シドの国

×90

文字の大きさ
55 / 74
グリディアン神殿

第54話 女尊男卑の国

しおりを挟む
 グリディアン神殿周辺の地域は、なんでも人形ラボラトリーの様な灼熱しゃくねつの猛暑ではないものの相変わらず太陽は容赦ようしゃなく照りつけ、そこへ時折吹く微風そよかぜを頼りに一行は進んでいく。
 ジャハルは皆から少し離れて集団の後ろを歩いており、更にその後ろをのそのそと歩くハピネスの方を振り返って呼びかける。
「ハピネス!もう検問所はすぐそこだ!もう少し頑張れ!」
 しかし、ハピネスは何かをさとった様な微笑ほほえみでフラフラと左右に揺れ動き、譫言うわごとの様につぶやく。
「ふふふ……だからホバーハウスを返すべきじゃないって言ったんだ……だって3日だよ?私達、村から3日も歩いていたんだよ?普通徒歩で済ませる距離じゃないよ?」
「今更我儘わがままを言っても仕方がないだろう」
「そんなことはないよ。ジャハル君、おんぶ」
「自分で歩け」
 ジャハルに呆れながら軽くあしらわれたハピネスは、大袈裟おおげさに溜息をついて体調不良をアピールする。
「……人道主義をかかげる国のNo.2が盲目もうもく淑女しゅくじょに手を貸さないなんて。ああ~足が痛い~お腹も痛いよ~」
「盲目盲目って、そんなに言うならラルバにでも治して貰えばいいだろう!自分で不便な方を選んでいるんだから言い訳に使うな!」
「何を言うか……私は自分の運命に課された不条理に立ち向かっているのだよ……」
「じゃあ勝手に立ち向かっていろ」
「手助けは欲しい~……おんぶ~……」
 そんな調子でのそのそと身体を引きる様に歩くハピネス。グリディアン神殿の国境を囲む鉄柵てっさくの一角にもうけられた、質素で無骨な造りの検問所前に彼女が到着すると、ラルバがムスッとした顔でハピネスを軽く小突いた。
「遅い!次からそんな病気のカタツムリみたいに歩いたら背負って行くからな!」
「…………ラルバ。私、この旅が終わったらあのホバーハウス貰っていいかい?」
「はぁ?旅が終わったらって……ホバーハウスでどこに行くのさ」
「どこにも行かない。そこで暮らす」
「家建てればいいじゃん」
「……それもそうだね。お金出してくれる?」
「余ったらな」
 ラルバはケッタイな物を見る様な目でハピネスをにらみ、検問所の門番の方へ歩いて行く。
「ハローベイビー!今日も暑いねぇ!ご機嫌いかが?」
 ふざけたラルバの挨拶あいさつに、門番の女性は一行を怪訝けげんそうな顔で眺め吐き捨てる様に命令をした。
「女性は正面の通路へ!!男は右だ!!」
 耳をつんざく大声に一瞬気圧けおされるも、一行は暢気のんきなラルバの後に続いて渋々しぶしぶ歩き出す。鼻歌混じりに歩を進めるラルバは、ラデックの方を向いて笑顔で手を振った。
「じゃ!また後で!」
「会えればな」
 ジャハルも心配そうにハザクラを見送るが、ハザクラはジャハルに目もくれずラデックとラプーと共に通路の奥へと消えていった。男3人の背中を見つめながら、ジャハルは不安そうにイチルギに歩み寄る。
「大丈夫だろうか……イチルギ。私に幻覚魔法か何かでステルス迷彩めいさいをつけられないか?」
「必要ないわ。信じてあげなさいよ。仲間でしょ?」
「うう……それはそうだが……」
 ジャハルとてハザクラの実力をうたがってなどおらず、自分と手を合わせたラデックの能力もよく知っている。それらを加味した上でなお彼女の脳裏にこびり付いて離れないのは、ハピネスが前に装甲車の中で話した内容である。



「……グリディアン神殿からの帰還予定時刻になっても外交官2人は帰らず……世界ギルドがグリディアン神殿にうかがいを立てても知らぬぞんざぬでな……数日後に調査隊が向かった所……肉体改造で人の形を成していない2人が見つかった…… 四肢ししは根本から切断され、歯は全て引っこ抜かれてあごの骨も砕かれていた……何より陰部いんぶの改造、グロテスクな性玩具せいがんぐのように改造された陰茎いんけいが1人2本……尻の穴は血を流して常に開いたまま……女共にさんざ性奴隷せいどれいとしてもてあそばれた挙句あげくきたら糞尿ふんにょう垂れ流しで放置……世界ギルドが発見した時には餓死がし寸前で、イチルギが到着して直ぐに息絶いきたえた……いや、正確には救わなかった……か。あの状態の人間を治癒ちゆしても、どうせトラウマにしばらられ生き地獄だ……」


 ジャハルは再び思い詰めた様な顔でハザクラ達が向かった通路へ目を向ける。既に角を曲がってしまった3人の姿はなかったが、無骨な煉瓦れんがの壁の染みが不気味に笑う人の顔の様に見えて、やけに胸騒ぎがした。
「ジャハル、行くわよ」
 イチルギに手を引かれたジャハルはもう一度煉瓦の染みを見つめる。顔の様に見えたそれがただの染みであったことを確認してから、自分を納得させる様にうなずいて正面通路へ歩き出した。
「ハピネス……ハザクラを、3人を頼むぞ」
 ジャハルは横を歩くハピネスにそう呟くが、ハピネスは意地悪そうに笑いジャハルを揶揄からかう。
「どうしよっかなー。さっきおんぶしてくんなかったしなー」
「……今してやる」
「今は結構」



~グリディアン神殿 男用検問所~

「服を脱げ」
 ハザクラ達は部屋に通されるなり唐突とうとつに女門番に命令をされる。何の説明もなく通された手入れのされていない便所の様な検査室で、ハザクラとラデックとラプーは身体検査とは名ばかりの迫害はくがいを受けていた。女門番の言葉は余りに無礼な物言いではあったが、ハザクラは首をかしげて冷静に受け答えをする。
「ボディチェックには応じるが、不必要な身体検査は――――」
「脱げっつってんだよ!!」
 女門番はハザクラの言葉をさえぎ威圧いあつする様ににらみつける。しかしハザクラはまたしても冷静にパスポートを見せ返答をする。
「俺は人道主義自己防衛軍“ヒダネ”の総指揮そうしき――――」

 バシッ!!

 女門番はハザクラの手をさやがついたままの短刀で思い切り殴り、パスポートを地面に叩き落とした。叩かれた左手は裂傷れっしょうにより血が吹き出しており、ハザクラは怪訝けげんそうな顔で手と女門番を交互に見つめる。
「知らねぇよ!!さっさと脱げこのクソ“オタケ”共!!!」
 苛立って攻撃してきた女門番に、ハザクラは小さく溜息を吐いて肩を落とす。
「……こんな早くから敵対するとはな。おい、ラデック」
 ハザクラがラデックの方を見ると、そこにはすでに全裸で仁王立ちをしているラデックとラプーの姿があった。
「……何してる?」
「いや、脱げって言われたから」
「……そうか」
 まさかの展開にあきれるハザクラ。その背後から怒りが限界に達した女門番が、抜き身の短刀を大きく振りかぶる。
 ハザクラは短刀が上腕じょうわんに触れる寸前で勢いよく後ろに下がり、女門番の腹に振り向きざま肘打ひじうちを入れ昏倒こんとうさせる。
「2人とも服を着ろ。気付かれないうちにここを出るぞ」
 しかし2人がもぞもぞと服を着ている最中に、どこからともなく10人程の女衛兵があらわれ3人を取り囲んだ。ハザクラは両手を上げて降参のポーズをとり、弁明を始める。
「誤解だ。余りに横暴おうぼうな検査の強要きょうようと、それにともなう正当防衛だ。」
 女衛兵のうち1人が前に出て、ハザクラに剣を突きつける。
「暴行と詐称さしょうの罪で貴様等を拘束する」
「暴行も詐称もしていない。正当防衛だ」
「黙れ!!!」
 女衛兵はハザクラを恫喝どうかつし、周りの女衛兵に顎をしゃくって「連れていけ」と命令を下した。女衛兵達は3人を取り囲み、乱暴に両腕を抱え引き摺る様に部屋の外へと連れ出す。
「ちょっと待ってくれ、まだシャツを着ていない」
 ラデックの暢気な発言を意にも介さず薄暗い地下道を進む衛兵達。ハザクラ達の申し出はことごとく無視され、暗く湿ったさびだらけの牢獄ろうごくへと幽閉ゆうへいされた。
 ハザクラはあきれて頭をかかえ小さく首を振る。そこへ、ラデックはなぐさめる様に肩に手を置く。
「ハザクラ。いいことを教えてやろう」
「なんだ?」
「俺達が今までめぐってきた国は、大体誰かしら入国直後に投獄とうごくされている」
「……どこがいいことなんだ?」
「よくあることだから気にするなって意味だ」
 ハザクラは再び呆れて頭を抱えた。

【女尊男卑の国】
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜

桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。 上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。 「私も……私も交配したい」 太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

処理中です...