【完結】すり替えられた公爵令嬢

鈴蘭

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化石採掘

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 国王生誕祭から暫く経ち、アルフレッドとマルゲリーターの婚約が破棄された事は、人々の中からすっかり忘れ去られていた。
 未だに次の婚約者の発表がされていない事から、エレインに何か問題があって、違う令嬢を探しているのではないかとの憶測が飛んでいる。
 その為、婚約者のいない令嬢は勿論だが、態々婚約を白紙にしてまでアルフレッドに気に入られようとする者まで現れた。
 「いや、参ったね。学園内を、自由に歩き回れなくなってしまったよ」
 「さっさとエリーを、次の婚約者に据えないから悪いのではないか」
 「流石にそれは出来ないよ。議会で何を話しているのかは、学生の身である私には分からない。エレイン嬢に求婚したところで、婚約出来るとは限らないのだからね」
 「エリーより、相応しい身分の妃候補でもいるのか」
 「いない事を願っているのだが、陛下は何も話してはくれないからね」
 この二人は知らないのだ、キャサリンが国王へ出した手紙の中に、こんな一文があった事を…
 『子供たちがお慕いした方と、添い遂げる事が出来るのならば、私はどんな援助も惜しみません』
 つまり、国王夫妻はエレインをアルフレッドの妃に迎えたいと思っているのだが、肝心のエレインの気持ちが何処にあるのかが分からないのである。
 キャサリンがこの様な一文を入れた真意は定かではないが、理不尽な婚約を防ぐ為の物だと思われていた。
 アルフレッドとの婚姻は誰しもが望む事ではあるのだが、万が一エレインに慕っている令息がいた場合、キャサリンとの約束を違えてしまう事になる。
 ここはアルフレッドに頑張って貰うしかないのだが、マルゲリーターとの婚約中に心移りしてしまった事に罪悪感を持っていたので、自ら自制期間を設けているのである。
 周りで見ている者たちは、何とももどかしい思いをしていたのだ。
 
 そんな彼らの悩みなど素知らぬ顔で、エレインは化石の研究に没頭していた。
 アルフレッドがご令嬢たちに囲まれる様になってから、ルーカスが傍を離れる事が出来なくなってしまったのだ。
 化石研究クラブに入り、パトリシアを誘って暇さえあれば研究室に籠っていた。
 「オルターナ嬢、アンバタサー嬢。根を詰めすぎるのは良く無いぞ。お茶でも飲んで、少し休憩をしよう」
 「はい、理事長。化石がこんなに興味深い物だとは、知りませんでしたわ。エレイン様からお誘い頂かなければ、勿体無い時間を過ごす事になりました。クラブに入会させて頂き、感謝致します」
 「もっと化石好きの研究員がいるのだがね、彼等は今、令嬢たちに囲まれて籠城中なのだよ」
 「私はアルフレッド殿下の婚約者には、エレイン様が選ばれると思っておりましたのに、陛下は何故公表されないのでしょうか」
 「私では、アルフレッド殿下に相応しくはないのです。他国の姫君との縁談を、お考えになっておられるのではないでしょうか」
 「何故そう思うのかね。オルターナ嬢は、アルフレッドを嫌っている様には見えないのだが、未来の王妃と言う肩書が嫌なのかね」
 「王妃陛下の様な、素敵な女性になりたいとは思っておりますが…私が王妃になるのは、恐れ多い事でございます」
 「あら。帝国の皇女様が恐れ多いのならば、今アルフレッド殿下の周りに群がっているご令嬢たちは、さぞご身分の高い方ばかりになってしまいますわ」
 「アンバタサー嬢の言う通りなんだがね。私の見解では、あの中にアルフレッドを攻略出来る令嬢は、一人もいないのだよ。残念な事に…」
 理事長は、困ったものだと、溜息を零していた。
 「私、応援致しますわ、エレイン様。アルフレッド殿下は、高嶺の花だと言う事を、ご令嬢たちに教えてさしあげましょう」
 「パトリシア様。言っている意味が理解出来ないのですけれど、何を応援されるのでしょう。そもそもアルフレッド殿下は、もとより特別な存在ですもの、今更それを説いたところで何の意味があるのですか」
 エレインはアルフレッドに好意は抱いているが、孤児院出身の自分が王妃に相応しいとは思えないのであった。
 野心を抱いていたのならば、パトリシアの言っている意味を理解出来たのだろうが、残念ながら控えめ過ぎるのだ。
 「私、エレイン様のそんなところも、魅力的だと思っておりますわ」
 パトリシアの、屈託のない笑みが、余計にエレインを困惑させていた。

 「そうだった。化石研究クラブの活動で、化石の採掘に行こうと思っていたのだがね、君たちも来るかね。ご令嬢には不向きな場所だから、無理に誘う事はしないから、安心して断ってくれて構わないのだよ」
 「理事長。来るなと言われても、行きますわよ!乗馬も得意ですもの、馬車が無くても問題ありませんわ」
 「パトリシア様は、乗馬もお好きなのですか」
 「勿論よ。剣術も嗜んでおりますの。刺繍やレース編みよりも、身体を動かしている方が好きなのです」
 「羨ましいですわ。私運動は苦手なので、馬車を出せないのなら、残念ですがお留守番致しますわ」
 「そうか、ならば二人は参加希望なのだね。心配はいらないよ、近くまで馬車を出せる。その後は少し歩く事になるので、ヒールの無い歩きやすい靴で来なさい」


 週末は、化石採掘をする事になり、ルーカスとアルフレッドも参加していた。
 クラブ会員で採掘作業が初めてなのは、エレインとパトリシアだけだったので、二人は理事長に付いて歩く事になった。
 「ところで、我が愛しの甥よ、何故付いて来るのかね。君たちは好きに採掘して来て良いのだぞ」
 「私はルーカスの行く所に付いて来ているだけであって、叔父上に付いて来ている訳ではありませんよ」
 理事長は、ルーカスの思惑を理解したので、苦笑いを浮かべていた。
 「エリーは僕の大切な妹ですから、世話をするのは兄として当然の事です」
 ルーカスは少しでもアルフレッドとエレインの距離を縮めようとしたのだが、エレインは初めて見る採掘場に興味津々である。
 初心者向けの場所で採掘の仕方を教わり、エレインは夢中になって化石を掘り出していた。
 アルフレッドはルーカスに付いて来たと言いながら、しっかりとエレインの隣を陣取って、採掘を手伝っている。
 「エレイン嬢は筋がいいね。初心者は力加減が分からなくてね、化石を傷付けてしまったり、壊してしまう者が多いのだよ」
 「褒められると嬉しいですわ、殿下。こんなに貴重な資料を壊してしまっては、大変な事ですもの、慎重に扱わないといけませんわね。何が出て来るのか、とても楽しみなのです」
 「そうだね。今の段階では何が出て来るのかは想像も付かないけれど、掘り進めて行くと少しずづ形が見えて来るからね、そうなるともっと楽しくなるのだよ」
 「殿下は、今までどの様な化石を掘り出したのですか」
 「一般的な物も多いけれどね、形が綺麗に残っている魚の化石を見つけた時は、とても興奮したよ。後は、よく分からない骨の様な化石だね。まだ全貌は見えていないのだけれど、私が寿命を迎えるまでには、全ての部位を見つけたいと思っている」
 「見つけた化石は、何処にあるのですか。見てみたいですわ」
 「それは内緒。発見された物は全て形を写し取って、大切に保管されているから、見せる事は出来ないかな」
 「保管されているだけで、誰の目にも留まらないのですね。残念ですわ」
 とても悲しそうな顔で、採掘の手が止まってしまったエレインを、アルフレッドは慰めようとある提案をした。
 「エレイン嬢ならば、保管してある化石を見せてくれると思うよ。叔父上に相談してみよう」
 「殿下」
 「なんだい」
 「絵画や彫刻等を展示する場所はありますのに、化石を展示する場所が無いのは、可笑しくありませんか。どちらも値が付けられない、高価な物に変わりはありませんのに…もっと多くの方の目に、触れさせてはいけない理由があるのでしょうか」
 このエレインの素朴な疑問は、アルフレッドにとって衝撃的な言葉であった。
 確かに美術品は展示されているが、化石は発掘された後は保管庫に入れられてしまうので、人目に付く事が無かったのである。
 発見された全ての化石は、形を紙に写し取り記録されるだけで終わってしまうのが、常識と考えられている。
 小さな化石等は持ち歩く事は可能だが、態々ショウケースに入れて展示しようと思う者はいなかったのだ。
 「発見された化石の骨格が、組み立てられた姿を見る事が出来たら宜しいのに、本当に残念ですわ」
 エレインの希望が、言葉になって口から漏れていた。
 アルフレッドは、珍しく興奮しており、無意識でエレインの両手を握りしめていたのだ。
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