盤上に咲くイオス

菫城 珪

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閑話 ステラ・ルシェ・ミナルチークの蹉跌

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閑話 ステラ・ルシェ・ミナルチークの蹉跌
 
 何なのよ、もう!
 態度の悪い女を追い出したら、ルーイ様から「なんて事をしてくれたんだ!」ってめちゃくちゃ叱られちゃった。何でも、あの女はこの国よりもずっと大きな国の偉い人だったらしい。
 それならそうと言って欲しいし、あんなつまらないドレスなんかじゃなくて一目で分かるような派手な格好して欲しかったわ。
 大体、ヒロインである私がそんなモブの事知るわけ無いじゃない!
 そうイライラしながら廊下を歩いてルーイ様を探す。どうしても買って欲しい宝石を見つけたからおねだりしに行こうと思ったのに全然捕まらないから嫌になっちゃう。
 ロビンのお父さんがやっているお店が勧めてきた物で真っ赤で大きなルビーがついたネックレス。私にぴったりの物で、絶対欲しいのよね。
 最近はあれもダメこれもダメばっかりで全然買ってもらえないんだもの。たまには買ってくれたっていいのに。
 そうやってルーイ様を探してお城の廊下を歩いていれば、庭の方が騒がしい事に気が付いた。お城の窓から覗いて見れば、大きなドラゴンが二頭、空から庭に降りてくるところだった。
 鋭い牙や爪が見えて、思わず小さく悲鳴を上げちゃった。でも、すぐに思い直す。
 あのドラゴン達を追い出したら皆見直してくれるんじゃないかって。
 ヒロインであるステラはストーリーの中で聖女として認められる為に魔物退治に行くんだけど、私はまだ行けていない。魔物退治に行きたいって言ったのに、行かせてもらえなかったんだもの。お気に入りの近衛兵を連れて行こうとした事でルーイ様が嫉妬したみたい。
 挙げ句の果てに「お前の実力じゃ行っても周りの迷惑になるだけだ」なんてマーティンまで文句言ってくるから嫌になって行くのを先延ばしにしていたんだけど、運が良かったわ。
 ちまちま魔物を倒すより、ドラゴン退治の方がかっこいいもの! ドラゴンを倒した聖女って箔もつくわね!
 見るからに真っ黒で禍々しいドラゴンを見ていれば、その隣には見たことの無い青い髪をした男の人がいて、真っ黒なドラゴンの首を撫でている。あの人がきっと元凶ね! 戦いになる前に私が行って倒してやるわ!
 そう思って廊下を走り抜ける。またはしたないって怒られそうだけど、国のピンチに駆け付けてこそヒロインでしょ?
 庭に続くドアを開ければそこにはルーイ様やいつもその周辺にいる偉い人達がいた。
 さっき見かけた青い髪の男の人に全員が深く頭を下げているのを見て、やっぱりアイツが悪者なんだと確信する。さっさと退治して、ご褒美にあのルビーのネックレスを買ってもらわなきゃ!
 そう思って飛び出そうとしたら誰かに首根っこを掴まれて一瞬首が締まる。
「きゃあ! ちょっと、誰よ!」
「大人しくしていろ」
 ムカついて大きな声を出したら低くて冷たい声が降ってきて思わず言葉を飲み込んだ。見上げた先にいるのはオルテガやマーティンに良く似てるけど、ちょっと老けた人だった。
 良く見れば、マーティンのお父さんだ。どうでもいいモブだから名前は忘れちゃったわ。
 夕焼けみたいなオレンジ色の瞳は怒っているようで尻込みしてしまう。自分よりも大きな男の人に睨まれたら怖いでしょ。
「な、何よ。早くルーイ様の所に行かなくちゃ! あのドラゴン達を追い払ってやるんだから」
 それでも言い返せば、マーティンのお父さんは呆れたように深い溜め息を零す。王太子妃に対して何なのよ、この態度! 後でルーイ様に言い付けてやるんだから!
「済まないな、ガーランド卿」
「いえ、間に合って良う御座いました」
 聞き覚えのある声がして自然とそっちを見る。そこにいたのはルーイ様に良く似た薄紫がかった銀髪に赤っぽい金色の瞳をした背の高い男の人だ。ルーイ様より大人っぽい顔には見覚えがある。
「リンゼヒース!?」
 びっくりしてつい大声が出ちゃった。だって、会おうとしても全然会えなかったキャラが急に出てくるんだもの。
 ゲームの通りならリンゼヒースやサディアスなんかの歳上組は邪魔してくる筈なのに、どっちも全然絡んで来ないからここにはいないのかと思ってたわ。
 それにしても、リンゼヒースはカッコいいな。こうやって出て来たなら是非とも攻略しなきゃ。
 歳上組の中ではリンゼヒースが1番好きなんだ。シナリオもイチャイチャ満載で素敵だったし!
「失礼な態度は慎め。王弟殿下の御前だぞ」
 イライラした様子のマーティンのお父さんをキッと睨み付ける。フラグ立ててるところなんだからモブは引っ込んでてよね。
「構わない。どうせ言ったところで無駄だろう」
「ごめんなさい、あんまりびっくりしちゃってぇ」
 リンゼヒースはやっぱり優しいなと思って甘えてみるが、彼は私の方に近寄りもしない。それどころか見向きもしない。女の子に優しい筈なんだけど……。
「この者は如何致しましょう」
「そうだな、グラシアール殿の歓待が終わるまで何処かの部屋に入っていてもらおう。これ以上のいざこざを引き起こされたんじゃ後で俺がリアに怒られる。アイツを本気で怒らせると面倒なんだよ……」
「それに関しては同感です」
 困ったように肩を竦める仕草をするリンゼヒースに見惚れていたけど、二人の会話に出て来た聞き捨てならない名前に思わず彼を睨んでしまう。
「……全く、こんな様子じゃ先が思い遣られるな。ガーランド卿、後は頼んだ」
 リンゼヒースは冷たく言うとさっさと庭に出て行ってしまう。残された私は呆然とその背中を見送るしか出来なかった。
 女の子に優しい筈のリンゼヒースがか弱い女子が男の人に捕まってるのを見て助けてくれないなんて……。
 やっぱりシナリオが狂っているのかしら。だから、皆が私に冷たくて何もかも上手くいかないんだわ。
 ……それもこれも、全部セイアッドのせいだ。
 アイツが私を攻撃しなかった時から全部狂っている。本来ならとっくの昔に自殺している筈なのに、そんな話も聞かない。
「……君には少しの間謹慎してもらうぞ」
 考え事をしていたらマーティンのお父さんに引き摺られるようにして歩き出す羽目になって転びそうになる。王太子妃に対してこんな扱いするなんて、絶対後で文句言ってやるわ!
「ちょっと!! 自分で歩けるわ!」
「おい」
 マーティンのお父さんは私の事を無視して近くにいた騎士達に声を掛けた。女の騎士二人が私の両脇を抱えて歩き出すから抵抗したけど、全然敵わない。
 もう!この馬鹿力!!
 なんで私ばっかりこんな目にあわなきゃいけないのよ!
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