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闇路の星
Talk about old days
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「…お腹空いた」
〔うーん。次の宿屋まではかなりあるからねぇ〕
つむぎはため息をついた。早めの昼食としてラズベリーのような果実(リルによれば〈紅甘実〉)と泉の水を飲んだばかりだったけれど、やはり木の実だけでは腹が持たない。焼けるような空腹感が強まるだけだ。冷え切ったおにぎりでもいいから、何か食べたい。
〔にしても、なんだかおかしいね〕
リルがぽつりとこぼした。主語が気になるのもそうだが、空腹感を紛らわしたいのもあって、つむぎはたずねた。
「何が?」
〔魔物のことだよ。いくらここが辺境だとは言え、街道沿いに〈毒眼蛇〉レベルの魔物が出るのはおかしい〕
「そんなに危ないものだったの?」
なんだか恐ろしくなってきて、つむぎは慌ててたずねた。この世界には、あんな魔物がたくさん跋扈しているのかと考えると、また背筋が寒くなってしまう。
〔搦手を使わずに真っ向から挑んだら、かなりの強敵だよ。やっぱり、フェリクールたちのこともあるし、国に危機が迫ってきてるって考えた方がいいかもね。魔物ってのは、人間よりも遥かに人死にの匂いに敏感なんだ〕
「…本当に、フェリクールさんを止められるのかな」
不穏なリルの言葉に、つむぎは俯いた。魔物一体を倒すのにも精一杯な自分に、彼を止めることができるのだろうか。少なくとも、今の自分にできるとは思えない。もっと強くならないとダメだ。そもそも、フェリクールとはどういう人だったのだろうか。なぜ、大陸を支配しようとしているのだろう。なぜ、リルはそのことを知っているのだろうか。
〔疑問が多いみたいだね〕
「うん。何も知らないままなのは嫌だ。リルが嘘をついているとは思わないけど、もっと情報が欲しい」
リルは軽く笑い声を上げた。
〔私が嘘をついていないって根拠は?〕
「ない。だけど、なんとなく。それに、嘘でもいいから、この世界で生きる目的が欲しい。だから、協力する」
つむぎは頭の中に散らかっている考えをまとめながら答えた。
〔それはありがたい。じゃあ、君の質問に答えていこうか。まず、フェリクールのことからね。前にも言った通り、魔王討伐、新しい魔法理論の提唱、時空を操る魔法の開発、うんぬんかんぬん成し遂げた人だよ〕
「性格は?」
〔難しい質問だね。見かけは優等生だけど、口は悪い。慇懃無礼って言葉が似合うかな〕
つむぎは首を傾げた。やはり、聞いた限りでは生粋の悪人とは思えない。
「じゃあ、何で大陸を支配しようと?」
〔失望したんだ。いろいろなことにね。他人の苦しみに敏感なのが仇になったんだろうな〕
淡々とリルが答えた。この言いぶりからして、具体的なことを教えてくれる気はないのだろう。でも、なんとなくわかった。これもたぶん、簡単に割り切れることじゃないんだ。
〔それで、大陸を統一しようとしている。手始めに、シュテルン王国を滅ぼした〕
リルが続けた。シュテルン王国。なんだか聞いたことのある響きだ。つむぎは記憶を探った。確か、厄災退治が行われた場所だと、カサブランカが言っていた気がする。
〔そう、それ。まぁ、厄災退治って言葉には語弊があるね〕
「どういうこと?」
つむぎはリルの真意を測りかねた。
〔たいしたことじゃない。ただ、私が気に入らないってだけだよ〕
リルがまた軽く笑った。今度は、少し冷たさや乾きを帯びた声色だった。つむぎはリルの顔が見えないことをもどかしく思った。そうすれば、声だけでなく表情の変化や目の色から、感情を測ることができるのに。
〔とりあえず、今の状況にも繋がるけど、簡単にそこで起きたことについて説明するね。いろいろあって、一国の王都を丸々滅ぼしたフェリクール君は、彼を止めにやってきた、同期のシドニウス君と出会いました。そこで、戦い勃発!結果は引き分け。フェリクールは弱り切って戦闘不能。シドニウスは海に落ちちゃった。それから二百年後、君がやってきたってわけ。わかったかい?〕
つむぎはうなずいた。でも、まだわからないことがある。
「何でそんなことを知ってるの?」
〔それにもぜひ答えたいところだけど、また今度。お客さんが来たよ〕
お客さん?つむぎは警戒しながら周りを見回した。誰もいないし、魔物がいるようでもない。お客さんとは誰のことだ?
〔違う、違う。上だよ〕
「上?」
つむぎは首を真上に動かした。そしてびっくりした。
上空には、空色の毛並みをした獣が浮かんでいた。その背中には、きらりと光る天色の瞳をした男性が乗っていた。思い出した。〈雲海獣〉、リルが教えてくれたあの獣に乗っていた人だ。
「やぁ、お嬢さん」
流れるような動作で彼は〈雲海獣〉から降りた。敵だろうか?つむぎは素早く考えた。わからない。とりあえず、訊いてみよう。話はそれからだ。
「あの、私に何の用ですか?」
「質問したいことがあってね。〈毒眼蛇〉倒したの、君?」
つむぎはゆっくりとうなずいた。どういう意図でたずねられているのかわからないけれど。
「そうか。じゃあ、ちょっと案内してくれないかい?もちろんただでとは言わないよ」
「えっと、あなたはあの鱗とか毒が欲しいんですか?」
リルの言っていたことを思い出しながら、つむぎは聞き返した。男性が鷹揚にうなずく。
「失礼。まだ名乗っていなかったね。僕はエイル。ヴェルデ王国のリフィアベリグから来た、しがない薬学者だよ」
〔うーん。次の宿屋まではかなりあるからねぇ〕
つむぎはため息をついた。早めの昼食としてラズベリーのような果実(リルによれば〈紅甘実〉)と泉の水を飲んだばかりだったけれど、やはり木の実だけでは腹が持たない。焼けるような空腹感が強まるだけだ。冷え切ったおにぎりでもいいから、何か食べたい。
〔にしても、なんだかおかしいね〕
リルがぽつりとこぼした。主語が気になるのもそうだが、空腹感を紛らわしたいのもあって、つむぎはたずねた。
「何が?」
〔魔物のことだよ。いくらここが辺境だとは言え、街道沿いに〈毒眼蛇〉レベルの魔物が出るのはおかしい〕
「そんなに危ないものだったの?」
なんだか恐ろしくなってきて、つむぎは慌ててたずねた。この世界には、あんな魔物がたくさん跋扈しているのかと考えると、また背筋が寒くなってしまう。
〔搦手を使わずに真っ向から挑んだら、かなりの強敵だよ。やっぱり、フェリクールたちのこともあるし、国に危機が迫ってきてるって考えた方がいいかもね。魔物ってのは、人間よりも遥かに人死にの匂いに敏感なんだ〕
「…本当に、フェリクールさんを止められるのかな」
不穏なリルの言葉に、つむぎは俯いた。魔物一体を倒すのにも精一杯な自分に、彼を止めることができるのだろうか。少なくとも、今の自分にできるとは思えない。もっと強くならないとダメだ。そもそも、フェリクールとはどういう人だったのだろうか。なぜ、大陸を支配しようとしているのだろう。なぜ、リルはそのことを知っているのだろうか。
〔疑問が多いみたいだね〕
「うん。何も知らないままなのは嫌だ。リルが嘘をついているとは思わないけど、もっと情報が欲しい」
リルは軽く笑い声を上げた。
〔私が嘘をついていないって根拠は?〕
「ない。だけど、なんとなく。それに、嘘でもいいから、この世界で生きる目的が欲しい。だから、協力する」
つむぎは頭の中に散らかっている考えをまとめながら答えた。
〔それはありがたい。じゃあ、君の質問に答えていこうか。まず、フェリクールのことからね。前にも言った通り、魔王討伐、新しい魔法理論の提唱、時空を操る魔法の開発、うんぬんかんぬん成し遂げた人だよ〕
「性格は?」
〔難しい質問だね。見かけは優等生だけど、口は悪い。慇懃無礼って言葉が似合うかな〕
つむぎは首を傾げた。やはり、聞いた限りでは生粋の悪人とは思えない。
「じゃあ、何で大陸を支配しようと?」
〔失望したんだ。いろいろなことにね。他人の苦しみに敏感なのが仇になったんだろうな〕
淡々とリルが答えた。この言いぶりからして、具体的なことを教えてくれる気はないのだろう。でも、なんとなくわかった。これもたぶん、簡単に割り切れることじゃないんだ。
〔それで、大陸を統一しようとしている。手始めに、シュテルン王国を滅ぼした〕
リルが続けた。シュテルン王国。なんだか聞いたことのある響きだ。つむぎは記憶を探った。確か、厄災退治が行われた場所だと、カサブランカが言っていた気がする。
〔そう、それ。まぁ、厄災退治って言葉には語弊があるね〕
「どういうこと?」
つむぎはリルの真意を測りかねた。
〔たいしたことじゃない。ただ、私が気に入らないってだけだよ〕
リルがまた軽く笑った。今度は、少し冷たさや乾きを帯びた声色だった。つむぎはリルの顔が見えないことをもどかしく思った。そうすれば、声だけでなく表情の変化や目の色から、感情を測ることができるのに。
〔とりあえず、今の状況にも繋がるけど、簡単にそこで起きたことについて説明するね。いろいろあって、一国の王都を丸々滅ぼしたフェリクール君は、彼を止めにやってきた、同期のシドニウス君と出会いました。そこで、戦い勃発!結果は引き分け。フェリクールは弱り切って戦闘不能。シドニウスは海に落ちちゃった。それから二百年後、君がやってきたってわけ。わかったかい?〕
つむぎはうなずいた。でも、まだわからないことがある。
「何でそんなことを知ってるの?」
〔それにもぜひ答えたいところだけど、また今度。お客さんが来たよ〕
お客さん?つむぎは警戒しながら周りを見回した。誰もいないし、魔物がいるようでもない。お客さんとは誰のことだ?
〔違う、違う。上だよ〕
「上?」
つむぎは首を真上に動かした。そしてびっくりした。
上空には、空色の毛並みをした獣が浮かんでいた。その背中には、きらりと光る天色の瞳をした男性が乗っていた。思い出した。〈雲海獣〉、リルが教えてくれたあの獣に乗っていた人だ。
「やぁ、お嬢さん」
流れるような動作で彼は〈雲海獣〉から降りた。敵だろうか?つむぎは素早く考えた。わからない。とりあえず、訊いてみよう。話はそれからだ。
「あの、私に何の用ですか?」
「質問したいことがあってね。〈毒眼蛇〉倒したの、君?」
つむぎはゆっくりとうなずいた。どういう意図でたずねられているのかわからないけれど。
「そうか。じゃあ、ちょっと案内してくれないかい?もちろんただでとは言わないよ」
「えっと、あなたはあの鱗とか毒が欲しいんですか?」
リルの言っていたことを思い出しながら、つむぎは聞き返した。男性が鷹揚にうなずく。
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