シドの国

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なんでも人形ラボラトリー

第47話 馬鹿と煙

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~なんでも人形ラボラトリー マダム“サリファ”の占星所~

「そんじゃあ“なぞなぞごっこ”をはじめましょーかね」
 ラルバがなまめかしい紫のソファに寝そべって頬杖ほおづえをつく。燭台しょくだいに立てられた霊祓灯れいふつとうがゆらゆらと怪しく揺れ、薄気味悪い大部屋のあやしさをより一層濃くしている。
 昼間の騒動から半日が過ぎ、ハザクラが味方した賊のアジトである地下街下層の占星所に戻ってきたラルバ達。そこには別行動になったイチルギとバリアの代わりに、先程合流したラデック達の姿があった。
 ラルバはどこからか盗んできた煙管キセル仰々ぎょうぎょうしく吹かして煙で輪っかを作り、ハザクラの顔に命中させる。ラデック達やティエップ、そして地下街を取り仕切る賊達が神妙な面持ちで見守る中、ハザクラは鬱陶うっとうしそうに煙を払い手元の資料を読み上げた。
「ラルバによる尋問じんもんの結果、ここにいる全員の自白は真実であることが証明された」
「勝手に内容を変えるな!!”正しくは“本人にとって真実であることが証明された”だ!!」
「……ラルバによる尋問の結果。ここにいる全員の自白は“本人にとって真実であることが証明された”。この時点で嘘をついている者がいない、もしくはラルバが見抜けないほどの実力者が紛れ込んでいることがわかる」
「言葉が通じない状態での尋問は骨が折れたが……間違いなく嘘は言っていないだろうな!」
 続けて、発言権が回ってきたハピネスがあざけるように口を開く。
「でもってその“ラルバが見抜けないほどの実力者”だが、前にイチルギとラルバでだまし合いをさせたことがある。その結果、今回のような一方的尋問であれば容易よういに見抜けることがわかっている。使奴は演じるより見抜く方が得意なようだね。だから裏切り者の心配はほぼないものとしていいと思うよ。つまり、今回は全員めでたく正直者ってわけだ」
 そして最後にラデックが咳払いを一つ挟んで立ち上がる。
「もしラルバの推測通り“使奴研究員がこの騒動をけしかけた”としたならば、何らか方法で誰かに細工をしたはずだ。しかし、魔法ならばラルバが見抜けないはずがない。ラルバ達使奴が見抜けないと言うことは、魔力を有さない魔法……異能による犯行だ」
 そこまで聞いたラルバは目をつむって煙管を大きく吸い込み、ティエップの方をじっと見つめながら口を緩く開けもわもわと煙を吐き出す。
「二重人格者か、豹変ひょうへんさせられたのか……そも、この女は本当に”罪を犯した“のか……」
 ティエップは怯えながらも強い口調で意見する。常夜の呪いが解かれている為言葉は理解不能だが、その内容が犯行の自白であることが容易に想像できた。
 しかし、このティエップの自白にラデックは全く動じず、微塵みじんも疑うことなくラルバに提案をする。
「その大悪党は臓器や人身の売買なんかもしていたんだろう?売買をしたならば買い手がいるはずだ。探し出して問い詰めよう」
「時間がかかるので却下。もっと単純明快簡潔にいきましょーやラデックさん」
「それができたら苦労は……」
「できるので苦労はナシ!!」
 ラルバは寝転がった姿勢から大きく飛び跳ねて、賊の1人の正面に着地した。そして不気味な笑顔で威圧するように顔を覗き込む。
「出前を取れ。美味いものをとにかく大量に!!」




「毎度ー!!」

「はい、丁度お預かりしますねぇ」

「こちら大変お熱くなっておりますので~」

「次回から使えるクーポン券ですぅ。良かったらどぞぉ」

「お兄さん1人で持てる?重いから落とさないようにねぇ!」
 ハザクラは占星所の入り口で筋骨隆々きんこつりゅうりゅうの熟年の女性からケースに入った商品を受け取る。
「……どうも」
「あらぁ力持ち!!そ・れ・と!これ……お兄さんカッコいいからサービスっ!」
 両手が塞がっているハザクラの胸ポケットに、女性が連絡先を書いた紙をスッと差し込んだ。
「いつでも連絡ちょーだい!次はお店に来てネッ!」
 そう言って女性はハザクラのほほにキスをしようと近寄るが、露骨に後退したハザクラに避けられる。あざとくウインクを飛ばして去っていく女性を見送ってから、ハザクラは宴会場と化した大部屋へと戻った。
「んあ!クラの助おっかえりぃー!それ何?」
 ピザを片手に駆け寄ってきたラルバに、ハザクラは顔をしかめたまま荷物を強引に手渡す。
「おっ!ケーキか!そろそろ甘い物が食べたかったんだよねぇ」
 ラルバは手に持っていたピザを一口で頬張ほおばると、大量のケーキが入ったケースをテーブルの上に乗せる。
 既にテーブルの上は国中の料理が所狭しと並んでおり、部屋の隅には使用済みの食器類が山の様に積み重なっている。ラルバの指示で集められた数十人分の出前はほぼラルバ1人で平らげられ、ラルバ以外の人間は皆困惑の表情で呆然ぼうぜんとしている。
 あまりに奇妙な光景に耐えきれず、賊のうちの1人がラデックに顔を寄せた。
「おい、助けを求めた立場から言うのもアレなんだが……あいつ頭大丈夫か?」
 ラデックは出前のカツ丼をもそもそと頬張りながら首を左右に小さく振る。
「んぐ……ラルバの頭は大丈夫じゃないぞ。俺も時々何度か結構文句を言ってる」
「おいおい困るぜ……!あいつにとっては遊びかもしんねぇけどよ……こっちは親の代からの敵討かたきうちだってーのに……!!」
「だが、結果は保証する」
「どうだか……」
「保証する」
 この話を聞いていた他の賊も同じように難色なんしょくを示し、互いに顔を寄せて陰口を叩く。ラデックがカツ丼の残りをかき込みながらラルバの方を見ると、間抜け面でホールを3つ平らげた所だった。
「んん~このタルト美味いなぁ~!クラの助もおひとつどう?」
 差し出されたタルトに、ハザクラは拒絶する様にてのひらを突きつける。そしてジャハルから借りた抗魔こうまスカーフをまとい、常夜の呪いから脱した状態でラルバに問いかける。
「結構だ。それよりも、そろそろこの作戦の意図を聞こうか」
「意図?」
「大量の出前を注文した事についてだ。この食料、どうするつもりだ」
「食べるに決まってんでしょ」
「食べてどうする」
「お腹いっぱいになるよ?」
「腹がふくれてどうする」
「満足する」
 にこりと笑うラルバの一問一答に、ハザクラは呆れ返り大きく溜息を吐く。しかし、ラルバは突然声のトーンを落として冷めた口調で指摘する。
「愚か者め」
 ハザクラはいぶかしげな目をラルバに向けるが、ラルバは嘲笑ちょうしょうよりも叱責しっせきする様な真剣な表情でハザクラを見下ろしケーキをかじる。
「その程度の思慮分別しりょぶんべつで世界を変えようなどと、思い上がりもはなはだしいぞ小僧が」
 呆れ半分警戒半分といった表情で黙りこくるハザクラに、ラルバはソファにふんぞり返って指を鳴らす。その音にざわめいていた周囲は静まり返り、全員がラルバの方を向く。
「…………何故こっちを見た?」
 ラルバが独り言の様につぶやく。周りの人間は口々にボソボソと何かを話し始めるが、呪いのせいでラルバとハザクラには伝わらない。そこで、抗魔スカーフで唯一呪いの影響を受けていないハザクラが代表する様に一歩前へ出る。
「お前が指を鳴らしたからだろう」
「何故指を鳴らすと見るんだ?」
「何が言いたい?」
「何が言いたいか考えろ」
 再び重苦しく見下してくる様なラルバの眼差しに、ハザクラは再び溜息をいて答える。
「突然指を鳴らされたら気になるだろう」
「ああ、そうだ。私もそう思う。だからこそ、皆に注目してもらいたい今、指を鳴らしたわけだ」
「……それだけか?」
「さっき、何故出前を注文したかと聞いたな。お前だったらどう考える。ハザクラ」
 ハザクラはあごに手を当て、しばらく考えた後に口を開く。
「……さあ、さっぱりだ」
「だろうな。そこに答えなどないからな」
「何が言いた「何が言いたいか考えろ、と言ったはずだ」
 ラルバはハザクラに人差し指を向けて言葉をさえぎる。
「あちこちに仕掛けたカメラでこちらの動きを監視している敵。相手はこちらが隠れていることを知っていて、尚且なおかつこちらをおそおうと画策かくさくしている。そんな相手が立てこもって出前を大量に注文していたら……気にならないか?」
 ラルバは再び指を鳴らす。
「これは言わば、奴らに向けて”指を鳴らしている“わけだ。こちらを見ろ、とな。私は史上最強の人造人間だ。近づくのも関わるのも恐ろしい。出前を届けに行った人物が全員工作員に見えても不思議じゃない。だからこそ、監視カメラという一方的な情報収集手段に頼らざるを得ないわけだ」
 ハザクラが納得できずに反論する。
「だったら出前にこだわらなくてもいいはずだ。ただここにいるだけでも充分不審ふしんだ」
「それじゃ可能性だけで確実性がない。ここは治安最悪の地下街最下層だぞ。出前の配達人だって辿たどり着くまで気が気じゃ無い。そんな場所に大量の人間が出入りするなんて異常な風景、無視せざるを得んだろうよ」
「第一、“監視カメラを見ている”というのも推測でしかないだろう」
「はっ、推測だろうが事実だろうが関係ないね。ところで、話は変わるが……これを知っているか?」
 ラルバが手元の紙を取り出してハザクラと周りに見せる。紙には独特な魔法陣が描かれており、淡く発光している。
「……ああ、追跡魔法か」
「そうだ、魔法陣が描かれている場所を感知できる上位魔法だ。昨日、ラデックにマーカーがくっついてるのを見て思い出してな」
 ラデックが思い出したかの様に首筋を撫でるが、ラルバは手をひらひらさせ「無駄だ」とジェスチャーをする。
「世界ギルドからつけっぱなしだぞ。まあそんなことはどうでもいい。この追跡魔法なんだが……“我々の時代”では犯罪行為にあたる魔法だったんだ。何故かわかるか?」
 ハザクラは口元に手を当ててうつむく。
「そうか……監視カメラ……!魔法陣が画面に映れば居場所が特定されてしまう……!」
 ラルバはニィっと口角を上げ、「やっとわかったか」と目を閉じる。
「地下街に幾つか仕掛けた魔法陣のうち、反応があったのは合計4ヶ所。そのうち3ヶ所はただの警備会社とか一般の事務所だろうが……1ヶ所だけ“とんでもない所“に反応がある。ここで間違い無いだろうな」
「何故わかる……?」
「まぁーたすぐ聞いちゃうのねぇ。その癖、直した方がいいよ。まあこればっかしは当てようがないからいっか」
 そう言って、したり顔でラルバは真上を指差した。
「上空15000m付近。そこにステルス迷彩をほどこした”使奴研究所“があるはずだ」
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