桜の鬼【完】

桜月真澄

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弐 婚約者と鬼の関係

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もっとも、俺は鬼を名乗れるほどにその存在ではないけどね、と付け足した。

湖雪は少し胸が軽くなる。

初めて海を見た瞬間よりは重いが、惣一郎を見た瞬間よりは軽い。

「さくら、という名か?」

惣一郎はまた櫻に視線を戻した。

「ああ」

「そう呼んでもいいか?」

「構わないが……」

「字は?」

「貝を二つ使ったものだ」

「《櫻》だな。ありがとう」

「……鬼を名乗り約するなら俺とも約定しろ」

「なんだ? 櫻殿」

「湖雪を泣かせるなよ」

さあっと風が吹き抜け、先ほどまでの空気を連れて行ってしまう。新たにその場に満ちたのは、重くなまぬるい空気。忠告は、警告にして慟哭だった。

櫻の《鬼》が目覚める。

惣一郎はしかし、気圧されることなく頷いた。朗らかにすら見える表情だった。

「ああ。卿に約束しよう」

「そうか。虹琳寺の鬼は情が深い」

櫻も頷き、とんと湖雪の背中を押した。

「……え?」

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