好きになったり、嫌いになったり

鈴蘭

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双子の姉弟

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 胃痛と闘いながら、何とか毎日の日課をこなしております。
 あれ程楽しみにしていた学園生活が、こんなに苦痛だとは思いもしませんでした。
 正式に婚約発表をしている訳ではないので、婚約者がいないと思われているのか、私にもいい寄ってくる男子生徒が多いのです。
 
 もしかしたら、テオドール様から相手にされていない事を知っていて、態と声を掛けてくるのかもしれません。
 私は伯爵家の後継者ですから、継ぐ爵位の無い彼らにとっては、良い婿入り先に見えるのでしょうか?

 テオドール様のご実家から援助を受けている事を知っていたとしても、肝心の彼は女子生徒との噂が絶えませんし、私たちが結婚する約束をしているとは思っていないのかもしれませんね。
 没落を免れた事で、負債が無くなったと勘違いしている方も、いるのかもしれません。
 理由は何であれ、テオドール様に監視されている以上、誤解を招く様な事は避けて通りたいのです。

 「リーゼ・ノワール伯爵令嬢。はじめまして、私は…」
 お昼を一緒に摂る約束をしていたので、待ち合わせ場所に立っていると、見知らぬ令息に声を掛けられたのです。
 またかと思い、辟易しながらなんと断ろうかと考えていた時でした。
 助け舟の如く、待ち人が二人で来てくれました。

 「リーゼ!待たせちゃって、ごめんなさい。ご飯を食べに行きましょう、今日の日替わりランチは何かしら」
 ラノアが、令息を押しのけて、私に飛び付いてきました。
 ハルジオンは、令息が気になったのか、質問を投げかけたのです。
 「君は誰?見た事無いけど、どこの令息?リーゼに、何か用事でもあるの?」

 「いえ、すみません。失礼致します」
 令息は、その後の言葉が続かなかった様で、そそくさと何処かへ消えて行ったのです。
 「ラノア、ハルジオン。ありがとう、助かったわ」
 私は二人に礼を言いました。
 「気を付けて、チクリンが見ているわ」
 「まぁ」

 ラノアは私の親友で、ハルジオンは、ラノアの弟です。
 二人はシェフレラ伯爵家の双子の姉弟で、何時も仲良く一緒に行動しています。
 私の幼馴染という事もあって、テオドール様もハルジオンの事は、仲の良い友人と認めて下さっておりました。

 ラノアが言っているチクリンとは、テオドール様が雇った私の見張り役令嬢の事なのです。
 いつもある事無い事を大袈裟にテオドール様へ報告しているので、怒ったラノアが付けた別称がチクリンだと聞いた時は、可笑しくて声を出して笑ってしまいました。
 今日もまたテオドール様が、名前も知らぬ令息との逢瀬を疑いお怒りになって、我が家へいらっしゃるのかと思うと想像しただけで眩暈がしてきます。

 「フェナジンったら、そんなにリーゼの事が心配なら、自分が傍に付いていれば宜しいのに。いつまで、下らない見張り役なんて付けているつもりなのかしら。ちょっと私、殴ってやりたくなったわ」
 ラノアは、テオドール様の苗字を、呼び捨てにしているのです。
 敬称を付ける値もないと、ラノアが怒っている事を、テオドール様は気付いてもおりません。

 「テオドール様は、私と一緒に過ごすよりも、他の女子生徒と遊びたいと思う気持ちが抑えられないのよ」
 「それだったら、リーゼを解放してくれたって良いのではなくって?縛り付けている意味が、私には理解出来ないのだけれど。我儘で、傲慢で、大っ嫌いだわ」
 確かに我儘だとは私も思いますけれど、傲慢ではないと思うのですが、ラノアから見た印象は最悪なのですね。

 「私も、卒業間際で婚約のお話を白紙にされるくらいならば、早めに解放して貰いたいと思っているのだけれど…自分からは、そんなお願いをする勇気が持てないの」
 「リーゼの立場を考えたら、言えないのは当たり前でしょう」
 「そうなのよね…」
 私たちは、会話をしながら食堂へと向かって歩いておりました。

 「噂をすれば、いたわよ」
 丁度食堂の入り口についた時、ラノアがテオドール様の存在に気付いてしまいました。
 「はぁ…私は、呪われているのかしら」

 この学園に通っている生徒も多いので、食堂もひとつではなく複数あるのです。
 毎回違う食堂へと足を運んでいるのですが、示し合わせた様にテオドール様がいらっしゃるのは、女神様の悪戯かと思ってしまいます。
 今から他の食堂へ移動する時間もありませんし、仕方なく中へ入る事にしました。
 私からは声を掛ける事を禁じられているので、出来る限りテオドール様から離れたテーブル席へと腰かけたのです。

 「フェナジンは、今日はどちらのお嬢様と、一緒にいるのかしら?」
 「昨日とは、違うみたいね。私が来た事を、気付かなければ良いのだけれど…」
 「何時もフェナジンを避けているのに、どうして毎回遭遇するのかしら?不思議だわ」
 
 「案外リーゼとテオドールって、花祭りの祝福を受けているのかもしれないな」
 「ちょっと、ハルジオン止めてちょうだい。その冗談は、とてもじゃないけれど笑えないわ」
 「冗談な訳ないだろ。これだけ広い園内で逃げ回っているのに、何度も出くわすなんて、ただの偶然には思えないって」
 ハルジオンが真面目な顔で問いかけてくるものだから、ラノアまでおかしな事を言い出しました。

 「リーゼの初恋って、確か花祭りの彼だったわよね?」
 「ラノアまで、何て事を言うの?女神様からの祝福を受けているのなら、テオドール様の浮気性にも、意味がある事になってしまうわ」
 「テオドールってさ、案外愛妻家かもしれないよ。結婚したら溺愛されたりして」
 「ハルジオン、止めて。考えたくもないわ」

 「ねぇ、リーゼ。本当にフェナジンが、花祭りの彼ではないの?幼少期に一度しか会っていなくったって、少しは面影とか残っているものでしょう。思い出してよ」
 「そんなの、詳しくなんて覚えていないわ。確かに綺麗な碧眼の少年だったけれど、毎年花祭りに参加していたのだもの。余程印象に残っていない限り、忘れてしまうものでしょう?貴方たちは、覚えているの?」
 「私は…うん、覚えていないわね」
 「僕は、参加した事すら覚えていないな」
 「ハルジオンは、踊らないで屋台の前で食べてばかりだったじゃない」
 「そうだったかも…」
 二人は笑っていたけれど、私はテオドール様が花祭りの彼だったらと思うと、笑う事は出来ませんでした。

 ラノアの言う通り、私の初恋は、幼い頃に花祭りで出会った名も分からない碧眼の少年なのです。
 彼は、どんな風に成長したのでしょうか?
 私は愚かしくも初恋相手の事を懐かしみ、少し好奇心で何処の誰かも分からない彼に、会ってみたいと思うのでした。
 幼い頃に踊った初恋の彼と、大人になってから出会う事が出来たのなら、それはもう運命の相手なのですもの。
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