Black cat ~白と黒~

宇宙

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大切な、人。

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『まるちゃん先生ー!こんにちは』

「おぉ。真白ちゃん、今日も来たんだね。」
先生は、悲しそうに笑う。

『ちょ、先生やめてくださいよ~。』

「ごめんごめん。あ、そういや今頃帝君が…」

『帝っ!?え、リハビリ室にいるっ?ごめん、先生。行ってくる!』

「えっ!?真白ちゃん走っちゃだめ…」

急いでリハビリ室にダッシュする私。
帝。帝帝帝っ!
急いで移動している私は、先生が苦笑いしていることに気がつかなかった。


「帝君のこと大好きなんだなぁ、真白ちゃんは。」


『帝っ!』
病院だって分かってるけど思いっきりドアを開けた。

「…っは、真白っ!?お前、あれほど走るなって…!」

『帝っ!』
人の目なんか御構いなしに帝に抱きつく。

ぎゅうっ、と大きくてあったかい帝に。やっぱり、落ち着くなぁ。
走ったせいで頭が真っ白になる。おまけにガンガン頭痛がするものだから、力がうまく入らない。無抵抗に帝に身体を預ける。

「ったく…んだよ。てかあんま心配させんな。大丈夫か。」
なんだかんだ言って私の背中に手を回して、抱きしめ返してくれる。
私が今苦しんでいるのだってこの人にはお見通しだろう。

そんな彼は、私の大事な、大事な人。
倉科 帝Kurashina Mikado
身長はめちゃくちゃ高いし。声は低いし。顔だっていけてるほうなんじゃないかな。
よく女の子に絡まれてるから、きっとモテる。

帝とは、出会ってもう6年。
初めて会った時は、帝はとても小さくて。細くて。
絶望したような真っ黒な瞳をしている彼を見て、泣きそうになった。

彼は、脳動静脈奇形という先天性の病気を持っていた。

それにより、脳出血を起こしてしまった彼を見ているのはとても辛かった。
頭痛や嘔吐が酷く、好きなものを食べることができない。
手術後、意識障害をおこし、一ヶ月近く植物状態。
失語症のため、伝えたいことがあっても言葉を忘れてしまい口に出せない。
出せたとしても呂律が上手く回らなくて、ボロボロ泣いていたっけ。あ、帝じゃなく私が。

そんな辛すぎる症状も今では回復。しかし、左半身の麻痺で後遺症が未だに少し残っている。
なんか、動かすのに苦労しているわけではなくて、力が急に入ったりして抑えるのが難しいらしい。でも、今までの6年間の努力、着々と実ってきている。

普通はここまでリハビリを頑張ってこれる脳動静脈奇形の子は少ない。
大抵の子は、帝と同じように脳出血、または痙攣を起こすし、何より学業に支障が出るそうだ。そんな中、帝は人一倍努力した。

帝のお兄さんがとても優秀だったため、入院中に帝は教えてもらい勉強に励んだ。

小学校では、高学年の時に脳出血がおこったが出席日数はしっかりしていたから卒業できた。
中学もなんとか援護されながら卒業。
今年は、頑張った甲斐もあってか高校に入学できた帝!

出席日数の関係で進学校には行けなかったけれど、行けただけでも帝は嬉しいみたい。

帝はもう退院しちゃったから会う機会が全然なくて寂しかった。

「…真白。お前、痩せた?」

『え?そんなことないと思うけれど…って、うわぁっ』
帝は、私の脇に手を入れて持ち上げる。

恥ずかしくて睨むけれど、彼の眉間には深い皺ができていて…。
「軽い。お前、ちゃんと飯食ってる?てか俺ん家こいよ。母さんが喜んで夕食作りそうだし」

『食べてる、よ。…え、行っていいの!?行きたい行きたい!』
帝の家とか久しぶりだなぁ。

ギュッ
『え?』
「ばーか。迷子にでもなられたら困るからな。」

繋がれた手が、あつすぎるほどの熱を持ち始めた。
『んなっ。何よその子供扱い!帝だってまだ子供のくせにーっ!』
「っるせ。もう黙れ。」
そういう帝の耳は真っ赤。
あーもう。かーわいいな。
結局その後も言い合いしながら帝の家へ向かうのであった。


「おかえりなさ…って、きゃぁっ!?もしかして真白ちゃん?
お久しぶりねー!!あらやだ、随分と美人さんになっちゃって。」
『ちょ、紗子さん、ギブ。ギブです。』

今思いっきり私にタックルしてきたのは、帝のお母さんこと倉科 紗子Saekoさん。
「あらやだ、ごめんなさいね。久しぶりの再会に感動しちゃったのよ。」

『いえいえ。こちらこそ。…変わってないですね、安心しました。』
記憶のままだ。紗子さんも、このお家も。帝は、大きくなりすぎちゃってるけれどね。

するとニコニコと笑顔だった紗子さんの顔が一瞬にして真っ青に変わる。
『え、どうかしました?』

幽霊が後ろにいるとか言わないでくださいよ。あぁ、考えただけで腰抜けそう。
「ま、真白ちゃん。髪、染めちゃったの?」
あ、なんだ。そっちか、よかったぁ。

『染めてないです。ウィッグなんです。これ。』
自分の髪の毛を指差して苦笑い。

ここでずっと黙っていた帝が口を開いた。
「ここは俺たちしかいねぇんだし、外してもいいんじゃねえの?
俺も、お前の姿、見てえし。」

『はは、そんなこと言ってくれるのは帝くらいだよ。』
こんな気持ち悪い髪の毛…。

「いいから外せって。あと、カラコンも。目に良くねえぞ?」
『…うん。』

震える手でウィッグとカラコンを丁寧に外す。
栗色の髪の下から覗くのは、白髪。いや、正確に言えば白に近い金髪。

帝と紗子さんの瞳が、しっかりとこちらを見据えている。

そんな二人の事さえしっかり視界に映らない。
茶色のカラコンをしていたんだけど、外すとやっぱり違和感しか残らないなぁ。

いつか…いつか、これを外して堂々と過ごせる日が来るのだろうか。
いや…来ないだろうな。てか来なくていい。
私の口から出たのは、諦めにも似た嘲笑。
こんな薄汚れた世界に、私のことを認めてくれる人なんて…この先いないだろう。

目の前にあるガラステーブルに映る私は、なんとも醜かった。
特に、私の大っ嫌いな、赤い瞳。
「はぁ、やっぱり綺麗ね。」
紗子さんは感嘆の溜息をこぼす。別に綺麗なんかじゃないのに。
私は、アルビノだ。

昔から世界のみんなから差別されてきた、アルビノ。
今までに日本人のアルビノの方々と会ってきたが、誰も赤い瞳なんていなかった。
いや、それが当たり前なんだ。

カランッ

麦茶が注がれているグラスの氷がガラスにぶつかる。

『日本人は普通青色か灰色になるはずのアルビノなのに…
私はいらない子だからこんなことになったのかもね』

そう言っただけなのに、君は、貴女は、とても傷ついたような表情をしますね。
そんな顔をするのは、何故ですか。
だって、そうでしょう?

青色だったら、ハーフだって誤魔化すことができた。
灰色だったら、色素が薄いんだって言い訳になった。
…赤色はただただ気味悪がられるだけだ。

カランッ

ぶつかる。2回目。

「真白…。おまえ、」
『ふふ。分かりきったこと言うなって?ごめんごめん。』
張り詰めた空気の中は、息が苦しい。

カランッ

3度目だっただろうか。その繊細な音とともに頭が真っ白になった。
次第に頬は熱を持ち始める。
叩かれた。

ぼーっとする頭でその事実だけが永遠に木霊した。

痛い。誰に叩かれた?帝じゃない。これは…
「真白ちゃん、そんなこと二度と思っちゃダメ」
私を見て今にも泣きそうになっている紗子さんにだ。

カランッ
煩い、煩い。

「真白のこと送ってくるわ。」
そう言って君は立ち上がる。
金縛りにあったかのように動かない足に喝を入れる。

『今日は急にお邪魔してすみませんでした。失礼します。』
君の後を追いかける。

カランッ
そんな音を最後にリビングを出た私が最後に見たのは、貴女の頬を伝う雫でした。

「…なぁ。真白」
『ん?』
星なんて全く見えない雲だらけの空の下。

「お前は、俺のこと病気持ちで気持ち悪いって思うか?」
『、は。帝ってば馬鹿にしてんの。それくらいで離れていくわけないし、第一そんなこと思ったこともない。』

彼の歩く速度が心なしか遅くなったような気がした。
「俺もだよ。」
『何。そんなありきたりな言葉使うやつなんか知らん』

ふざけんな。そんな、どっかの台詞から抜き出してきたような言葉なんて聞きたくもない。
馬鹿にすんな。
「ちげえ。」

『…。』
何が違うっていうの。俺も真白のこと気持ち悪いだなんて思わない、ってでしょう。

言い訳なんかいらない…
「俺は、自分のこと気持ち悪いなんて思ったことない。嫌いなんて思わない。
寧ろ自分が好きだ。」

耳鳴りがする。痛い。煩い。黙れ。

「そう思えるようになったのは、母さんや医師の…真白のお陰だけど。
でも…俺は、逃げなかった。自分に向き合ってんだよ。」
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