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とんでもない人と、結婚の約束をしてしまいました
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私は、リーゼリア・ノワール。
伯爵家の嫡子で、将来は父の後を継ぎ、女伯爵となる身なのです。
先程、伯爵邸のサロンで会話をしていたのは、婚約予定のテオドール・フェナジン男爵令息。
テオドール様は、元は平民として育った方なので、我が家で貴族令息としての教育を施しておりました。
約束の日時はきちんとお守りする方なのですが、約束していない時でも先触れもなくやって来るのです。
特に用事がない事が殆どで、お茶を飲んでお菓子を食べて好き放題会話を楽しまれて帰るだけなのですが、それが嫌だと思った事はありませんでした。
多少常識のないところはありますが、少しずつ貴族社会に慣れていってくだされば良いと考えていたのです。
態々時間を作って会いに来て下さるのですから、政略結婚である私との親睦を深めようと努力されている事に対して、嬉しくもあり好ましくも感じていたのです。
私も、その誠意にお答えしなければと思い始めていた矢先の出来事でした。
まだ頭の中で整理が出来てはおりませんが、驚きというよりとても彼の常識には着いて行けないと、大きな不安を感じてしまったのです。
やはり平民として自由に生きてきた方を、貴族という堅苦しい檻の中に閉じ込めてしまうのは、無理があるのでしょうか?
根は悪い方ではないと思っていただけに、残念な気持ちで胸が押し潰されそうになっております。
お茶会での出来事は、お父様のお耳にも入っている様で、私が執務室を訪ねると頭を抱えて項垂れておりました。
「お父様…やはり私は、テオドール様を婿養子に迎えなくてはいけないのでしょうか?」
「すまないね、リーゼリア。男爵には、大変世話になってしまった。伯爵家が没落しなかったのは、彼が助けてくれたからなのだ。厳格な方だから、息子も同じかと思っていたのだが…まさか、学園での生活を謳歌する事の意味を理解していないとは、思ってもいなかったのだよ」
フェナジン男爵は、忙しいお方ですから、ご子息の教育にまで手が回らなかったのかもしれません。
「フェナジン男爵にも、お伝えしたのですよね?テオドール様の発言について、何か仰ってはいないのですか?」
「男爵は、特に気にする素振りはなかった。むしろ、騒ぎ立てる意味が理解出来ないと感じているらしい。この度も、若気の至りだと笑っていた。こちらが何を言っても、不詳の息子の生涯一度の我儘を、見てみない振りをして欲しいと言われてしまった。男爵は、商売以外では貴族と深い係わりをしていないから、事の重大さをご存じではないのだろうね」
「それは………困りましたわね」
「本当に…困ってしまうな」
「没落を免れたとしても、伯爵家の家門に傷が付いてしまいますわ」
「何とか男爵を説得し、テオドール君の行動を改めさせる様、説得をしてみようとは思っている。余りにも酷い様子ならば、婚約の話しを白紙に戻す事も視野に入れなければならないだろうな………」
「そんな…お父様…」
「契約を違える事になってしまうが、致し方あるまい」
「男爵家からの援助金が無くなるだけではなく、今までお借りした分もお返ししなくてはいけなくなりますのよね」
「そうなるな…」
やっと、領地を立て直す目途が付いたというのに…また、大きな負債を抱える事になってしまいます。
領民たちの事を考えると、テオドール様との結婚を、破談にはしたくありません。
だからといって、伯爵家の名に泥を塗って良いとも思わないのです。
とても苦しい選択を迫られてはおりますが、ここはお父様にお任せするしかありません。
次期女伯爵としての教育は受けておりますが、まだまだ半人前ですから、私に出来る事は限られているのですもの。
とても悔しいのですが、仕方がありませんわ。
数年続いた不作と、天災による大きな被害で、伯爵領は多額の負債を抱えてしまったのですもの。
王国からの援助金だけでは到底足りず、あわや没落寸前というところで、大きな商会を幾つも持っているフェナジン男爵が手を差し伸べて下さったお蔭で今があるのです。
「フェナジン男爵には、御恩がありますもの。簡単に婚約の話しを無かった事には出来ませんわね。私も、出来る限りテオドール様に理解していただけるよう努力致しますわ」
「そうだね。だが、無理はしなくてもよいからな」
「はい。お父様」
こちらは、建国時代から続く古い伯爵家です。
国一番の豪商になって爵位を買ったフェナジン男爵は、領地を持たない新興貴族といわれており、歴史の古い我が家と縁付く事を希望されました。
テオドール様は私と同じ年齢で、嫡男ではありますが、伯爵家へ婿養子に入る事になったのです。
下にご兄弟もおりますが、爵位を継ぐ私とは歳が離れておりますので、妥当な選択なのかもしれません。
元は平民という事もあり、習慣や常識などが異なる部分も多いのですが、そこはテオドール様がしっかりと学んでいただかなくてはいけないのです。
しかし何度もお話をしているのですが、どうしても自由奔放な性格というのは、変わらないのですね。
テオドール様なりに努力はして下さったので、公の場に出る時などは最低限のマナーは守って下さっておりました。
普段は言葉使いも悪いですし、お行儀も良いとはいえませんが、優しい方だとは思っていたのです。
それなのに、学園での自由を謳歌する宣言は、理解の範疇を超えてしまったのです。
伯爵位を継ぐのは私ですし、テオドール様は大人しくしていて下さるのならば、多少のお遊びくらいなら目を瞑る事も出来ますが…
子供を作る様な事まで考えていたのには、正直幻滅しております。
あの様な方と添い遂げねばならないのかと思うと、私の人生はお先真っ暗でございます。
願わくば、思春期の一時の迷いであって欲しいと思います。
言葉でいうだけで、行動には移して下さらない事を、祈るのでした。
しかし神様とは、時には無情なものなのですね。
私の願いは虚しく、打ち砕かれてしまったのです。
伯爵家の嫡子で、将来は父の後を継ぎ、女伯爵となる身なのです。
先程、伯爵邸のサロンで会話をしていたのは、婚約予定のテオドール・フェナジン男爵令息。
テオドール様は、元は平民として育った方なので、我が家で貴族令息としての教育を施しておりました。
約束の日時はきちんとお守りする方なのですが、約束していない時でも先触れもなくやって来るのです。
特に用事がない事が殆どで、お茶を飲んでお菓子を食べて好き放題会話を楽しまれて帰るだけなのですが、それが嫌だと思った事はありませんでした。
多少常識のないところはありますが、少しずつ貴族社会に慣れていってくだされば良いと考えていたのです。
態々時間を作って会いに来て下さるのですから、政略結婚である私との親睦を深めようと努力されている事に対して、嬉しくもあり好ましくも感じていたのです。
私も、その誠意にお答えしなければと思い始めていた矢先の出来事でした。
まだ頭の中で整理が出来てはおりませんが、驚きというよりとても彼の常識には着いて行けないと、大きな不安を感じてしまったのです。
やはり平民として自由に生きてきた方を、貴族という堅苦しい檻の中に閉じ込めてしまうのは、無理があるのでしょうか?
根は悪い方ではないと思っていただけに、残念な気持ちで胸が押し潰されそうになっております。
お茶会での出来事は、お父様のお耳にも入っている様で、私が執務室を訪ねると頭を抱えて項垂れておりました。
「お父様…やはり私は、テオドール様を婿養子に迎えなくてはいけないのでしょうか?」
「すまないね、リーゼリア。男爵には、大変世話になってしまった。伯爵家が没落しなかったのは、彼が助けてくれたからなのだ。厳格な方だから、息子も同じかと思っていたのだが…まさか、学園での生活を謳歌する事の意味を理解していないとは、思ってもいなかったのだよ」
フェナジン男爵は、忙しいお方ですから、ご子息の教育にまで手が回らなかったのかもしれません。
「フェナジン男爵にも、お伝えしたのですよね?テオドール様の発言について、何か仰ってはいないのですか?」
「男爵は、特に気にする素振りはなかった。むしろ、騒ぎ立てる意味が理解出来ないと感じているらしい。この度も、若気の至りだと笑っていた。こちらが何を言っても、不詳の息子の生涯一度の我儘を、見てみない振りをして欲しいと言われてしまった。男爵は、商売以外では貴族と深い係わりをしていないから、事の重大さをご存じではないのだろうね」
「それは………困りましたわね」
「本当に…困ってしまうな」
「没落を免れたとしても、伯爵家の家門に傷が付いてしまいますわ」
「何とか男爵を説得し、テオドール君の行動を改めさせる様、説得をしてみようとは思っている。余りにも酷い様子ならば、婚約の話しを白紙に戻す事も視野に入れなければならないだろうな………」
「そんな…お父様…」
「契約を違える事になってしまうが、致し方あるまい」
「男爵家からの援助金が無くなるだけではなく、今までお借りした分もお返ししなくてはいけなくなりますのよね」
「そうなるな…」
やっと、領地を立て直す目途が付いたというのに…また、大きな負債を抱える事になってしまいます。
領民たちの事を考えると、テオドール様との結婚を、破談にはしたくありません。
だからといって、伯爵家の名に泥を塗って良いとも思わないのです。
とても苦しい選択を迫られてはおりますが、ここはお父様にお任せするしかありません。
次期女伯爵としての教育は受けておりますが、まだまだ半人前ですから、私に出来る事は限られているのですもの。
とても悔しいのですが、仕方がありませんわ。
数年続いた不作と、天災による大きな被害で、伯爵領は多額の負債を抱えてしまったのですもの。
王国からの援助金だけでは到底足りず、あわや没落寸前というところで、大きな商会を幾つも持っているフェナジン男爵が手を差し伸べて下さったお蔭で今があるのです。
「フェナジン男爵には、御恩がありますもの。簡単に婚約の話しを無かった事には出来ませんわね。私も、出来る限りテオドール様に理解していただけるよう努力致しますわ」
「そうだね。だが、無理はしなくてもよいからな」
「はい。お父様」
こちらは、建国時代から続く古い伯爵家です。
国一番の豪商になって爵位を買ったフェナジン男爵は、領地を持たない新興貴族といわれており、歴史の古い我が家と縁付く事を希望されました。
テオドール様は私と同じ年齢で、嫡男ではありますが、伯爵家へ婿養子に入る事になったのです。
下にご兄弟もおりますが、爵位を継ぐ私とは歳が離れておりますので、妥当な選択なのかもしれません。
元は平民という事もあり、習慣や常識などが異なる部分も多いのですが、そこはテオドール様がしっかりと学んでいただかなくてはいけないのです。
しかし何度もお話をしているのですが、どうしても自由奔放な性格というのは、変わらないのですね。
テオドール様なりに努力はして下さったので、公の場に出る時などは最低限のマナーは守って下さっておりました。
普段は言葉使いも悪いですし、お行儀も良いとはいえませんが、優しい方だとは思っていたのです。
それなのに、学園での自由を謳歌する宣言は、理解の範疇を超えてしまったのです。
伯爵位を継ぐのは私ですし、テオドール様は大人しくしていて下さるのならば、多少のお遊びくらいなら目を瞑る事も出来ますが…
子供を作る様な事まで考えていたのには、正直幻滅しております。
あの様な方と添い遂げねばならないのかと思うと、私の人生はお先真っ暗でございます。
願わくば、思春期の一時の迷いであって欲しいと思います。
言葉でいうだけで、行動には移して下さらない事を、祈るのでした。
しかし神様とは、時には無情なものなのですね。
私の願いは虚しく、打ち砕かれてしまったのです。
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