好きになったり、嫌いになったり

鈴蘭

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嫉妬

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 学園から帰宅した私は、今日あった出来事を掻い摘んで、必要だと思われる事だけお父様に報告しております。
 お昼休みにペンタール公爵令嬢と、テオドール様が仲睦まじく食堂へ来た事も、きちんと報告致しました。
 お父様はとても複雑な表情をみせております。

 「分かった。フェナジン男爵には、私の方から手紙を出しておく。正式な婚約は結んでいないが、係わりが全くない訳ではないからな。ペンタール公爵に睨まれるような事は避けたい」
 「申し訳ありません、お父様。私がしっかりと、テオドール様の気持ちを引き留めて置けなかったばかりに、問題事ばかりを持ってきてしまって…」
 私は悔しい気持ちでいっぱいになってしまいました。
 今にも涙が零れ落ちそうになるのを、必死に堪えていたのです。

 「お前が気に病む事はない。婚約の打診をされてから、一年も経っていないのだから、親睦を深める為の時間もなかっただろう」
 「それでもテオドール様は、よく伯爵家に来て下さっておりますわ。幼い頃から婚約を結び、月一度しかお会い出来ない方たちよりも、ずっと長い時間を過ごしていたと思います」
 「元々テオドール君は、平民として生きてきたのだ。貴族と彼らとでは、考え方も、常識も違うのは当たり前の事。住む世界も、背負う物の大きさも違うのだからな。お互いに寄り添う為には、時間をかけてゆっくりと、親睦を深めなくてはいけないのだ。その時間が、お前たちには短すぎた。それに、貴族令嬢は貞操を重んじる。彼も、それを理解してくれていると思っていたのだがな…今回は、選んだ相手が悪かったのかもしれない」
 お父様は、苦虫を噛み潰した様なお顔をされていました。

 私は部屋に戻り着替えを済ませると、テオドール様の事を考えておりました。
 初めてお会いしたのは、昨年の夏でした。
 男爵位を買ってから間もなかったので、彼は平民として生活をしていたのです。
 伯爵家には週に三回、貴族としての教育を受けに来るようにと約束をしましたが、一度も遅刻をした事がなく時間をきちんと守る方でした。

 物覚えが良いとはお世辞にも言えませんが、宿題もきちんとやってきますし、真面目に勉強をする方なのだという事は理解しております。
 彼なりに歩み寄ろうと努力をされていた事も知っておりましたから、今回の事は期待を裏切られたと、強く感じてしまいました。

 私は、どうしたら良かったのでしょうか。
 目の前で堂々と、他の女性と仲睦まじくされる事は、やはり気持ちの良いものではありません。
 私はハルジオンの言うように、嫉妬をしているのだと、自覚してしまいました。

 自分でも気が付かないうちに、彼に好意を寄せる様になっていたのかもしれません。
 もっと早くこの思いをテオドール様に伝えていたら、彼は、私だけを見ていてくれたのでしょうか?
 今更考えても仕方のない事ですね。
 私は、大きなため息をつくのでした。

 「お嬢様。テオドール様がお見えになりました」
 「ありがとう。客間にお通ししてちょうだい」
 「畏まりました」
 私はまたひとつ、溜息を零してしまいました。
 このタイミングでと思う気持ちもありますが、何度、先触れを出して欲しいと言えば理解して下さるのかしら。

 椅子から立ち上がり客間に向かうと、テオドール様がソファーに腰かけておりました。
 黙って座っているだけなら、貴族令息として産まれ育ったのだと、誰もが思えるでしょうね。

 「お待たせいたしました、テオドール様。今日は、どのようなご用件でしょうか」
 テオドール様は、とても不機嫌そうな態度で、私を見ております。
 「リーゼ。また男と親しくしていただろう。見張りを付けると言っていたのに、堂々と浮気をするのか?」
 また見張りですか。

 「申し訳ありませんが、何の事を仰っているのか…」
 「放課後の教室で、男と二人で何をしていたんだ?」
 「テオドール様。お言葉ですが、男子生徒と一切の交流を無くす事は、不可能ですわ。今日の放課後に話していたクラスメイトとは、委員会が同じなのです。今年の広報誌に乗せる為の記事を、二人で書いていただけですわ。この活動は、今年一年間続くのです。もう決まった事を、覆す事は出来ませんのよ」
 「リーゼの見張りをさせていた女は、男と手を握り合ったり、抱き締め合ったりしていたと言っていた。俺は、お前の言葉を信じていいんだな」
 「信じるも何も、私は事実を申し上げているだけですわ。何処のどなたから聞いたのかは知りませんが、その方に私の見張り役を頼んだのは、間違いだと思います。やってもいない事を報告するなんて、信用出来ないのではなくって?」
 「そうか、分かった」
 テオドール様は、とても不服そうなお顔をされていましたが、私の言葉を信じてくださったのだと思う事に致します。

 「ご用件は、それだけですか」
 「今日、髪飾りを着けていただろう。食堂で見かけただけだったが、似合っていた。とても綺麗だったから近くで見たかったのだが…外してしまったんだな。残念だ」
 ぐっ…鞭の後の、飴ですか。

 「ありがとうございます。ラノアにも髪飾りを渡しましたので、後日テオドール様の元に、代金が支払われると思います。彼女もとても喜んでおりまして、今度茶会を開くと仰っておりましたの。お揃いの髪飾りを着けて、参加する事に致しました」
 「そうか、茶会はいつ開かれるんだ」
 「まだ招待状が届いておりませんので、日時はわかりません」
 「そうか。直ぐに、揃いの髪飾りに合わせたドレスを用意させよう」
 「お待ちください、テオドール様。今回の茶会は、エスコートの必要がありません。ですから、ドレスも必要ありませんわ。お気持ちだけ有難く…」
 「何を着て行くつもりだ」
 「え?」
 「まさかとは思うが、招待状を貰っておきながら、手持ちのドレスを着て行こうなどと考えていないだろうな?」
 「まだ数回しか袖を通していないドレスが…」
 「リーゼ。俺は、しみったれた女は嫌いだと、いつも言っているだろう。伯爵家の令嬢なのだから、それ相応のドレスを着て行け。俺の妻になるのだから、身なりにも気を配れ。分かったか」
 「………あの…すみません」
 「何だよ。文句があるなら言ってみろ」
 「文句ではありませんが、テオドール様は………その…私を、本気で妻にするおつもりなのでしょうか?」
 「当たり前だろう。何、訳の分からない事を言い出すんだ。まさかとは思うが、好きな男でも出来たのか?」
 テオドール様に、変な誤解をさせてしまいました。
 面倒くさい事になりそうなので、きちんと説明をしなくては…

 「そんな方はおりません。先日は、誕生日プレゼントを、ありがとうございました。とても高価な物をいただきましたので、これ以上婚約者ではない方からのプレゼントは、受け取れません。ですから、ドレスはお気持ちだけ…」
 「リーゼ!正式な婚約をしなかった事を、根に持つのは止めろ。俺は、結婚したら出来なくなる事を、今のうちにやりたいだけだ。後悔の残る生き方を、したくはないからな。学園を卒業したら、俺は、本物の貴族家へ婿に入るんだぞ。今だけの自由くらい、目を瞑れ。分かったか」

 婿入りしたら出来なくなる事とは、一体なんの事を言っているのでしょうか?
 論点がズレてしまった様です。
 「ですが…」
 「くどい!俺が贈ったドレス以外は、着るな。これは、命令だ!」
 え…命令?
 逆らうと、援助金は出さないという事でしょうか?
 それは、凄く困ります。

 領民の事を考えると、テオドール様を怒らせるのは、得策ではありません。
 「分かりました。ご厚意に感謝いたします」
 「最初から素直にそう言えばいいんだ。お前から受ける嫉妬も可愛いが、度が過ぎると醜くなるから気を付けろ」
 ………あら?今、嫉妬と言いましたか?
 テオドール様は、いつもの様に言いたい事だけ言うと、帰ってしまいました。
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