好きになったり、嫌いになったり

鈴蘭

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思惑(メサラジーナ・ペンタール視点)

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 わたくしは、幼い頃から公爵令嬢として恥ずかしくない様、厳しい教育を受けて育ってきましたのよ。
 両親は、わたくしが王太子殿下に見初められる事を信じて疑ってはいませんでしたし、事実一番婚約者に近い場所におりましたもの。

 殿下の隣に立つ事がわたくしの幸せであり、未来の国母になる事を誰よりも望んでいると、両親を含めて皆がそう思っていたのも存じ上げておりますのよ。
 わたくしも、幼い頃はそう信じておりましたが、大人になっていくうちに少しずづ息苦しさを感じる様になりましたわ。

 誰もが望む理想のわたくしと、自由に生きたいと願うわたくし。
 心のやり場をなくして行き詰った幼い頃のわたくしは、お忍びで平民が好むといわれている商店街へと、出向く事にいたしましたの。

 そこには、見た事もない物が沢山あり、人々は陽気で活気に満ち溢れておりましたのよ。

 下品にも思われる女性たちの笑い声や、何処かで言い争いをしているであろう殿方の怒鳴り声。
 みすぼらしい姿で、萎れた雑草を売りにくる少女。
 大きな口を開けて、大きなパンを貪りながら歩く、恋人同士…かしら?

 何もかもが下品で、穢らわしく感じましたのよ。
 それと同時に、羨ましくも思ったのですわ。
 この感情が何かわからず、とても戸惑いましたのよ。

 それでも止まる事なく街中を歩いていると、一人の背の高い男に声を掛けられましたの。
 路地裏へと引き摺られて行きそうになりましたが、何故か恐怖心や嫌悪感は抱かなかったのですわ。

 むしろどんな事が起こるのか期待している感情と、すぐに護衛に助けられてしまったと、残念に思う感情を抱いた事に驚きましたのよ。

 毎日同じ事の繰り返しと、肩にのしかかる重圧に耐えられなくなっていたわたくしは、どこか刺激的な出会いを求めていたのかもしれませんわね。

 その日は何事もなく屋敷に戻って来てしまいましたが、あの時の言い知れぬ感情を消し去る事が出来ず、わたくしは何度も外出を重ねる様になりましたのよ。
 あの下品な笑い声を聞くたびに、あの穢らわしい姿を見るたびに、心が歓喜で満たされてゆくのですわ。

 そんなある日、背が高くてとても見目麗しい青年を見つけたのです。
 わたくしは彼に声を掛けて、公爵邸へと連れ帰って来ましたのよ。

 着せ替え人形の様に着飾って、ただ愛でるだけの存在に、両親は顔を顰めながらも黙認しておりましたわ。
 まだ大人になり切れていない幼ないわたくしの、気まぐれで思いついたお遊びだと思っていたのかもしれませんわね。

 それを良い事に、わたくしは外出先で見つけた見目麗しい青年を、屋敷へと連れ帰る様になりましたのよ。
 彼らは、働かずに贅沢な暮らしが出来る事に喜びを感じ、わたくしに嫌われない様にいつも優しく機嫌を取ってきますのよ。

 しかし見目が麗しいだけの青年は、毎日愛でているだけではつまらなくなり、直ぐに飽きてしまいましたの。
 幾ばくかの金銭を渡して解放してさしあげると、口汚く罵っているのに、買い与えた物は全て持ち帰ったのですわ。 

 彼らの醜い言葉遣いが、どうして耳障りの良い響きに聞こえてしまうのでしょうか?
 浅ましい男たちの下卑たさえずりが、わたくしの心を満たしてゆくのです。

 所詮はゴミ屑以下の平民なのだと、わたくしの心は蔑む感情と、愉快と思う感情が混ざり合いましたのよ。
 とても不思議な感覚でしたわ。

 今度は育ちの良い青年を見つけたならば、今以上に心が満たされるのではないかと考え、若い貴族たちが行き交う街へと出かけましたのよ。

 やはり美しい街並みの方が、高貴な生まれであるわたくしに相応しいと、軽やかな足取りでこの国で一番大きな商会である店に入ってみましたの。

 その店の客層は若い女性が殆どで、皆小さな少年を独占しようと、取り囲んでおりましたわ。
 ですがわたくしが声を掛けると、若い女性たちは早々に退散して行きましたのよ。

 当然ですわね。
 この国で、わたくしよりも身分の高い令嬢なんておりませんもの。
 珍しい事では、ありませんわね。

 そして一人取り残された小さな少年を見て、わたくしは、今まで感じた事もないときめきを覚えましたのよ。
 彼はこの店のご子息で、テオドールと名乗りましたわ。
 わたくしよりも、歳がひとつだけ下だったのには驚きましたのよ。
 もっと幼く見えていたのですもの。

 まだ変声期を向かえる前の澄み切った声、自然と向けられる優しい微笑みが、わたくしの心を鷲掴みにして離さなかったのですわ。
 今なら、初恋だったのだと、理解できましてよ。
 
 わたくしだけの物にしたくて、いつもの様に連れて帰ろうとしたのですが、断られてしまいましたのよ。
 何故断られたのか理解出来なかったわたくしは、理由を尋ねたのですわ。

 すると彼は、商人として父親よりも大きな存在になるのが夢なのだと、教えてくれましたのよ。
 その第一歩になる店を預かっているのだと聞かされて、わたくしよりも小さな少年が、立派に生きようとしている姿に感銘を受けたのですわ。

 わたくしは彼を連れて帰る事を諦めたのですが、どうしても忘れる事が出来ませんでしたの。
 そして彼にとっての一番になりたくて、毎日の様に商品を用意させて、屋敷へと呼び出す事にいたしましたのよ。
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