星紡ぎのファンタジア

夕凪

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神社と陰陽師

One day

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「あなたは、異世界に転移できるとしたら、それを望みますか?」
 突然の問いだった。
 昼下がりの神社の境内に、まるで陽炎のようにどこからか現れた彼は、遥香にそんなことを問いかけてきた。不思議だとか怖いだとか思うより早く、つむぎはうなずいていた。
 異世界転移。書店でよく見かけるキャッチフレーズだ。ほとんどの場合、主人公は強い能力を得て、スローライフを楽しんだり、異世界の敵を相手に無双したりするらしい。クラスの子たちが盛り上がっていたのを覚えている。
 異世界に行ってみたいと、そのとき強く思った。別に、スローライフを楽しみたいわけでも、無双したいわけでもない。ただ、ここではないどこかに行きたかった。自分を受け入れてくれる、どこかに。
「…そうですか。本当に、転移したいですか?あなたたちが期待しているような、ちーと能力なんかはありませんよ」
 どこか否定したそうに、もう一度彼、平安時代風の衣服に身を包んだ男は、たずねてきた。もう一度、肯定の意思を強く表す。諦めたように、男はうなずいた。
「わかりました。では、どうぞ」
 急に意識がふわふわとしてきた。段々と遠ざかっていく周りの景色を見ながら、晴れ晴れとした解放感を覚える。
 これで、何もかもにさよならできる。

 目が覚めたのは、森の中だった。つむぎはゆっくりと起き上がった。さんさんと日が木々の間から差してくるのに、どこか神秘的な雰囲気があるのは、青い茸や不思議な色の花々がそこら中にあるからだろう。直感的に、ここは別の世界だとわかった。
 しばらく思いのままの方向に歩いてみる。なんだか楽しくなってきて、つむぎは歩みを早めた。ここには自分を拒むものは何もない。それだけでもとても嬉しかった。

「何でこんなことを命じたんですか?」
「何が?」
 空夜は微かないらだちを覚えながら、もう一度たずねた。
「任意だとは言え、あんなに豊かな場所から、何もないあの世界に飛ばせなんて。しかも、何の能力も情報も与えないままなんて、ひどいんじゃないですか?」
「翻訳機能とちょっとした魔法を授けてやっただけでもありがたい方だと思うけどね」
    は寝そべって本を読みながら、肩をすくめた。
「それに、あの子にとって元の世界は、恵まれてはいても楽しくはなかったと思うよ。両親の離婚、育児放棄、その他諸々」
「じゃあ、あなたが解決すれば良かったじゃないですか。世界全てを管理してるんでしょう?」
 空夜の言葉が終わるのを待ってから、   は本を彼に投げた。反射的に受け取ってしまい、空夜は苦い顔になった。
「ちょうどいい機会だし、君に教えておこうか。ボクの仕事は、この幻想世界たちを管理することだけじゃない。物語を創り出すのも職務の一つなんだよ。つまり、主人公を苦しめたり悩ませたりするのが仕事。わかったら、おとなしく手伝ってくれ。ボクは忙しいんだ」
「忙しいようには見えませんがね」
 空夜は本を本棚に転送しながら、ため息をついた。
「あなたにそんな仕事があったなんて初めて聞きました。何のためにそんなことをするんです?」
「そりゃ、読者、これを見てる人々のためだよ。彼らの刹那の楽しみのために、ボクは頑張って世界を維持したり、物語の基盤を創ったりする。あとは、主人公を徹底的に苦しめる、以上。納得したかい?」
「まだ納得できません。なぜ、読者たちは人が苦しんでいる姿を見て楽しむんですか?」
    は、やれやれと首を振った。
「それが物語だとわかっているからだよ。フィクションの世界の人物なら、そいつがどんな目にあっても、さほど心は動かない。一時は泣いたり怒ったりするかもしれないけど、それで終わりだ。所詮は自分たちとは違う、紙の上、いや、ここだったら画面上の文字か。とにかくそこから現れた、ただの幻影だからね」
 空夜は唇を噛み締めた。何を言っても伝わりそうにない。
「わかりました。あなたに頼っても無駄のようなら、勝手にやらせてもらいます」
「ぜひどうぞ。この物語が面白くなるなら、ボクも願ったり叶ったりだよ。でも、直接干渉するのは禁止ね。あと、世界のバランスを崩したり、話の進行を妨げたり、助けすぎたりするのも。あ、割とあるね。まぁ、頑張って」
 そう言いながら、   は立ち上がった。
「どこか行くんですか?」
「ちょっとね。先行きが気になる面白そうな世界があるんだよ。少年少女たちが頑張って、いじわるな家の罠を出し抜こうとしてるところなんだよ。一緒に来るかい?」
「遠慮しておきます。あなたがいじめ抜こうとしている子を助けないといけないので」
「そうかい。健闘を祈るよ」
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