8 / 52
テオドール様のお相手
しおりを挟む
心に思う事がある時は、時間が過ぎるのがとても遅く感じられます。
やっとお昼休みになったので、ラノアたちと一緒に前回とは違う食堂へ向かいました。
同じ食堂へ行くと、またテオドール様と遭遇しそうだったのです。
「今日こそは、大丈夫よね?テオドール様がどこの食堂へ行ったのかは分からないけれど、先程、反対方向へ歩いて行くのを見かけたもの。ここの食堂には、来ないわよね」
「そうね。誰かを迎えに行った様にも見えたのだけれど、待ち合わせをしているのかもしれないわね」
私とラノアは、今日こそはテオドール様を視界に入れずに、ゆっくりと食事を楽しめると思っていたのです。
「そんな事よりさ、今朝言っていた僕の所為って、何の事?気になって、午前中の授業が身に入らなかったよ。僕は、リーゼを怒らせるような事をした覚えが、全くないんだよね~」
ハルジオンは、何を口走ったのかを、全く覚えていない様でした。
「貴方がテオドール様と私との間に、女神様の祝福があるなんて言うから、デートの間、ずっと気になって仕方がなかったのよ。あの時の少年の事を思い出した途端、テオドール様を意識しちゃって、心臓が口から飛び出してしまうかと思ったわ。これから彼に会う度に、どんな顔をしたらいいのか、分からなくなってしまったのよ」
「へ~あいつの事を、好きになれたんだ。良かったね」
「良くはないわよ。あんなに好き放題遊んでいる人と、今日から夫婦になります宜しくねって笑えるほど、私の心は広くはなかったの。せめて私が気付かない様に、隠れて遊んで欲しかったわ。それか、結婚して子供が出来た後なら…少しは許せたと思うの…多分だけれど…」
「凄いね。リーゼが嫉妬深いとは、意外だったな~」
「え?」
ハルジオンは、とても楽しそうに笑っています。
嫉妬?私が、テオドール様に嫉妬ですって?
この言いようのない感情が、嫉妬だというのなら、私はテオドール様に恋をしている事になるのでしょうか。
「あっ。噂をすれば、ほら来たよ。愛しい彼が、今日は………凄いな、あいつ。遊び相手は平民だけかと思っていたのに、貴族令嬢にまで手を伸ばすとは、想定外だな」
ハルジオンの言葉を聞いて振り返ると、食堂の入り口からテオドール様が女子生徒を連れて入って来ました。
その姿を捉えた私は、背筋から冷や水を掛けられた様に、ブルっと寒気がしたのです。
「嘘でしょう…いくら何でも公爵令嬢は…どうしましょう。止めた方がいいのよね?でも、正式な婚約者でもない私に、そんな資格なんてあるのかしら…」
「ノワール伯爵に、伝えた方がよさそうね。いくら彼女に良い噂がないとしても、公爵令嬢を遊び相手にするのは、流石に駄目だと思うわよ。彼女だって、これ以上醜聞を広められたら、嫁ぎ先が本当に無くなるでしょうし…どちらにとっても、良い事なんてないと思うわ」
「ラノア、醜聞って、何の事?」
「あら。リーゼは、最近まで社交界に出ていなかったから、知らなかったのね。彼女が王太子殿下の婚約者になり損ねたのは、下半身がとても自由な方だと、噂になったからなのよ」
「どういう事?公爵家のご令嬢ならば、しっかりと教育を受けているのでしょう。まして婚約者候補として名前を挙げられていたのならばなおの事、身持ちをしっかりしておかなくてはいけないのではないの?」
私は不思議に思い、納得できない疑問をラノアにぶつけてみたのです。
「始めのうちは、噂なんて誰も本気にはしていなかったのよ。貴族社会なんて足の引っ張り合いも多いから、彼女を陥れる為に誰かが故意に噂を流したのだと思われていたの。それなのに、婚約者候補の最有力者って言われていたのに、あっけなく外されたにも拘わらず公爵家からは何の抗議もなかったのよ。だから、今では噂を信じている人の方が多いのよ」
「そんな事があったのね…」
「高位貴族のご令嬢なのに、未だ婚約者がいらっしゃらないのも、噂が本当だったと言っているようなものよ」
「そうなのね。ちょっと彼女の事で、聞いて欲しい事があるのだけれど」
「いいわよ。何かあったの?」
私は、今朝ラノアたちと別れてからペンタール公爵令嬢に話しかけられた事を、そのまま話してみました。
「待ち伏せされたって事?もしかすると、ペンタール公爵令嬢の方から、フェナジンに近付いたのかもしれないわね。彼女って、背の高い痩せた男性が好みだと聞いているわ」
「そうなのね。テオドール様は、背も高いし細身だから、気に入られたのかしら?だとしたら、男爵家の子息が、簡単にお断り出来る相手ではないものね…」
私は、一抹の不安を覚えたのです。
多額の負債を抱えた伯爵家よりも、裕福な公爵家と縁を持った方が、フェナジン男爵家にとっても利益がある筈です。
公爵家の当主様が、テオドール様と公女様の結婚を認めたら、私との縁は簡単に切れるでしょう。
その場合、伯爵家の抱えている負債はどうなるのかしら。
今まで借りた分を全額返金なんて事になってしまったら、今度こそ間違いなく没落してしまいます。
万が一没落を免れたとしても、負債を抱えた貧乏貴族に婿入りして下さる方なんているのかしら。
正式な婚約を結んでいる訳ではないので、慰謝料の請求も出来ませんし、どちらにしても私には不安な未来しかないのです。
私は動揺を隠せずに視線を彷徨わせていると、ペンタール公爵令嬢と目が合ってしまいました。
食事中なので軽く会釈をすると、遠目からでも分かる程、自信に満ちた笑みを向けられたのです。
私は、何故かとても惨めな気持ちになってしまい、俯いてしまったのでした。
本当に女神様は、私の気持ちを弄んでいるのではないかと疑ってしまいます。
やっとお昼休みになったので、ラノアたちと一緒に前回とは違う食堂へ向かいました。
同じ食堂へ行くと、またテオドール様と遭遇しそうだったのです。
「今日こそは、大丈夫よね?テオドール様がどこの食堂へ行ったのかは分からないけれど、先程、反対方向へ歩いて行くのを見かけたもの。ここの食堂には、来ないわよね」
「そうね。誰かを迎えに行った様にも見えたのだけれど、待ち合わせをしているのかもしれないわね」
私とラノアは、今日こそはテオドール様を視界に入れずに、ゆっくりと食事を楽しめると思っていたのです。
「そんな事よりさ、今朝言っていた僕の所為って、何の事?気になって、午前中の授業が身に入らなかったよ。僕は、リーゼを怒らせるような事をした覚えが、全くないんだよね~」
ハルジオンは、何を口走ったのかを、全く覚えていない様でした。
「貴方がテオドール様と私との間に、女神様の祝福があるなんて言うから、デートの間、ずっと気になって仕方がなかったのよ。あの時の少年の事を思い出した途端、テオドール様を意識しちゃって、心臓が口から飛び出してしまうかと思ったわ。これから彼に会う度に、どんな顔をしたらいいのか、分からなくなってしまったのよ」
「へ~あいつの事を、好きになれたんだ。良かったね」
「良くはないわよ。あんなに好き放題遊んでいる人と、今日から夫婦になります宜しくねって笑えるほど、私の心は広くはなかったの。せめて私が気付かない様に、隠れて遊んで欲しかったわ。それか、結婚して子供が出来た後なら…少しは許せたと思うの…多分だけれど…」
「凄いね。リーゼが嫉妬深いとは、意外だったな~」
「え?」
ハルジオンは、とても楽しそうに笑っています。
嫉妬?私が、テオドール様に嫉妬ですって?
この言いようのない感情が、嫉妬だというのなら、私はテオドール様に恋をしている事になるのでしょうか。
「あっ。噂をすれば、ほら来たよ。愛しい彼が、今日は………凄いな、あいつ。遊び相手は平民だけかと思っていたのに、貴族令嬢にまで手を伸ばすとは、想定外だな」
ハルジオンの言葉を聞いて振り返ると、食堂の入り口からテオドール様が女子生徒を連れて入って来ました。
その姿を捉えた私は、背筋から冷や水を掛けられた様に、ブルっと寒気がしたのです。
「嘘でしょう…いくら何でも公爵令嬢は…どうしましょう。止めた方がいいのよね?でも、正式な婚約者でもない私に、そんな資格なんてあるのかしら…」
「ノワール伯爵に、伝えた方がよさそうね。いくら彼女に良い噂がないとしても、公爵令嬢を遊び相手にするのは、流石に駄目だと思うわよ。彼女だって、これ以上醜聞を広められたら、嫁ぎ先が本当に無くなるでしょうし…どちらにとっても、良い事なんてないと思うわ」
「ラノア、醜聞って、何の事?」
「あら。リーゼは、最近まで社交界に出ていなかったから、知らなかったのね。彼女が王太子殿下の婚約者になり損ねたのは、下半身がとても自由な方だと、噂になったからなのよ」
「どういう事?公爵家のご令嬢ならば、しっかりと教育を受けているのでしょう。まして婚約者候補として名前を挙げられていたのならばなおの事、身持ちをしっかりしておかなくてはいけないのではないの?」
私は不思議に思い、納得できない疑問をラノアにぶつけてみたのです。
「始めのうちは、噂なんて誰も本気にはしていなかったのよ。貴族社会なんて足の引っ張り合いも多いから、彼女を陥れる為に誰かが故意に噂を流したのだと思われていたの。それなのに、婚約者候補の最有力者って言われていたのに、あっけなく外されたにも拘わらず公爵家からは何の抗議もなかったのよ。だから、今では噂を信じている人の方が多いのよ」
「そんな事があったのね…」
「高位貴族のご令嬢なのに、未だ婚約者がいらっしゃらないのも、噂が本当だったと言っているようなものよ」
「そうなのね。ちょっと彼女の事で、聞いて欲しい事があるのだけれど」
「いいわよ。何かあったの?」
私は、今朝ラノアたちと別れてからペンタール公爵令嬢に話しかけられた事を、そのまま話してみました。
「待ち伏せされたって事?もしかすると、ペンタール公爵令嬢の方から、フェナジンに近付いたのかもしれないわね。彼女って、背の高い痩せた男性が好みだと聞いているわ」
「そうなのね。テオドール様は、背も高いし細身だから、気に入られたのかしら?だとしたら、男爵家の子息が、簡単にお断り出来る相手ではないものね…」
私は、一抹の不安を覚えたのです。
多額の負債を抱えた伯爵家よりも、裕福な公爵家と縁を持った方が、フェナジン男爵家にとっても利益がある筈です。
公爵家の当主様が、テオドール様と公女様の結婚を認めたら、私との縁は簡単に切れるでしょう。
その場合、伯爵家の抱えている負債はどうなるのかしら。
今まで借りた分を全額返金なんて事になってしまったら、今度こそ間違いなく没落してしまいます。
万が一没落を免れたとしても、負債を抱えた貧乏貴族に婿入りして下さる方なんているのかしら。
正式な婚約を結んでいる訳ではないので、慰謝料の請求も出来ませんし、どちらにしても私には不安な未来しかないのです。
私は動揺を隠せずに視線を彷徨わせていると、ペンタール公爵令嬢と目が合ってしまいました。
食事中なので軽く会釈をすると、遠目からでも分かる程、自信に満ちた笑みを向けられたのです。
私は、何故かとても惨めな気持ちになってしまい、俯いてしまったのでした。
本当に女神様は、私の気持ちを弄んでいるのではないかと疑ってしまいます。
32
あなたにおすすめの小説
尽くしてきた婚約者に裏切られたので、婚約を解消しました〜彼が愛に気づいたのは、すべてを失ったあとでした〜
ともどーも
恋愛
「今回で最後だ。誓うよ」
これは二度目の『結婚式キャンセル』の時に言われた言葉。
四年間、愛する婚約者ディートリッヒのため尽くし続けてきたイリス。
だがディートリッヒは、イリスの献身を当然のものとし、やがて初恋の令嬢エレノアを優先するようになる。
裏切り、誤解、そして理不尽な糾弾。
心も身体も限界を迎えた夜、イリスは静かに決意した。
──もう、終わらせよう。
ディートリッヒが「脅しのつもり」で差し出した婚約解消の書類を、イリスは本当に提出してしまう。
すべてを失ってから、ようやく自分の愛に気づいたディートリッヒ。
しかしもう、イリスは振り返らない。
まだ完結まで執筆が終わっていません。
20話以降は不定期更新になります。
設定はゆるいです。
皇太女の暇つぶし
Ruhuna
恋愛
ウスタリ王国の学園に留学しているルミリア・ターセンは1年間の留学が終わる卒園パーティーの場で見に覚えのない罪でウスタリ王国第2王子のマルク・ウスタリに婚約破棄を言いつけられた。
「貴方とは婚約した覚えはありませんが?」
*よくある婚約破棄ものです
*初投稿なので寛容な気持ちで見ていただけると嬉しいです
「聖女に比べてお前には癒しが足りない」と婚約破棄される将来が見えたので、医者になって彼を見返すことにしました。
ぽんぽこ@3/28新作発売!!
恋愛
「ジュリア=ミゲット。お前のようなお飾りではなく、俺の病気を癒してくれるマリーこそ、王妃に相応しいのだ!!」
侯爵令嬢だったジュリアはアンドレ王子の婚約者だった。王妃教育はあんまり乗り気ではなかったけれど、それが役目なのだからとそれなりに頑張ってきた。だがそんな彼女はとある夢を見た。三年後の婚姻式で、アンドレ王子に婚約破棄を言い渡される悪夢を。
「……認めませんわ。あんな未来は絶対にお断り致します」
そんな夢を回避するため、ジュリアは行動を開始する。
ふたりの愛は「真実」らしいので、心の声が聞こえる魔道具をプレゼントしました
もるだ
恋愛
伯爵夫人になるために魔術の道を諦め厳しい教育を受けていたエリーゼに告げられたのは婚約破棄でした。「アシュリーと僕は真実の愛で結ばれてるんだ」というので、元婚約者たちには、心の声が聞こえる魔道具をプレゼントしてあげます。
公爵令嬢、学校をつくる。 ―学院のない世界に学院を作りますわ!―
鷹 綾
恋愛
男が学び、女は飾るだけ——
そんな世界に、ひとりの公爵令嬢が問いを投げた。
レクチャラー・トレイルブレイザー。
名門公爵家に生まれた彼女は、幼い頃に父から“学院”という御伽話を聞く。徒弟でも修道院でもない、講師を集め、制度として人を育てる場所。
この世界には、まだその言葉すら存在しなかった。
「講師を一か所に集めますわ」
家庭ごとに高額な家庭教師を雇う非効率。
才能があっても機会を得られない現実。
身分と財力だけが教育を決める社会構造。
彼女は合理性を武器に、貴族子弟のための“学院”を創設する。
複数の生徒から月謝を集めることで、家庭教師より安価に。
講師にはより高額な報酬を。
制度として成立する形で、教育を再設計する。
やがて学院は成果を出し、“学院出身”は優秀の証となる。
その基盤の上で、彼女は次の一歩を踏み出す。
——貴族女子学院。
「美しさと知性と教養を兼ね備えた令嬢。婚約先は、よりどりみどりですわ」
表向きは婚約戦略。
だが本当の狙いは、女性の地位向上。
男尊女卑が当然の世界で、女が学ぶことは前例なき挑戦。
保守派の反発、王太子からの婚約打診。
それでも彼女は揺れない。
「婚約は家同士の契約です。決定権は父にあります」
父を盾にしながら、順序を守り、世界を壊さず、底から上げる。
恋より制度。
革命ではなく積み重ね。
学院のない世界に、学院を。
これは、静かに世界を変えようとする公爵令嬢の物語。
真実の愛のお相手に婚約者を譲ろうと頑張った結果、毎回のように戻ってくる件
さこの
恋愛
好きな人ができたんだ。
婚約者であるフェリクスが切々と語ってくる。
でもどうすれば振り向いてくれるか分からないんだ。なぜかいつも相談を受ける
プレゼントを渡したいんだ。
それならばこちらはいかがですか?王都で流行っていますよ?
甘いものが好きらしいんだよ
それならば次回のお茶会で、こちらのスイーツをお出ししましょう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる