好きになったり、嫌いになったり

鈴蘭

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テオドール様の怒り

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 昼休みの食堂には、各学年の生徒が沢山集まっております。
 公爵邸の茶会で何が起きたのかは、皆が面白おかしく噂をしておりました。
 当然ですが知らない方もいたとは思いますが、ハルジオンの一声で、噂に真実味が出てしまったと思うのです。
 絶望する私を他所に、意外な事にテオドール様がお怒りになったのでした。

 「リーゼが、疵物の筈がないだろう。俺もその茶会に招待されていたんだ!俺は、用事があったからリーゼとは一緒に帰る事が出来なかったが、きちんと公爵邸の門を出るまで見送っていた。ペンタール公爵令嬢の茶会へ招待されたと聞いた時に、ドレスを用意したのもこの俺だ。我が商会の針子たちが、精魂込めて縫い上げた逸品なんだ。お前たちに見せてやれなかったのが残念なくらい、リーゼによく似合っていたんだ」
 テオドール様は、何かに取り憑かれたのかと思う程、物凄い剣幕で捲し立てております。

 「僕は、リーゼが疵物になったなんて、一言も言っていないじゃないか。ペンタール公爵令嬢が考えていそうな事を口にしただけなのに、そんなに怒鳴る事はないだろう」
 「俺が、リーゼの潔白を証明してやる!ペンタール公爵令嬢本人に、茶会であった事を聞けばいいんだろう」
 興奮して言い争う、テオドール様とハルジオンを止めたのは、ラノアでした。

 「いい加減にしてよ、二人共。こんな食堂の真ん中で口喧嘩だなんて、醜聞もいいところだわ」
 「ラノ。こいつが原因で、リーゼが傷付いているのに、黙っていられる訳がないだろう」
 今度はハルジオンとラノアが言い合いを始めた時に、ペンタール公爵令嬢が何食わぬ顔で現れたのです。

 先程テオドール様は、茶会に招待されていて私を見送ってくださったと仰っていましたが、私は彼にはお会いしておりません。
 どういう事なのか混乱していたのですが、これ以上騒ぎを起こしたくはなかったので、何も言わずに黙っておりました。
 そんな私にゆっくりと近付いて来たペンタール公爵令嬢は、澄ました顔で話掛けてきたのです。

 「皆様ごきげんよう、随分と騒がしいのですね。公衆の場なのですから、もう少し静かになさっても宜しいのではなくって? フェナジン男爵令息、随分と探しましたのよ。ランチの約束を、忘れたのかしら」

 上品な仕草の立ち居振る舞いは、とても茶会の時と同一人物とは思えません。
 戸惑う私をよそにテオドール様は、昨日のお茶会の席で私が男妾と遊んでいたかどうかを、直接ペンタール公爵令嬢に問い質したのでした。

 「昨日がお茶会に伺った際、リーゼが複数の男妾と親密な遊びをしたと学園中の噂になっています。リーゼは、茶会の席に呼ばれただけなのに、何故そんなデマが流れたのでしょうか。何かご存じではありませんか」
 「あら。火のない所に煙は立たないのよ。このような大勢の前で真実を話したら、リーゼリアの将来に疵が付いてしまいますわ」

 誤解を招く様なもの言いに、声を張り上げ否定しようとしたラノアとハルジオンを止めるので精一杯だった私は、次のテオドール様の怒気を含んだ言葉に驚いたのです。

 「構いません。ペンタール公爵家のご令嬢として、この場ではっきりと申し上げてください。俺が知る真実と、貴方が見た事実を、照らし合わせたいのです」
 「分かったわ、そんなに怖い顔をしないでちょうだい。ちょっとした遊び心で、語っただけなのよ。悪気はなかったの、きちんと真実を話すわね。昨日の茶会に、わたくしは少し遅れてしまったの。その間に何があったのかは、分からないわ。ただサロンには、わたくしが招いていたお友達男妾も数人いて、リーゼリアをとても気に入っていた。ただそれだけよ」

 「それだけ…ですか?随分と、思わせ振りな言い回しをされるのですね。それでは、リーゼが男妾遊びを楽しんだと勘違いされても、仕方がないという事になります。俺が知る事実とは、かなり齟齬がありますね。そもそも公爵邸の茶会に、何故男妾がいるのですか?俺の招待状には、男妾と遊ぶ会とは記載されておりませんでしたし、男娼の姿も見てはいません。嘘偽りなく、きちんと説明をしてください」
 「説明をして欲しいと言われても、これ以上は、わたくしの口からは言えないわ」
 
 ペンタール公爵令嬢は、私が好奇の目に晒されているのが楽しくて仕方がないご様子です。
 どうしても男妾遊びをした事にしたいのでしょうが、テオドール様がそれを許さなかったのでした。

 「何も言えないという事は、リーゼを貶める為に、公女様が虚偽の噂を態と流したという事になりますね。お茶会に呼ばれたのは、俺とリーゼの二人だけですから、他に誰がいたかを知っている者はこの学園にはいませんから。リーゼを疵物扱いして、破滅させようと企てて、何が楽しいのですか?悪意を向けてくる相手との取引を、俺はしたくありません。今回の事は、父親でもある商会長に報告致しますので、今後一切ペンタール公爵家との取引は行わない様に致します」

 一気に捲し立てたテオドール様の言葉に、私は、驚きのあまり息をするのも忘れてしまいそうでした。
 
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