【完結】すり替えられた公爵令嬢

鈴蘭

文字の大きさ
35 / 95

公爵邸の三階

しおりを挟む
 マルゲリーターはルーカスが三階に上がると聞いたので、先に自分の部屋を綺麗に改装して欲しいと激怒しており、今日も懲りずにシルベスの元へやって来たのだ。
 「お父様。早く私の部屋の改装をして欲しいと、何度言えば分かってくれるの。鏡台は割れたままで、姿見も無いのよ。花瓶も無いから、花を活ける事も出来なくて、殺風景なんだから。こんなの、私の部屋じゃないわ」
 「物に八つ当たりをするから悪いのだろう。どうせ買い与えても、数日で瓦礫になるのだから、今のままで充分だ。もう、お前たちの為に物を買い揃える事は無いと、ルーカスにも言われただろう」
 「そんなの、酷いじゃない。私がどんなに不便な思いをしているか、部屋を見ていたら分かるでしょう。凄く可哀想なんだから。絨毯だって汚れたままだし、侍女だっていないから、いちいち命令するのに呼びに行かないといけないのよ。おかしいでしょう」
 何度目になるか分からない問答に、公爵は辟易としていた。
 「勝手に侍女へ暇を言い渡すから、誰もお前の世話をする者がいなくなってしまったのだろう。ルーカスが何度も注意をしたのに、言う事を聞かなかったお前の自業自得ではないのか」
 「違うわよ。私の命令を、ちゃんと聞けない侍女が能無しだから、悪いのでしょう。そんなの、クビにされて当然じゃない。早く新しい侍女を雇うのが、お父様の仕事でしょう」
 あれ程溺愛していたと言うのに、何度言っても理解しない娘との会話は、シルベスにとって苦痛で仕方がなかった。
 ルーカスからもアルフレッドからも苦言を晒されていたのに、きちんとした教育を施さなかったシルベスも自業自得なのだと言う事に、彼は気付いていない。
 「成績が上がったら、考えても良い。一般教養科に籍を置いている間は、改装する気は無い。新しくお前の世話をしたいと言う侍女も、見つからない。分かったら、もう下がりなさい」
 「そんな事、私に言っても無駄でしょう、理事長が意地悪をしているんだから。お父様がちゃんと言ってくれないから、何時まで経っても私は下賤な平民と同じクラスにいないといけないんじゃない。それに、侍女のお給金を上げれば、いくらでも人は集まるでしょう。そんな簡単な事も、お父様は理解出来ないの」
 「五月蠅い!黙れ!いい加減にしろ!」
 「ヒッ」
 蝶よ花よと育てられたマルゲリーターは、学園に入ってから両親の仲が悪くなり、父親からもよく怒鳴られるようになった事へ不満を募らせていた。
 「何よ!直ぐ怒鳴るなんて、父親失格だわ。一般教養科に入れられたのは、私の所為じゃないのに!お金も出してくれないお父様なんて、大嫌いよ!」

 顔を真っ赤にして怒鳴るシルベスに驚きながらも、捨て台詞だけはしっかりと言い、マルゲリーターは自室へと戻って来た。
 しかし、癇癪を起したマルゲリーターが八つ当たり出来る物は綿布団しかない為、更に不満を募らせていくのである。
 
 そしてルーカスの部屋はどうなったのかと思い、興味本位で三階へ足を踏み入れると、見た事も無い美術品や豪華な調度品が並んでいた。
 「何度も三階には来ていたのに、こんなに素敵な家具なんてあったかな?」
 美術品に興味が無いマルゲリーターでも、一目で高額だと分かったのだ。
 そして自分の住んでいる屋敷がこれ程豪華だと知って、自慢する為に今度は三階でパーティーを開こうとも思うのだった。
 そうして気分よく歩いていると、二階にはいない護衛まで立っている事に気が付いた。
 「へ~護衛がいるって事は、三階にある家具が高価だって事だよね」
 誰に話しかけるでもない独り言なのだが、護衛たちは『案外鋭いな』と、思うのであった。
 マルゲリーターは、自分に相応しい素敵な部屋があるかもしれないと思い、日当たりの良さそうな部屋から物色する事にした。
 目星を付けた部屋の扉は開け放たれており、入り口の前に立ち室内を覗いて、思わず奇声をあげてしまったのだ。
 「ウッキャー!!!何よここは、素敵過ぎるわ!」
 部屋を掃除していたメイドたちが驚いて振り向いた事も気にせずに、マルゲリーターは大きな口を開けたまま、部屋に見惚れて立っていた。
 中は白と薄いピンクで統一されており、年頃の女の子ならば誰でも憧れる部屋だった。
 レースが惜しみなく使われているカーテンも、毛足が長く美しい模様の絨毯も、統一されている調度品も全てがマルゲリーターの好みだったのである。
 今までも高級な調度品に囲まれてはいたのだが、この部屋にある物は別格で、癇癪を起して壊す事は絶対にしないと誓うのであった。
 「うわぁ。見れば見る程、素敵なお部屋だわ。お兄様ったら、何時改築したのかしら?出来上がっていたのなら、直ぐに声をかけてくれたら良かったのに。そうだわ、待つ必要なんて無いじゃない。今から、この部屋を使えばいいのよ、だって私のなんだから。ちょっとそこのあんた、お茶にするから、お菓子を持って来なさい」
 部屋の掃除をする為に鍵を開けて、忙しなく出入りしていたメイドたちは、突然の事に驚きを隠せずにいた。
 マルゲリーターが部屋へ踏み入ろうとしたその瞬間、後ろから誰かに襟首を掴まれて引き摺り出されたのである。
 「お前の部屋は、下にあるだろう。勝手に上がって来るな。ここは、お前の為に用意した部屋ではない。出て行け!」
 鬼の様な形相で、見下ろして来るルーカスの怒気に充てられたマルゲリーターは、恐怖のあまり動けなくなってしまった。
 「チッ」
 ルーカスは舌打ちをすると、近くに控えていた護衛に声を掛けた。
 「コレを、二階に放り投げて来い。二度と上階へ来ない様、全ての階段に見張りを付けろ」
 「御意」
 「忌々しい、何処までも僕の神経を逆なでして来る。本当に目障りだな」
 護衛はマルゲリーターを荷物の様に担ぎ上げると、二階に降りて来て部屋の前に優しく置いて戻って行った。
しおりを挟む
感想 366

あなたにおすすめの小説

婚姻無効になったので新しい人生始めます

Na20
恋愛
旧題:婚姻無効になったので新しい人生始めます~前世の記憶を思い出して家を出たら、愛も仕事も手に入れて幸せになりました~ セレーナは嫁いで三年が経ってもいまだに旦那様と使用人達に受け入れられないでいた。 そんな時頭をぶつけたことで前世の記憶を思い出し、家を出ていくことを決意する。 「…そうだ、この結婚はなかったことにしよう」 2025年10月24日(金) レジーナブックス様より発売決定!

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。

ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。 ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。 対面した婚約者は、 「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」 ……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。 「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」 今の私はあなたを愛していません。 気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。 ☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。 ☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)

三年の想いは小瓶の中に

月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。 ※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

「君は完璧だから、放っておいても大丈夫」と笑った夫。~王宮から私が去ったあと「愛していた」と泣きついても、もう手遅れです~

水上
恋愛
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫だ」 夫である王太子はそう笑い、泣き真似が得意な見習い令嬢ばかりを優先した。 王太子妃セシリアは、怒り狂うこともなく、静かに心を閉ざす。 「左様でございますか」 彼女は夫への期待というノイズを遮断し、離縁の準備を始めた。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ】悪妃は余暇を楽しむ

ごろごろみかん。
恋愛
「こちら、離縁届です。私と、離縁してくださいませ、陛下」 ある日、悪妃と名高いクレメンティーナが夫に渡したのは、離縁届だった。彼女はにっこりと笑って言う。 「先日、あなた方の真実の愛を拝見させていただきまして……有難いことに目が覚めましたわ。ですので、王妃、やめさせていただこうかと」 何せ、あれだけ見せつけてくれたのである。ショックついでに前世の記憶を取り戻して、千年の恋も瞬間冷凍された。 都合のいい女は本日で卒業。 今後は、余暇を楽しむとしましょう。 吹っ切れた悪妃は身辺整理を終えると早々に城を出て行ってしまった。

処理中です...