好きになったり、嫌いになったり

鈴蘭

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花祭りの思い出

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 この国には、女神様が異国から持ち込んで来たといわれている、大きな花木が沢山あります。
 その花が咲く時期には、女神様からの祝福を願ってお祭りが開かれるのですが、人々はそのお祭りの事を「花祭り」と呼んでいました。 

 花祭りの主役となる花木は、地域によって花を咲かせる時期が違うので、花祭りも開催時期が異なるのが一般的です。
 ちょうど雪解けが過ぎて春の始まりを知らせるかの様に、南の地域から北の地域へと咲き始める事から、女神様の祝福が国中に振り撒かれている様にも見えるのでした。
 花木は可愛らしいピンク色の小さな花を枝一杯に咲かせる事から、恋人たちや夫婦にまつわるおとぎ話が、数多く広がったとも言われております。

 毎年開かれている花祭りでは、各地域の特色が色濃く出る事が多いのですが、お祭りの最終日は決まって何処も同じ光景が見られます。
 音楽を奏でる音楽家たちの周りには自然と人が集まり、輪を描いて老若男女問わず楽し気に踊っているのです。

 このお祭りの中でも、幼い子供たちだけが踊っている輪は、特に賑わいを見せておりました。
 最後の一曲を気に入った異性と一緒に踊る事が出来たのなら、花冠を交換する時に、もう一度会いたいと伝えるのです。
 相手も承諾して花冠を交換してくれたなら、女神様の祝福を受ける事が出来ると信じられています。
 祝福を受けた子供たちが大人になると、どんなに遠く離れていても、導かれる様に巡り合うといわれているのでした。

 大人になって偶然再会した時に、お互いが花祭りで踊った記憶を持っていなかったとしても、出会った瞬間に惹かれ合うとも伝えられています。
 その人こそが運命の相手で、二人が無事に結ばれたなら、生涯幸せな家庭を築けると語り継がれているのです。

 子供たちは、おとぎ話を信じて、胸をときめかせながら踊りを楽しみます。
 大人たちは、その年の豊作と平和な暮らしを女神様に願いながら、花祭りは終了するのでした。

 私の誕生日は春なので、ちょうど花祭りの時期に重なるのです。
 幼い頃は胸をときめかせながら花冠を作り、幼馴染でもある侍女のミヤを連れて、お祭りに参加しておりました。 

 今でも時々思い出されるのは、五歳の誕生日に出会った男の子です。
 最後の曲を一緒に踊っていたのですが、笑っている表情がなぜか寂しそうに感じ、とても印象に残りました。
 私は心の底からお祭りを楽しんで欲しくて、沢山彼に話しかけたのです。

 何処までも広がる大空の様な、綺麗な碧い瞳をした素敵な男の子。
 全体的な印象は忘れてしまいましたが、花冠を交換した時に言われた言葉は、今でもはっきりと覚えているのです。

 『大人になったら、僕のお嫁さんになって欲しい』
 『はい。喜んで』
 とても恥ずかしいのですが、彼に私の初めての口付けを奪われてしまった事で、心まで奪われてしまいました。

 まだ幼い彼の声は、とても透き通っており、心地の良い旋律となって私の胸の中に今でも消えることなく残っているのです。
 その後も何度か彼に会いたくてお祭りに参加したのですが、結局出会う事はありませんでした。
 私の初恋は、淡く切ないまま、終わってしまったのです。
 


 忙しなく行き交う人々は、いつもより少しだけ華やかな衣装を纏い、美しく咲き誇っている花木の下には沢山の屋台が出ております。
 花祭り最終日のメインイベントの為に、楽器の練習をしている人もおりました。
 私はそんな光景を馬車の窓から眺めながら、懐かしい思い出に浸っていたのです。

 「……ゼ。おい、聞いているのか。リーゼ、何処を見ている」
 「え?」
 「俺がさっきから呼んでいるのに上の空とは、他の男の事を考えていたのではないだろうな」
 「すっ、すみませんでした。少し幼い頃の事を、思い出していただけです」
 忘れていましたわ、私は今、テオドール様と一緒に買い物に出て来たのでした。

 「まさかとは思うが、花祭りを見て、運命の相手の事を思い出したのか?」
 「そんな…名前も知りませんし…」
 テオドール様は、人の心が読めるのでしょうか、図星を突かれて心臓がドキドキしてきました。

 私を怪訝そうに覗き込んでいる彼の瞳は碧いので、あの時の少年と重なってしまったのかもしれません。
 ハルジオンが女神の祝福を受けただなんて、余計な事をいうものだから、変にテオドール様の事を意識してしまったのです。

 「リーゼ。お前に聞きたい事があるんだが…その、花祭りの時にだな………」
 本当に、テオドール様が運命の人だったら、どうしましょう…私は耐えられるのかしら?
 「リーゼ、聞いているのか?おい、リーゼ!」
 「はいっ」
 嫌だわ、又深い思考に落ちてしまって、テオドール様の言葉を聞いていなかったわ。

 「どうした、リーゼ。顔が赤いぞ、熱でもあるのか?体調が悪いのなら、無理せずに出て来なくてもよかったのに、どうして何も言わなかったんだ」
 「大丈夫です。少し熱いと思っているだけで、体調が悪い訳ではありません」
 お願いよ、私の鼓動、静まってちょうだい。

 「そうか…無理はするな。今日は、お前の誕生日プレゼントを買いに来たんだからな。倒れられては意味がない。欲しい物を考えておけと言ったが、本当に何も思いつかなかったのか」
 「すみません…」
 正直欲しい物なんて何も考えておりませんでしたし、正式な婚約者でもないのにプレゼントをいただく事に抵抗を感じていたのです。

 「宝石でもドレスでも、好きな物を買ってやると言ったのに、貧乏癖が付いたんじゃないのか?俺は、しみったれた女は嫌いだぞ」
 「すみません…」

 何年も領地の負債を増やさない様にと考えていたので、ドレスや宝石などの贅沢品を買う余裕は我が家にはありませんでしたから、あながち貧乏癖が付いたと言うのは間違ってはいないと思いました。

 「何も思いつかないのなら、俺の好みで選ぶが、本当にそれでいいんだな」
 「はい。お願い致します」
 あの子が大人に育っていたら、テオドール様の様な声になっているのかしら…
 男性にしては少し高めで透き通る様な声が耳に心地よく通り抜けていく感じがして、好ましいと思う感情が芽生えた時には、自然とテオドール様の口元に視線が行ったのです。

 あの唇と私の唇が重なったのかしらと、そう思った瞬間に、落ち着いていた心臓が激しく脈打つのでした。
 もう、私ったら、何を考えているのかしら。
 ずっと初恋の彼とテオドール様を比べていて、鼓動が五月蠅いですわ。

 テオドール様と一緒にいる時に、余計な事を思い出さなければ良かったと思うのです。
 私は自身の唇にそっと指先を当てて、幼い頃の懐かしい思い出とは違うのだと、心を落ち着かせる事に集中しました。

 あの時の少年とテオドール様が同一人物だなんて、そんな偶然があるのでしょうか。
 女神様の祝福を受けた喜びと、信じたくないと思う感情もあり、益々頭が混乱してしまいました。
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