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闇路の星
Your first friend
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お腹が空いた。つむぎは木に寄りかかってため息をついた。かれこれもう半日以上は森を彷徨っていると思う。木の実や茸は何個も見かけたが、見たこともないものばかりで食べて良いものかわからない。毒でもあったら大変だ。しかし、このままでは飢え死にしてしまう。一か八かで口に入れてみようか。
そんなことを思っていると、ひょこっと木陰から何かが現れた。こっちにやってくる。人だろうか。つむぎは顔を上げた。気がつくと、目の前にはかごを抱えている、鬱金色の髪を束ねた少女がいた。つぎはぎが目立つワンピースのひだを翻しながら、彼女は首を傾げた。
「あなた、誰?ずいぶん不思議な格好してるわね」
自分よりも年上そうに見えるその少女は、物珍しそうにつむぎを見た。人と会えたのが嬉しくて、つむぎは思わず顔をほころばせた。
「つむぎって言います。あなたは?」
「カサブランカよ。よろしくね」
少女はにっこりと笑った。
「私、山菜とか薬草を採りに来たの。ツムギも一緒に採らない?わからなかったら教えてあげる」
つむぎは大きくうなずいた。初めて会ったのにも関わらず、すぐに自分を受け入れてくれているのが嬉しかった。元の世界にいたクラスメイトたちとは全然違う。
「お願いします!」
カサブランカは、もう一度にっこりと笑った。満開の花のような笑顔だった。つむぎは立ち上がって、カサブランカについていった。
彼女に逐一教えてもらいながら、つむぎは山菜採りや薬草採取を手伝った。最初はどれも同じように見えるばかりだったが、一つ見えてくるとこれまでわからなかったのが不思議なくらい、群生している植物たちを発見できるようになった。
「この花は何て言うんですか?」
つむぎはふと、脇に咲いていた花の名が気になってたずねた。特別目立っているわけではないが、その白い花弁と香りには、なんだか惹きつけられる。どれどれと、カサブランカはそれを覗き込んだ。
「あぁ、〈幻香草〉よ。綺麗よね。大陸のだいたいどこにでも咲くのよ。その上どの部位も利用できるから、みんなに重宝されてるの。別名は神郷からの恵み」
歌うようにカサブランカは説明してくれた。つむぎはなるほどと、〈幻香草〉をもう一度見つめ直した。そう説明されると、不思議と突然神聖なもののように思えてくる。
「〈幻香草〉、見たことない?」
不思議そうにカサブランカが首を傾げる。つむぎは素直にうなずいた。こんな花を見るのは初めてだ。元の世界にもなかったように思う。
「あなた、本当にどこから来たの?」
別世界と言いそうになって、つむぎはこらえた。今彼女に説明しても、わかってもらえないに違いない。でも、他にどう説明したら良いのか思いつかない。つむぎは必死の思考の末に答えた。
「えっと、秘密です」
カサブランカは納得できないというように唇を尖らせた。
「何だ、つまんない。武勇伝でも聞かせてもらおうと思ったのに。身寄りとかはあるの?」
その問いから、戻る場所がないことに今気がついて、少しはっとする。しかし、戻りたいとも思わない場所だ。つむぎはしばらく考えてから、首を振った。
「ないです」
「じゃあ、私と一緒に来ない?この先に街があるの。あなたが住めるような場所もあるわ。そうしたら、一緒にまたここに来られる。私、ツムギみたいな友達ができたのなんて初めてなの」
つむぎは喜び勇んでうなずいた。願ったり叶ったりだ。生まれて初めてできた友達と、もっと一緒に遊ぶことができるかもしれないということにもわくわくする。
「なら決まりね。ついてきて」
嬉しそうにカサブランカは道なき道を歩きだした。慣れた様子で進んでいく彼女を追いながら、つむぎはたずねた。
「あの、今向かってる街ってどういう名前なんですか?」
「ブルーム。花がたくさん咲いている街よ。アルクスの中でもとびきり美しい街らしいわ。他の場所に行ったことはないからわからないけれど」
つむぎはわからない単語が出てきて首を傾げた。怪しまれてしまうかもしれないが、世界の様子を知りたいのもあって、つむぎはおそるおそるたずねた。
「あの、アルクスって?地名ですか?」
「え?知らないの?この国の名前よ」
心底驚いたといったようにカサブランカが声を裏返らせた。つむぎはなんだか恥ずかしくなってきて、俯いた。確かに、自分のいる国の名前を知らないというのは、いくらなんでもおかしすぎる。日本にいて、日本語を話しているのに、日本という名前を知らないというようなことだろう。
あれ?つむぎはここまで考えて不思議に思った。なぜ、自分は異世界の言葉を喋ることができるのだろうか。翻訳機能でもついているのだろうか。まぁ良い。つむぎはさらに驚かれるのを承知で、もっとたずねた。
「もう一ついいですか?さっき、大陸って言ってましたけど、他にも国があるんですか?」
「あるに決まってるじゃない。もしかして、これも知らない?」
さらに驚愕したようにカサブランカがたずねた。ゆっくりとつむぎはうなずいた。
「あなた、どこで育ったの?生まれは?」
つむぎは曖昧に笑ってお茶を濁した。カサブランカはやれやれと天を仰いでから話しだした。
「この大陸にはね、七つの国があるの。アルクス王国、ロスカ王国、サウラ王国、マナ王国、ヴィント王国、ベルデ王国、メーア王国。あと一つ、オーディン海を少し超えたところに国があるらしいんだけど、その王国では昔、厄災退治?詳しいことは知らないけど、何かあったみたいで、滅亡してるわ。それにしても、本当にあなた、不思議ね」
しみじみとカサブランカがつけ加える。つむぎはうなずく動作と首を振る動作を混ぜて、その場を誤魔化した。そして、慌てて話を逸らす。ちょうど良い話題が見つかった。
「あれが、ブルームの街ですか?」
段々と見えてきた城壁を指さして、つむぎはたずねた。はっとしたように、カサブランカはうなずいた。
「そうよ。さ、早く行きましょう」
そんなことを思っていると、ひょこっと木陰から何かが現れた。こっちにやってくる。人だろうか。つむぎは顔を上げた。気がつくと、目の前にはかごを抱えている、鬱金色の髪を束ねた少女がいた。つぎはぎが目立つワンピースのひだを翻しながら、彼女は首を傾げた。
「あなた、誰?ずいぶん不思議な格好してるわね」
自分よりも年上そうに見えるその少女は、物珍しそうにつむぎを見た。人と会えたのが嬉しくて、つむぎは思わず顔をほころばせた。
「つむぎって言います。あなたは?」
「カサブランカよ。よろしくね」
少女はにっこりと笑った。
「私、山菜とか薬草を採りに来たの。ツムギも一緒に採らない?わからなかったら教えてあげる」
つむぎは大きくうなずいた。初めて会ったのにも関わらず、すぐに自分を受け入れてくれているのが嬉しかった。元の世界にいたクラスメイトたちとは全然違う。
「お願いします!」
カサブランカは、もう一度にっこりと笑った。満開の花のような笑顔だった。つむぎは立ち上がって、カサブランカについていった。
彼女に逐一教えてもらいながら、つむぎは山菜採りや薬草採取を手伝った。最初はどれも同じように見えるばかりだったが、一つ見えてくるとこれまでわからなかったのが不思議なくらい、群生している植物たちを発見できるようになった。
「この花は何て言うんですか?」
つむぎはふと、脇に咲いていた花の名が気になってたずねた。特別目立っているわけではないが、その白い花弁と香りには、なんだか惹きつけられる。どれどれと、カサブランカはそれを覗き込んだ。
「あぁ、〈幻香草〉よ。綺麗よね。大陸のだいたいどこにでも咲くのよ。その上どの部位も利用できるから、みんなに重宝されてるの。別名は神郷からの恵み」
歌うようにカサブランカは説明してくれた。つむぎはなるほどと、〈幻香草〉をもう一度見つめ直した。そう説明されると、不思議と突然神聖なもののように思えてくる。
「〈幻香草〉、見たことない?」
不思議そうにカサブランカが首を傾げる。つむぎは素直にうなずいた。こんな花を見るのは初めてだ。元の世界にもなかったように思う。
「あなた、本当にどこから来たの?」
別世界と言いそうになって、つむぎはこらえた。今彼女に説明しても、わかってもらえないに違いない。でも、他にどう説明したら良いのか思いつかない。つむぎは必死の思考の末に答えた。
「えっと、秘密です」
カサブランカは納得できないというように唇を尖らせた。
「何だ、つまんない。武勇伝でも聞かせてもらおうと思ったのに。身寄りとかはあるの?」
その問いから、戻る場所がないことに今気がついて、少しはっとする。しかし、戻りたいとも思わない場所だ。つむぎはしばらく考えてから、首を振った。
「ないです」
「じゃあ、私と一緒に来ない?この先に街があるの。あなたが住めるような場所もあるわ。そうしたら、一緒にまたここに来られる。私、ツムギみたいな友達ができたのなんて初めてなの」
つむぎは喜び勇んでうなずいた。願ったり叶ったりだ。生まれて初めてできた友達と、もっと一緒に遊ぶことができるかもしれないということにもわくわくする。
「なら決まりね。ついてきて」
嬉しそうにカサブランカは道なき道を歩きだした。慣れた様子で進んでいく彼女を追いながら、つむぎはたずねた。
「あの、今向かってる街ってどういう名前なんですか?」
「ブルーム。花がたくさん咲いている街よ。アルクスの中でもとびきり美しい街らしいわ。他の場所に行ったことはないからわからないけれど」
つむぎはわからない単語が出てきて首を傾げた。怪しまれてしまうかもしれないが、世界の様子を知りたいのもあって、つむぎはおそるおそるたずねた。
「あの、アルクスって?地名ですか?」
「え?知らないの?この国の名前よ」
心底驚いたといったようにカサブランカが声を裏返らせた。つむぎはなんだか恥ずかしくなってきて、俯いた。確かに、自分のいる国の名前を知らないというのは、いくらなんでもおかしすぎる。日本にいて、日本語を話しているのに、日本という名前を知らないというようなことだろう。
あれ?つむぎはここまで考えて不思議に思った。なぜ、自分は異世界の言葉を喋ることができるのだろうか。翻訳機能でもついているのだろうか。まぁ良い。つむぎはさらに驚かれるのを承知で、もっとたずねた。
「もう一ついいですか?さっき、大陸って言ってましたけど、他にも国があるんですか?」
「あるに決まってるじゃない。もしかして、これも知らない?」
さらに驚愕したようにカサブランカがたずねた。ゆっくりとつむぎはうなずいた。
「あなた、どこで育ったの?生まれは?」
つむぎは曖昧に笑ってお茶を濁した。カサブランカはやれやれと天を仰いでから話しだした。
「この大陸にはね、七つの国があるの。アルクス王国、ロスカ王国、サウラ王国、マナ王国、ヴィント王国、ベルデ王国、メーア王国。あと一つ、オーディン海を少し超えたところに国があるらしいんだけど、その王国では昔、厄災退治?詳しいことは知らないけど、何かあったみたいで、滅亡してるわ。それにしても、本当にあなた、不思議ね」
しみじみとカサブランカがつけ加える。つむぎはうなずく動作と首を振る動作を混ぜて、その場を誤魔化した。そして、慌てて話を逸らす。ちょうど良い話題が見つかった。
「あれが、ブルームの街ですか?」
段々と見えてきた城壁を指さして、つむぎはたずねた。はっとしたように、カサブランカはうなずいた。
「そうよ。さ、早く行きましょう」
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