17 / 52
思惑(メサラジーナ・ペンタール視点)
しおりを挟む
わたくしは、幼い頃から公爵令嬢として恥ずかしくない様、厳しい教育を受けて育ってきましたのよ。
両親は、わたくしが王太子殿下に見初められる事を信じて疑ってはいませんでしたし、事実一番婚約者に近い場所におりましたもの。
殿下の隣に立つ事がわたくしの幸せであり、未来の国母になる事を誰よりも望んでいると、両親を含めて皆がそう思っていたのも存じ上げておりますのよ。
わたくしも、幼い頃はそう信じておりましたが、大人になっていくうちに少しずづ息苦しさを感じる様になりましたわ。
誰もが望む理想のわたくしと、自由に生きたいと願うわたくし。
心のやり場をなくして行き詰った幼い頃のわたくしは、お忍びで平民が好むといわれている商店街へと、出向く事にいたしましたの。
そこには、見た事もない物が沢山あり、人々は陽気で活気に満ち溢れておりましたのよ。
下品にも思われる女性たちの笑い声や、何処かで言い争いをしているであろう殿方の怒鳴り声。
みすぼらしい姿で、萎れた雑草を売りにくる少女。
大きな口を開けて、大きなパンを貪りながら歩く、恋人同士…かしら?
何もかもが下品で、穢らわしく感じましたのよ。
それと同時に、羨ましくも思ったのですわ。
この感情が何かわからず、とても戸惑いましたのよ。
それでも止まる事なく街中を歩いていると、一人の背の高い男に声を掛けられましたの。
路地裏へと引き摺られて行きそうになりましたが、何故か恐怖心や嫌悪感は抱かなかったのですわ。
むしろどんな事が起こるのか期待している感情と、すぐに護衛に助けられてしまったと、残念に思う感情を抱いた事に驚きましたのよ。
毎日同じ事の繰り返しと、肩にのしかかる重圧に耐えられなくなっていたわたくしは、どこか刺激的な出会いを求めていたのかもしれませんわね。
その日は何事もなく屋敷に戻って来てしまいましたが、あの時の言い知れぬ感情を消し去る事が出来ず、わたくしは何度も外出を重ねる様になりましたのよ。
あの下品な笑い声を聞くたびに、あの穢らわしい姿を見るたびに、心が歓喜で満たされてゆくのですわ。
そんなある日、背が高くてとても見目麗しい青年を見つけたのです。
わたくしは彼に声を掛けて、公爵邸へと連れ帰って来ましたのよ。
着せ替え人形の様に着飾って、ただ愛でるだけの存在に、両親は顔を顰めながらも黙認しておりましたわ。
まだ大人になり切れていない幼ないわたくしの、気まぐれで思いついたお遊びだと思っていたのかもしれませんわね。
それを良い事に、わたくしは外出先で見つけた見目麗しい青年を、屋敷へと連れ帰る様になりましたのよ。
彼らは、働かずに贅沢な暮らしが出来る事に喜びを感じ、わたくしに嫌われない様にいつも優しく機嫌を取ってきますのよ。
しかし見目が麗しいだけの青年は、毎日愛でているだけではつまらなくなり、直ぐに飽きてしまいましたの。
幾ばくかの金銭を渡して解放してさしあげると、口汚く罵っているのに、買い与えた物は全て持ち帰ったのですわ。
彼らの醜い言葉遣いが、どうして耳障りの良い響きに聞こえてしまうのでしょうか?
浅ましい男たちの下卑たさえずりが、わたくしの心を満たしてゆくのです。
所詮はゴミ屑以下の平民なのだと、わたくしの心は蔑む感情と、愉快と思う感情が混ざり合いましたのよ。
とても不思議な感覚でしたわ。
今度は育ちの良い青年を見つけたならば、今以上に心が満たされるのではないかと考え、若い貴族たちが行き交う街へと出かけましたのよ。
やはり美しい街並みの方が、高貴な生まれであるわたくしに相応しいと、軽やかな足取りでこの国で一番大きな商会である店に入ってみましたの。
その店の客層は若い女性が殆どで、皆小さな少年を独占しようと、取り囲んでおりましたわ。
ですがわたくしが声を掛けると、若い女性たちは早々に退散して行きましたのよ。
当然ですわね。
この国で、わたくしよりも身分の高い令嬢なんておりませんもの。
珍しい事では、ありませんわね。
そして一人取り残された小さな少年を見て、わたくしは、今まで感じた事もないときめきを覚えましたのよ。
彼はこの店のご子息で、テオドールと名乗りましたわ。
わたくしよりも、歳がひとつだけ下だったのには驚きましたのよ。
もっと幼く見えていたのですもの。
まだ変声期を向かえる前の澄み切った声、自然と向けられる優しい微笑みが、わたくしの心を鷲掴みにして離さなかったのですわ。
今なら、初恋だったのだと、理解できましてよ。
わたくしだけの物にしたくて、いつもの様に連れて帰ろうとしたのですが、断られてしまいましたのよ。
何故断られたのか理解出来なかったわたくしは、理由を尋ねたのですわ。
すると彼は、商人として父親よりも大きな存在になるのが夢なのだと、教えてくれましたのよ。
その第一歩になる店を預かっているのだと聞かされて、わたくしよりも小さな少年が、立派に生きようとしている姿に感銘を受けたのですわ。
わたくしは彼を連れて帰る事を諦めたのですが、どうしても忘れる事が出来ませんでしたの。
そして彼にとっての一番になりたくて、毎日の様に商品を用意させて、屋敷へと呼び出す事にいたしましたのよ。
両親は、わたくしが王太子殿下に見初められる事を信じて疑ってはいませんでしたし、事実一番婚約者に近い場所におりましたもの。
殿下の隣に立つ事がわたくしの幸せであり、未来の国母になる事を誰よりも望んでいると、両親を含めて皆がそう思っていたのも存じ上げておりますのよ。
わたくしも、幼い頃はそう信じておりましたが、大人になっていくうちに少しずづ息苦しさを感じる様になりましたわ。
誰もが望む理想のわたくしと、自由に生きたいと願うわたくし。
心のやり場をなくして行き詰った幼い頃のわたくしは、お忍びで平民が好むといわれている商店街へと、出向く事にいたしましたの。
そこには、見た事もない物が沢山あり、人々は陽気で活気に満ち溢れておりましたのよ。
下品にも思われる女性たちの笑い声や、何処かで言い争いをしているであろう殿方の怒鳴り声。
みすぼらしい姿で、萎れた雑草を売りにくる少女。
大きな口を開けて、大きなパンを貪りながら歩く、恋人同士…かしら?
何もかもが下品で、穢らわしく感じましたのよ。
それと同時に、羨ましくも思ったのですわ。
この感情が何かわからず、とても戸惑いましたのよ。
それでも止まる事なく街中を歩いていると、一人の背の高い男に声を掛けられましたの。
路地裏へと引き摺られて行きそうになりましたが、何故か恐怖心や嫌悪感は抱かなかったのですわ。
むしろどんな事が起こるのか期待している感情と、すぐに護衛に助けられてしまったと、残念に思う感情を抱いた事に驚きましたのよ。
毎日同じ事の繰り返しと、肩にのしかかる重圧に耐えられなくなっていたわたくしは、どこか刺激的な出会いを求めていたのかもしれませんわね。
その日は何事もなく屋敷に戻って来てしまいましたが、あの時の言い知れぬ感情を消し去る事が出来ず、わたくしは何度も外出を重ねる様になりましたのよ。
あの下品な笑い声を聞くたびに、あの穢らわしい姿を見るたびに、心が歓喜で満たされてゆくのですわ。
そんなある日、背が高くてとても見目麗しい青年を見つけたのです。
わたくしは彼に声を掛けて、公爵邸へと連れ帰って来ましたのよ。
着せ替え人形の様に着飾って、ただ愛でるだけの存在に、両親は顔を顰めながらも黙認しておりましたわ。
まだ大人になり切れていない幼ないわたくしの、気まぐれで思いついたお遊びだと思っていたのかもしれませんわね。
それを良い事に、わたくしは外出先で見つけた見目麗しい青年を、屋敷へと連れ帰る様になりましたのよ。
彼らは、働かずに贅沢な暮らしが出来る事に喜びを感じ、わたくしに嫌われない様にいつも優しく機嫌を取ってきますのよ。
しかし見目が麗しいだけの青年は、毎日愛でているだけではつまらなくなり、直ぐに飽きてしまいましたの。
幾ばくかの金銭を渡して解放してさしあげると、口汚く罵っているのに、買い与えた物は全て持ち帰ったのですわ。
彼らの醜い言葉遣いが、どうして耳障りの良い響きに聞こえてしまうのでしょうか?
浅ましい男たちの下卑たさえずりが、わたくしの心を満たしてゆくのです。
所詮はゴミ屑以下の平民なのだと、わたくしの心は蔑む感情と、愉快と思う感情が混ざり合いましたのよ。
とても不思議な感覚でしたわ。
今度は育ちの良い青年を見つけたならば、今以上に心が満たされるのではないかと考え、若い貴族たちが行き交う街へと出かけましたのよ。
やはり美しい街並みの方が、高貴な生まれであるわたくしに相応しいと、軽やかな足取りでこの国で一番大きな商会である店に入ってみましたの。
その店の客層は若い女性が殆どで、皆小さな少年を独占しようと、取り囲んでおりましたわ。
ですがわたくしが声を掛けると、若い女性たちは早々に退散して行きましたのよ。
当然ですわね。
この国で、わたくしよりも身分の高い令嬢なんておりませんもの。
珍しい事では、ありませんわね。
そして一人取り残された小さな少年を見て、わたくしは、今まで感じた事もないときめきを覚えましたのよ。
彼はこの店のご子息で、テオドールと名乗りましたわ。
わたくしよりも、歳がひとつだけ下だったのには驚きましたのよ。
もっと幼く見えていたのですもの。
まだ変声期を向かえる前の澄み切った声、自然と向けられる優しい微笑みが、わたくしの心を鷲掴みにして離さなかったのですわ。
今なら、初恋だったのだと、理解できましてよ。
わたくしだけの物にしたくて、いつもの様に連れて帰ろうとしたのですが、断られてしまいましたのよ。
何故断られたのか理解出来なかったわたくしは、理由を尋ねたのですわ。
すると彼は、商人として父親よりも大きな存在になるのが夢なのだと、教えてくれましたのよ。
その第一歩になる店を預かっているのだと聞かされて、わたくしよりも小さな少年が、立派に生きようとしている姿に感銘を受けたのですわ。
わたくしは彼を連れて帰る事を諦めたのですが、どうしても忘れる事が出来ませんでしたの。
そして彼にとっての一番になりたくて、毎日の様に商品を用意させて、屋敷へと呼び出す事にいたしましたのよ。
32
あなたにおすすめの小説
尽くしてきた婚約者に裏切られたので、婚約を解消しました〜彼が愛に気づいたのは、すべてを失ったあとでした〜
ともどーも
恋愛
「今回で最後だ。誓うよ」
これは二度目の『結婚式キャンセル』の時に言われた言葉。
四年間、愛する婚約者ディートリッヒのため尽くし続けてきたイリス。
だがディートリッヒは、イリスの献身を当然のものとし、やがて初恋の令嬢エレノアを優先するようになる。
裏切り、誤解、そして理不尽な糾弾。
心も身体も限界を迎えた夜、イリスは静かに決意した。
──もう、終わらせよう。
ディートリッヒが「脅しのつもり」で差し出した婚約解消の書類を、イリスは本当に提出してしまう。
すべてを失ってから、ようやく自分の愛に気づいたディートリッヒ。
しかしもう、イリスは振り返らない。
まだ完結まで執筆が終わっていません。
20話以降は不定期更新になります。
設定はゆるいです。
皇太女の暇つぶし
Ruhuna
恋愛
ウスタリ王国の学園に留学しているルミリア・ターセンは1年間の留学が終わる卒園パーティーの場で見に覚えのない罪でウスタリ王国第2王子のマルク・ウスタリに婚約破棄を言いつけられた。
「貴方とは婚約した覚えはありませんが?」
*よくある婚約破棄ものです
*初投稿なので寛容な気持ちで見ていただけると嬉しいです
「聖女に比べてお前には癒しが足りない」と婚約破棄される将来が見えたので、医者になって彼を見返すことにしました。
ぽんぽこ@3/28新作発売!!
恋愛
「ジュリア=ミゲット。お前のようなお飾りではなく、俺の病気を癒してくれるマリーこそ、王妃に相応しいのだ!!」
侯爵令嬢だったジュリアはアンドレ王子の婚約者だった。王妃教育はあんまり乗り気ではなかったけれど、それが役目なのだからとそれなりに頑張ってきた。だがそんな彼女はとある夢を見た。三年後の婚姻式で、アンドレ王子に婚約破棄を言い渡される悪夢を。
「……認めませんわ。あんな未来は絶対にお断り致します」
そんな夢を回避するため、ジュリアは行動を開始する。
ふたりの愛は「真実」らしいので、心の声が聞こえる魔道具をプレゼントしました
もるだ
恋愛
伯爵夫人になるために魔術の道を諦め厳しい教育を受けていたエリーゼに告げられたのは婚約破棄でした。「アシュリーと僕は真実の愛で結ばれてるんだ」というので、元婚約者たちには、心の声が聞こえる魔道具をプレゼントしてあげます。
公爵令嬢、学校をつくる。 ―学院のない世界に学院を作りますわ!―
鷹 綾
恋愛
男が学び、女は飾るだけ——
そんな世界に、ひとりの公爵令嬢が問いを投げた。
レクチャラー・トレイルブレイザー。
名門公爵家に生まれた彼女は、幼い頃に父から“学院”という御伽話を聞く。徒弟でも修道院でもない、講師を集め、制度として人を育てる場所。
この世界には、まだその言葉すら存在しなかった。
「講師を一か所に集めますわ」
家庭ごとに高額な家庭教師を雇う非効率。
才能があっても機会を得られない現実。
身分と財力だけが教育を決める社会構造。
彼女は合理性を武器に、貴族子弟のための“学院”を創設する。
複数の生徒から月謝を集めることで、家庭教師より安価に。
講師にはより高額な報酬を。
制度として成立する形で、教育を再設計する。
やがて学院は成果を出し、“学院出身”は優秀の証となる。
その基盤の上で、彼女は次の一歩を踏み出す。
——貴族女子学院。
「美しさと知性と教養を兼ね備えた令嬢。婚約先は、よりどりみどりですわ」
表向きは婚約戦略。
だが本当の狙いは、女性の地位向上。
男尊女卑が当然の世界で、女が学ぶことは前例なき挑戦。
保守派の反発、王太子からの婚約打診。
それでも彼女は揺れない。
「婚約は家同士の契約です。決定権は父にあります」
父を盾にしながら、順序を守り、世界を壊さず、底から上げる。
恋より制度。
革命ではなく積み重ね。
学院のない世界に、学院を。
これは、静かに世界を変えようとする公爵令嬢の物語。
真実の愛のお相手に婚約者を譲ろうと頑張った結果、毎回のように戻ってくる件
さこの
恋愛
好きな人ができたんだ。
婚約者であるフェリクスが切々と語ってくる。
でもどうすれば振り向いてくれるか分からないんだ。なぜかいつも相談を受ける
プレゼントを渡したいんだ。
それならばこちらはいかがですか?王都で流行っていますよ?
甘いものが好きらしいんだよ
それならば次回のお茶会で、こちらのスイーツをお出ししましょう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる