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二、異邦人
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部屋へ案内されたルーカスは、息をのむように周囲を見回した。壁にかけられた装飾品、光沢のある家具、ふかふかの絨毯。どれも、見たことのないものばかりだった。使用人が手短に浴室の使い方を説明し、礼をして下がると、扉の閉まる音がやけに大きく響いた。浴室に入ると、温かい湯気が肌を包み、知らない香りの油が淡く漂う。ルーカスは肩をすくめ、身体を洗い、渡された柔らかい布で水を拭い取った。清潔な衣服に袖を通すと、布の感触が肌に優しく沿う。
部屋へ戻ると、静けさがどこまでも深く沈んでいた。外の光だけが床の模様を淡く照らし、家具の影を長く落としている。ルーカスはゆっくりソファに腰を下ろし、まだ少し震える指で飲み物を持ち上げた。鼻をくすぐる香りは異国のもので、喉を通る感覚にもまだ馴染まない。
日が傾き始めたころ、控えめなノックの音がして扉が開いた。ティテマが姿を現す。部屋に入る一瞬、彼は足を止め、ルーカスの姿を確認したあと、目じりを下げた。ゆっくりと近づき、距離を保ってソファの隣に腰を下ろす。
ティテマは目元を片手で覆い、深く息を吐く。もう片方の手は膝の上で握られ、ほどかれ、また握られる。ルーカスを見る目だけはまっすぐで、逸れそうで逸れない線を描いていた。
長い沈黙のあと、ティテマはゆっくりと言葉を紡ぐ。
「私はこの国の第一王子、ティマイアス・アルヴァリス。アデルには、ある性の誕生について調べるために滞在していた」
指先を組み、その手をじっと見つめる。説明するたびに、組んだ手が解かれ、また結ばれた。
「この国ではその性をα性と呼んでいる。生まれつき特異な能力を持ち、社会の根幹を支えてきた者たちだ」
震える手を抑えるように、力を込める。
「そしてΩ性。α性を産みうる性だ。身体のつくりがわずかに異なり、特定の条件でだけ、α性の子が生まれる」
窓の外の灯りが、部屋の壁に淡く揺れる。
「だが、この国では二百年前を境にΩ性が激減し……それに伴って、α性も生まれなくなった」
ルーカスは静かに息を吐く。ティテマは瞬きを忘れたように、その横顔を見つめる。ルーカスの体が少し動くと、ゆっくり視線をそらし、膝の上の手を組み直した。
「最後に確認されたα性は、君の国の初代国王、アデル・ヴィクトールだ」
ルーカスの表情が揺れる。その名前は、1年ほど前にアデル国内で話題になった“オルガ・アデル・ヴィクトール”を思い出させた。そっと首へ手を伸ばし、うなじの痂を指でなぞる。その仕草に、ティテマは口を閉じた。
ルーカスは立ち上がり、窓辺へ歩み寄る。夜だというのに明るい街の光が石畳を照らし、遠くまで連なっていた。街を見下ろしてきれいだと言ったルーカスが弱く笑った瞬間、ティテマの肩がわずかに沈んだ。その安堵を押し殺すように、息を止めた。
しばらく二人は口を開かなかった。その静寂は、重くも柔らかい。
息を深く吐いたティテマは、ルーカスの背に静かに声をかける。
「ルーカスはここでどう過ごしたい」
問いかけながら、手を組んだり解いたりを繰り返す。ルーカスは言葉を返せず、ティテマはその沈黙に答えを求めることもなかった。
「……明日、街を案内するよ。今日は休んで」
立ち上がり、扉へ向かう。扉の前でふと足が止まり、肩が揺れる。迷うように首をわずかに傾けたが、振り返ることなく、静かに出ていった。閉じた扉を見つめ、少し歩いたルーカスはソファへ体を倒す。ティテマの残した言葉が、まだ部屋の中に薄く沈んでいるようだった。
ノックをしてから扉を静かに押し開けたティテマは、部屋の入口に立ったまま視線を奥へ向けた。
壁際のベッドには人影がなく、昨夜ルーカスが座っていたソファに、丸まるようにして眠る姿があった。薄い呼吸が胸元で繰り返されている。
ティテマは足音を忍ばせて近づき、寝顔を確かめた。額にかかる髪は少し乱れ、腕は体の前で小さくたたまれている。ティテマは小さく息を吐き、ベッドから毛布を取り上げた。毛布を広げる手つきは慎重で、ソファの隅に腰をかがめると、指先で空気を押し分けるように毛布を下ろしていく。ちょうど肩にかかり始めたとき、ルーカスが小さく唸り声を漏らした。ティテマは動きを止め、呼吸も潜める。眉がわずかに寄り、ルーカスのまつ毛が揺れたが、やがて再び穏やかな寝息を立てる。その安堵を胸の奥に押し込み、ティテマは毛布を整えると、そっと立ち上がった。視線が自然とルーカスの指先へ落ちる。手を伸ばしかけたが、まぶたをゆっくり閉じ、ルーカスに背を向けて歩き出した。
部屋を出ると、外で待っていた衛兵たちに短く告げる。
「ルーカスが目を覚ましたら知らせてくれ」
口調は柔らかいのに、誰も逆らえない静かな圧があった。衛兵たちは深く頷き、ティテマは足早に戻っていく。普段より歩幅がわずかに乱れていることに、本人だけが気づいていなかった。
ルーカスが目を覚ましたのは、一時間ほど後だった。
体にかかる毛布を手で触れる。昨夜にはなかったものだ。誰が、いつ。周りを見渡すが、部屋には誰もいない。毛布を整え、少し寝ぼけたまま扉を開くと、衛兵が二人、姿勢よく立っていた。ルーカスは慣れないササトゥール語で挨拶する。
「おは、よう」
ぎこちない響きだったが、衛兵たちは丁寧な敬礼を返した。そのうちの一人がどこかへ向かって歩き出す。残った衛兵にルーカスが問いかける。
「待ってる」
「はい。ティマイアス皇子がお越しになります」
言葉が終わると同時に、廊下の奥から一定のテンポで足音が響き始めた。リズムが近づくごとに、衛兵の背筋がさらに伸びる。姿を現したティテマは、朝の光を受けて整った横顔を一層際立たせていた。皇子としての威厳が、自然とその歩き方に宿っている。
「おはよう、ルーカス」
「おはよう」
ティテマはわずかに表情を崩したが、すぐにいつもの表情に戻る。
「部屋の中に入ろう」
二人は部屋に入り、ティテマの指示に従ってソファに並んで腰掛ける。ルーカスはわずかに距離を取るようにソファの端へ座った。それを確認したティテマは、ほんの少しだけ身体を近づける。
ティテマは膝に手を置き、指と指を交差させた。交差させたまま、ゆっくりほどき、また組み直す。
「二人でいるときは、アデルの言葉で話そう。改まらなくていい」
低く静かな声。命令にも聞こえるし、願いにも聞こえる。
ルーカスはティテマの横顔を見た。まつ毛が伏せられ、しかしかすかに震えている。その視線は膝元で揺れ、組んだ指先にはいつのまにか力が入っていた。返事を聞いた瞬間、ティテマの指の力が少し抜けた。目を上げ、ルーカスの目元とその奥を一瞬だけ確かめる。そして視線をふっと逸らし、呼吸を整えた。
「……もうすぐ街が賑やかになる時間だ」
そう言うと立ち上がり、部屋の奥にある別の扉を開く。中には整然と並べられた衣服がいくつもあり、ティテマは迷いのない動きで二着を取り出した。色合いが似ており、並ぶと兄弟のように見える服だった。ティテマはそのうち一着をルーカスへ差し出す。
二人は簡素ながら上質な生地で織られた服に着替えた。肩に落ちる感触は滑らかで、アデルでは触れたことのないものだ。
ティテマはルーカスを化粧台の前へ座らせ、整髪料を手に取った。鏡越しのティテマは真剣だった。指先が髪をすくたび、ルーカスの表情が少しずつ変わっていく。額が現れ、眉が整えられ、最後にティテマはクリームを薬指につけ、ルーカスの唇にそっと塗った。その仕草は静かで丁寧だったが、どこかぎこちなさも混ざっていた。
ティテマは満足げに息をつき、鏡越しにルーカスと目が合った。しかしその瞬間、わずかに視線をそらす。
「ありがとう、ティテマ。髪を上げると印象が変わった」
「いや。……その、似合っているよ」
ティテマは視線を落とし、先ほど彼の唇に触れた薬指を自分の唇に当てた。
街へ出ると、通りは東街とは違い、整然とした流れで人々が行き交っていた。足取りは軽く、歩く方向ごとに自然な分流ができている。言語の響きはアデルより滑らかで、語尾の伸び方に独特のリズムがあった。馬車の音はせず、車輪の回転音と、どこかで鳴る軽い電子音が混ざっている。
ティテマは帽子を深く被り、ルーカスの横に並んで歩く。ルーカスが店の前で足を止めると、ティテマは横目で捕らえ、すぐに軽い説明を添えた。建物の用途や扱う品、ササトゥールでの一般的な価値観。言葉は控えめだが、必要なことは的確に伝えた。
「そろそろ昼食にしよう。何か食べたいものはある」
ルーカスは見慣れない料理ばかりで答えられなかった。ティテマは先ほど通った店の料理を簡単に説明していく。スパイスの香りが強いもの、香草を使ったもの、魚を蒸した料理など。ルーカスの足がわずかに止まったのは、鶏肉のスープの話を聞いたときだった。
店内では小さな弦楽器の音が奥で響き、客たちは柔らかな声で会話を楽しんでいる。ルーカスは店の内装を見回した。壁の彫刻や、古い時代の紋章が刻まれた椅子の背もたれ。歴史の深さが滲んでいた。
運ばれてきたスープを一口含むと、ルーカスは目を大きく開いた。
「すごく、美味しい」
ティテマは口元を押さえて微笑んだ。しかしその後、ルーカスの手が止まった。何かを思い出したように小さく息を吐く。ティテマは声をかけようとしたが、呼吸だけが揺れ、言葉にはならなかった。
会話のないまま昼食は終わり、二人は城へ戻った。部屋へ入ると、ルーカスは途中で足を止め、ティテマの背を見た。
「俺は、……どう生きていけばいい」
静かな声だった。ティテマが振り返ると、ルーカスは視線を落とす。言葉が震え、うずくまり、両手で顔を覆った。
ティテマは距離を詰め、ルーカスの目線と同じ高さまで体を下ろす。
「ルーカスのことを教えてほしい。好きな食べ物は何、嫌いなものは」
優しい問いだったが、どこか熱がこもっている。ルーカスは顔から手を外し、言葉を探した。
「鶏肉のスープが好き。嫌いなものは、わからない」
ティテマは声を押さえて笑った。店でのルーカスの顔を思い出したのだ。
「じゃあ、どんな時に喜びを感じる」
ルーカスはしばらく考え、静かに答える。
「誰かが、笑顔になってくれた時に安心する」
ティテマはぎこちないが、精一杯の笑顔を作った。口角はやや不自然で、眉が一緒に動いてしまう。しかしそれを見たルーカスが小さく笑うと、ティテマの肩が落ちた。張り詰めていた空気が抜けていく。
「……一緒に探そう。少しずつ、これからについて」
その声には皇子としての響きはない。ただ、一人のために向けられた、静かな約束だった。
黒板には流れるような筆致でササトゥール語が書かれ、机の上には発音記号の載った教材が整然と並んでいた。中年の女性教師が穏やかな声で一文を読み上げると、ルーカスはその響きを追うように唇を動かし、丁寧に発音する。
ティテマと街へ赴いた翌日から、ルーカスには専属の教師がつけられていた。言語から礼儀作法、国史まで学ぶ時間が与えられ、彼はみるみる吸収していった。その真面目な姿勢と覚えの早さから、教師との関係も良好だった。まだこの国に来て間もないというのに、すでに多くの言葉を聞き分け、敬語での会話も難なくこなせるようになっていた。
その日の授業も終盤に差し掛かるころ、教室の静けさを破るように扉からノック音が響いた。教師が顔を上げると、ゆっくりと扉が開き、ティテマの姿が現れる。教師はすぐに立ち上がり、深く礼をした。ルーカスもそれに倣い、席を離れて頭を下げる。
「テレシア、ルーカスはどうかな」
柔らかい声だが、空気がわずかに引き締まる。テレシアは穏やかな笑みを浮かべ、丁寧に答えた。
「とても習得が早いです。立ち振舞いも既に身についているものが多く、おそらく以前に教育を受けていたのではと思われます」
ティテマの視線がルーカスへ向けられる。彼はゆるく首をかしげる。
「……幼少期の記憶は鮮明ではありませんので、確信はございません」
ティテマは小さく頷き、テレシアに今日の授業はここで終えてよいと告げた。テレシアは教材をまとめ、丁寧に挨拶して部屋を出ていく。
扉が閉まると、静けさが戻った。ティテマはルーカスに椅子へ座るよう促し、自分は黒板の前へ歩み寄る。ルーカスは指し示された単語を正確に読み上げ、今日学んだ内容の中で気になったことを語り始める。声は生き生きとしており、まるで身体の奥から言葉が湧き出てくるかのようだった。ティテマは表情を緩め、静かに相槌を打つ。
「ティテマは今日、何してたの」
ルーカスの質問に、ティテマはわずかに姿勢を正し、ゆっくりと表情を作る。眉の角度、口角の上げ方まで計算された皇子としての笑顔。
「……こんな顔をして公務をしていたよ」
ルーカスはその顔を見て目を細める。
「皇子様だ」
ティテマも同じように笑おうとするが、どこかぎこちない。自覚しているのか、喉の奥で小さく咳払いをした。
ティテマは公務の合間や前後に、必ずルーカスを訪れていた。タイミングが合えば食事も共にする。今まで公務以外に興味を示さなかったティテマの変化に、従者たちは日ごとに気づき、ルーカスに好意的な声が増えていった。
午後、いつものように授業の合間に談笑していた三人のもとに、控えていた従者が扉越しにノックし、告げた。
「アミール様がお越しになりました」
その名を聞いた瞬間、ティテマの口元からゆっくりと笑みが消えた。短く返事をすると、ルーカスの方へ向き直り、掌を上に向けて差し出した。
「ルーカス、ここに手を乗せて」
理由も分からず、ルーカスは手を重ねた。ティテマの指がゆっくりと閉じられ、彼の手を包み込む。
それを見たテレシアは、唇の端に手を添え、何かを見てはいけないものを見たかのように視線をそらした。足運びを乱さぬよう気をつけながら、小さくターンして黒板へ向き直る。
温度が伝わり合うのを感じ、ティテマは瞼を閉じ、深く息を吸い込んだ。吐き出す息はわずかに震え、瞼を開けると握った手をそっと離した。動きは丁寧なのに、どこか名残惜しさが滲む。
「じゃあね、ルーカス。……また」
声はいつも通りだが、背を向けて扉へ歩く足取りは静かに沈み込むようだった。
扉が閉まると部屋は再び静寂に包まれる。テレシアは扉を見つめ、何か言いたげに唇を開きかけたが、考え直して閉じた。ルーカスが視線で問いかけると、テレシアは小さくため息をつき、囁くように告げた。
「ティマイアス皇子の婚約者です……」
さらに言おうとしたが首を横に振り、教材を机に置く。ページをめくる指にはわずかに力が入り、動きはいつもより慎重だった。ルーカスは目の前の文字を追いながらも、扉の向こうを思い浮かべている。
部屋へ戻ると、静けさがどこまでも深く沈んでいた。外の光だけが床の模様を淡く照らし、家具の影を長く落としている。ルーカスはゆっくりソファに腰を下ろし、まだ少し震える指で飲み物を持ち上げた。鼻をくすぐる香りは異国のもので、喉を通る感覚にもまだ馴染まない。
日が傾き始めたころ、控えめなノックの音がして扉が開いた。ティテマが姿を現す。部屋に入る一瞬、彼は足を止め、ルーカスの姿を確認したあと、目じりを下げた。ゆっくりと近づき、距離を保ってソファの隣に腰を下ろす。
ティテマは目元を片手で覆い、深く息を吐く。もう片方の手は膝の上で握られ、ほどかれ、また握られる。ルーカスを見る目だけはまっすぐで、逸れそうで逸れない線を描いていた。
長い沈黙のあと、ティテマはゆっくりと言葉を紡ぐ。
「私はこの国の第一王子、ティマイアス・アルヴァリス。アデルには、ある性の誕生について調べるために滞在していた」
指先を組み、その手をじっと見つめる。説明するたびに、組んだ手が解かれ、また結ばれた。
「この国ではその性をα性と呼んでいる。生まれつき特異な能力を持ち、社会の根幹を支えてきた者たちだ」
震える手を抑えるように、力を込める。
「そしてΩ性。α性を産みうる性だ。身体のつくりがわずかに異なり、特定の条件でだけ、α性の子が生まれる」
窓の外の灯りが、部屋の壁に淡く揺れる。
「だが、この国では二百年前を境にΩ性が激減し……それに伴って、α性も生まれなくなった」
ルーカスは静かに息を吐く。ティテマは瞬きを忘れたように、その横顔を見つめる。ルーカスの体が少し動くと、ゆっくり視線をそらし、膝の上の手を組み直した。
「最後に確認されたα性は、君の国の初代国王、アデル・ヴィクトールだ」
ルーカスの表情が揺れる。その名前は、1年ほど前にアデル国内で話題になった“オルガ・アデル・ヴィクトール”を思い出させた。そっと首へ手を伸ばし、うなじの痂を指でなぞる。その仕草に、ティテマは口を閉じた。
ルーカスは立ち上がり、窓辺へ歩み寄る。夜だというのに明るい街の光が石畳を照らし、遠くまで連なっていた。街を見下ろしてきれいだと言ったルーカスが弱く笑った瞬間、ティテマの肩がわずかに沈んだ。その安堵を押し殺すように、息を止めた。
しばらく二人は口を開かなかった。その静寂は、重くも柔らかい。
息を深く吐いたティテマは、ルーカスの背に静かに声をかける。
「ルーカスはここでどう過ごしたい」
問いかけながら、手を組んだり解いたりを繰り返す。ルーカスは言葉を返せず、ティテマはその沈黙に答えを求めることもなかった。
「……明日、街を案内するよ。今日は休んで」
立ち上がり、扉へ向かう。扉の前でふと足が止まり、肩が揺れる。迷うように首をわずかに傾けたが、振り返ることなく、静かに出ていった。閉じた扉を見つめ、少し歩いたルーカスはソファへ体を倒す。ティテマの残した言葉が、まだ部屋の中に薄く沈んでいるようだった。
ノックをしてから扉を静かに押し開けたティテマは、部屋の入口に立ったまま視線を奥へ向けた。
壁際のベッドには人影がなく、昨夜ルーカスが座っていたソファに、丸まるようにして眠る姿があった。薄い呼吸が胸元で繰り返されている。
ティテマは足音を忍ばせて近づき、寝顔を確かめた。額にかかる髪は少し乱れ、腕は体の前で小さくたたまれている。ティテマは小さく息を吐き、ベッドから毛布を取り上げた。毛布を広げる手つきは慎重で、ソファの隅に腰をかがめると、指先で空気を押し分けるように毛布を下ろしていく。ちょうど肩にかかり始めたとき、ルーカスが小さく唸り声を漏らした。ティテマは動きを止め、呼吸も潜める。眉がわずかに寄り、ルーカスのまつ毛が揺れたが、やがて再び穏やかな寝息を立てる。その安堵を胸の奥に押し込み、ティテマは毛布を整えると、そっと立ち上がった。視線が自然とルーカスの指先へ落ちる。手を伸ばしかけたが、まぶたをゆっくり閉じ、ルーカスに背を向けて歩き出した。
部屋を出ると、外で待っていた衛兵たちに短く告げる。
「ルーカスが目を覚ましたら知らせてくれ」
口調は柔らかいのに、誰も逆らえない静かな圧があった。衛兵たちは深く頷き、ティテマは足早に戻っていく。普段より歩幅がわずかに乱れていることに、本人だけが気づいていなかった。
ルーカスが目を覚ましたのは、一時間ほど後だった。
体にかかる毛布を手で触れる。昨夜にはなかったものだ。誰が、いつ。周りを見渡すが、部屋には誰もいない。毛布を整え、少し寝ぼけたまま扉を開くと、衛兵が二人、姿勢よく立っていた。ルーカスは慣れないササトゥール語で挨拶する。
「おは、よう」
ぎこちない響きだったが、衛兵たちは丁寧な敬礼を返した。そのうちの一人がどこかへ向かって歩き出す。残った衛兵にルーカスが問いかける。
「待ってる」
「はい。ティマイアス皇子がお越しになります」
言葉が終わると同時に、廊下の奥から一定のテンポで足音が響き始めた。リズムが近づくごとに、衛兵の背筋がさらに伸びる。姿を現したティテマは、朝の光を受けて整った横顔を一層際立たせていた。皇子としての威厳が、自然とその歩き方に宿っている。
「おはよう、ルーカス」
「おはよう」
ティテマはわずかに表情を崩したが、すぐにいつもの表情に戻る。
「部屋の中に入ろう」
二人は部屋に入り、ティテマの指示に従ってソファに並んで腰掛ける。ルーカスはわずかに距離を取るようにソファの端へ座った。それを確認したティテマは、ほんの少しだけ身体を近づける。
ティテマは膝に手を置き、指と指を交差させた。交差させたまま、ゆっくりほどき、また組み直す。
「二人でいるときは、アデルの言葉で話そう。改まらなくていい」
低く静かな声。命令にも聞こえるし、願いにも聞こえる。
ルーカスはティテマの横顔を見た。まつ毛が伏せられ、しかしかすかに震えている。その視線は膝元で揺れ、組んだ指先にはいつのまにか力が入っていた。返事を聞いた瞬間、ティテマの指の力が少し抜けた。目を上げ、ルーカスの目元とその奥を一瞬だけ確かめる。そして視線をふっと逸らし、呼吸を整えた。
「……もうすぐ街が賑やかになる時間だ」
そう言うと立ち上がり、部屋の奥にある別の扉を開く。中には整然と並べられた衣服がいくつもあり、ティテマは迷いのない動きで二着を取り出した。色合いが似ており、並ぶと兄弟のように見える服だった。ティテマはそのうち一着をルーカスへ差し出す。
二人は簡素ながら上質な生地で織られた服に着替えた。肩に落ちる感触は滑らかで、アデルでは触れたことのないものだ。
ティテマはルーカスを化粧台の前へ座らせ、整髪料を手に取った。鏡越しのティテマは真剣だった。指先が髪をすくたび、ルーカスの表情が少しずつ変わっていく。額が現れ、眉が整えられ、最後にティテマはクリームを薬指につけ、ルーカスの唇にそっと塗った。その仕草は静かで丁寧だったが、どこかぎこちなさも混ざっていた。
ティテマは満足げに息をつき、鏡越しにルーカスと目が合った。しかしその瞬間、わずかに視線をそらす。
「ありがとう、ティテマ。髪を上げると印象が変わった」
「いや。……その、似合っているよ」
ティテマは視線を落とし、先ほど彼の唇に触れた薬指を自分の唇に当てた。
街へ出ると、通りは東街とは違い、整然とした流れで人々が行き交っていた。足取りは軽く、歩く方向ごとに自然な分流ができている。言語の響きはアデルより滑らかで、語尾の伸び方に独特のリズムがあった。馬車の音はせず、車輪の回転音と、どこかで鳴る軽い電子音が混ざっている。
ティテマは帽子を深く被り、ルーカスの横に並んで歩く。ルーカスが店の前で足を止めると、ティテマは横目で捕らえ、すぐに軽い説明を添えた。建物の用途や扱う品、ササトゥールでの一般的な価値観。言葉は控えめだが、必要なことは的確に伝えた。
「そろそろ昼食にしよう。何か食べたいものはある」
ルーカスは見慣れない料理ばかりで答えられなかった。ティテマは先ほど通った店の料理を簡単に説明していく。スパイスの香りが強いもの、香草を使ったもの、魚を蒸した料理など。ルーカスの足がわずかに止まったのは、鶏肉のスープの話を聞いたときだった。
店内では小さな弦楽器の音が奥で響き、客たちは柔らかな声で会話を楽しんでいる。ルーカスは店の内装を見回した。壁の彫刻や、古い時代の紋章が刻まれた椅子の背もたれ。歴史の深さが滲んでいた。
運ばれてきたスープを一口含むと、ルーカスは目を大きく開いた。
「すごく、美味しい」
ティテマは口元を押さえて微笑んだ。しかしその後、ルーカスの手が止まった。何かを思い出したように小さく息を吐く。ティテマは声をかけようとしたが、呼吸だけが揺れ、言葉にはならなかった。
会話のないまま昼食は終わり、二人は城へ戻った。部屋へ入ると、ルーカスは途中で足を止め、ティテマの背を見た。
「俺は、……どう生きていけばいい」
静かな声だった。ティテマが振り返ると、ルーカスは視線を落とす。言葉が震え、うずくまり、両手で顔を覆った。
ティテマは距離を詰め、ルーカスの目線と同じ高さまで体を下ろす。
「ルーカスのことを教えてほしい。好きな食べ物は何、嫌いなものは」
優しい問いだったが、どこか熱がこもっている。ルーカスは顔から手を外し、言葉を探した。
「鶏肉のスープが好き。嫌いなものは、わからない」
ティテマは声を押さえて笑った。店でのルーカスの顔を思い出したのだ。
「じゃあ、どんな時に喜びを感じる」
ルーカスはしばらく考え、静かに答える。
「誰かが、笑顔になってくれた時に安心する」
ティテマはぎこちないが、精一杯の笑顔を作った。口角はやや不自然で、眉が一緒に動いてしまう。しかしそれを見たルーカスが小さく笑うと、ティテマの肩が落ちた。張り詰めていた空気が抜けていく。
「……一緒に探そう。少しずつ、これからについて」
その声には皇子としての響きはない。ただ、一人のために向けられた、静かな約束だった。
黒板には流れるような筆致でササトゥール語が書かれ、机の上には発音記号の載った教材が整然と並んでいた。中年の女性教師が穏やかな声で一文を読み上げると、ルーカスはその響きを追うように唇を動かし、丁寧に発音する。
ティテマと街へ赴いた翌日から、ルーカスには専属の教師がつけられていた。言語から礼儀作法、国史まで学ぶ時間が与えられ、彼はみるみる吸収していった。その真面目な姿勢と覚えの早さから、教師との関係も良好だった。まだこの国に来て間もないというのに、すでに多くの言葉を聞き分け、敬語での会話も難なくこなせるようになっていた。
その日の授業も終盤に差し掛かるころ、教室の静けさを破るように扉からノック音が響いた。教師が顔を上げると、ゆっくりと扉が開き、ティテマの姿が現れる。教師はすぐに立ち上がり、深く礼をした。ルーカスもそれに倣い、席を離れて頭を下げる。
「テレシア、ルーカスはどうかな」
柔らかい声だが、空気がわずかに引き締まる。テレシアは穏やかな笑みを浮かべ、丁寧に答えた。
「とても習得が早いです。立ち振舞いも既に身についているものが多く、おそらく以前に教育を受けていたのではと思われます」
ティテマの視線がルーカスへ向けられる。彼はゆるく首をかしげる。
「……幼少期の記憶は鮮明ではありませんので、確信はございません」
ティテマは小さく頷き、テレシアに今日の授業はここで終えてよいと告げた。テレシアは教材をまとめ、丁寧に挨拶して部屋を出ていく。
扉が閉まると、静けさが戻った。ティテマはルーカスに椅子へ座るよう促し、自分は黒板の前へ歩み寄る。ルーカスは指し示された単語を正確に読み上げ、今日学んだ内容の中で気になったことを語り始める。声は生き生きとしており、まるで身体の奥から言葉が湧き出てくるかのようだった。ティテマは表情を緩め、静かに相槌を打つ。
「ティテマは今日、何してたの」
ルーカスの質問に、ティテマはわずかに姿勢を正し、ゆっくりと表情を作る。眉の角度、口角の上げ方まで計算された皇子としての笑顔。
「……こんな顔をして公務をしていたよ」
ルーカスはその顔を見て目を細める。
「皇子様だ」
ティテマも同じように笑おうとするが、どこかぎこちない。自覚しているのか、喉の奥で小さく咳払いをした。
ティテマは公務の合間や前後に、必ずルーカスを訪れていた。タイミングが合えば食事も共にする。今まで公務以外に興味を示さなかったティテマの変化に、従者たちは日ごとに気づき、ルーカスに好意的な声が増えていった。
午後、いつものように授業の合間に談笑していた三人のもとに、控えていた従者が扉越しにノックし、告げた。
「アミール様がお越しになりました」
その名を聞いた瞬間、ティテマの口元からゆっくりと笑みが消えた。短く返事をすると、ルーカスの方へ向き直り、掌を上に向けて差し出した。
「ルーカス、ここに手を乗せて」
理由も分からず、ルーカスは手を重ねた。ティテマの指がゆっくりと閉じられ、彼の手を包み込む。
それを見たテレシアは、唇の端に手を添え、何かを見てはいけないものを見たかのように視線をそらした。足運びを乱さぬよう気をつけながら、小さくターンして黒板へ向き直る。
温度が伝わり合うのを感じ、ティテマは瞼を閉じ、深く息を吸い込んだ。吐き出す息はわずかに震え、瞼を開けると握った手をそっと離した。動きは丁寧なのに、どこか名残惜しさが滲む。
「じゃあね、ルーカス。……また」
声はいつも通りだが、背を向けて扉へ歩く足取りは静かに沈み込むようだった。
扉が閉まると部屋は再び静寂に包まれる。テレシアは扉を見つめ、何か言いたげに唇を開きかけたが、考え直して閉じた。ルーカスが視線で問いかけると、テレシアは小さくため息をつき、囁くように告げた。
「ティマイアス皇子の婚約者です……」
さらに言おうとしたが首を横に振り、教材を机に置く。ページをめくる指にはわずかに力が入り、動きはいつもより慎重だった。ルーカスは目の前の文字を追いながらも、扉の向こうを思い浮かべている。
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負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
【完結済】キズモノオメガの幸せの見つけ方~番のいる俺がアイツを愛することなんて許されない~
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「勇利先輩……?」
俺、勇利渉は、真冬に照明と暖房も消されたオフィスで、コートを着たままノートパソコンに向かっていた。
だが、突然背後から名前を呼ばれて後ろを振り向くと、声の主である人物の存在に思わず驚き、心臓が跳ね上がった。
(どうして……)
声が出ないほど驚いたのは、今日はまだ、そこにいるはずのない人物が立っていたからだった。
「東谷……」
俺の目に映し出されたのは、俺が初めて新人研修を担当した後輩、東谷晧だった。
背が高く、ネイビーより少し明るい色の細身スーツ。
落ち着いたブラウンカラーの髪色は、目鼻立ちの整った顔を引き立たせる。
誰もが目を惹くルックスは、最後に会った三年前となんら変わっていなかった。
そう、最後に過ごしたあの夜から、空白の三年間なんてなかったかのように。
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「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
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閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡
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♡♡♡
恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!
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ある日瑠璃は、発情期を見知らぬイケメンと過ごす夢を見て混乱に陥る。これはあの日の記憶?知らない相手は誰?
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この作品は『KADOKAWA×pixiv ノベル大賞2024』の「BL部門」お題イラストから着想し、創作したものです。ありがたいことに、グローバルコミック賞をいただきました。
https://www.pixiv.net/novel/contest/kadokawapixivnovel24
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