がわかっていたのか――俺の一部を取り込み、封じた。以来、俺は桜の中に眠りゆきを待った。早春の度に華をつけていた桜は咲かなくなったのは、俺が宿ったからだ。……――桜が咲くのはゆきが生まれるとき」

《ゆき》が生まれるときに咲く、気まぐれな桜。

最後に咲いたのは、十年前、雪の中――《夏桜院湖雪》が誕生した日。

「……わたし………?」

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