星紡ぎのファンタジア

夕凪

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闇路の星

Your first battle

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「それで、私の足で歩いたら、次の街までどれくらいなの?」
 また野宿をしなければならないと思うと、気が重い。それに、食料問題も心配だ。
〔それはあんまり心配いらないよ。ってのも、この辺りには、〈万治花〉、あ、万能薬の材料の花ね。それ狙いの冒険者が多いから、宿屋は多いんだ。一日歩くくらいの距離ごとにあるから安心して。まぁ、一日の距離ってのは大人の足でだけど、君でも頑張れば大丈夫だろ〕
 それは安心だ。よし、頑張ろう。そう張り切った直後、つむぎははっとした。そうだ、忘れていた。自分は今、一文無しなのだ。どうやって路銀を稼ごう?
〔あ、そうか。忘れてた〕
 リルがぽかんとしながら言った。見えないけれど、つむぎにはわかる。慌てそうになる心を深呼吸で沈めながら、つむぎは頭を回した。リルにはこの世界のことをたくさん教えてもらった。次は自分が頑張る番だ。自分にできることで、宿屋で路銀を稼げないだろうか。
「宿屋の手伝いでお金は稼げないかな?」
〔うーん、できるっちゃできる。ただ、確実に一週間程度足止めを食らうね〕
 迷いながらといった声音で、リルが答えてくれた。つむぎは頭の中で礼を言った。いい考えだと思ったけれど、これから向かう宿屋全てに時間をかけるわけにはいかないだろう。他の方法を考えよう。つむぎは考え込んだ。早く金を稼ぐには、早く高額の路銀を手に入れるしかない。つむぎは少し考えて、一つの結論に辿り着いた。他の人が容易にできないことをすれば、早くたくさんの路銀を手に入れられるに違いない。
 でも、自分はいたって普通の六年生だ。身体能力も頭脳も平凡なのに、屈強そうなこの世界の人々が簡単にできないことができるのだろうか。
 そうだ、前の世界の知識を使って金稼ぎをするのはどうだろう。いいアイデアかも。でも、とつむぎはよく考え直した。そんなにたいしたことは知らない。小学校の知識の範囲内のことくらい、この世界の人々はとっくに考えついているだろうし…。しばらく悩み抜いたのち、つむぎははっとひらめいた。
「針仕事に需要はあるかな?」
〔針仕事?そういえば、君、刺繍とかできるんだっけ。いいかもしれないね〕
 リルが快い返事をよこしてくれたので、つむぎはにっこりした。縫い物なら、昔から祖母に教えてもらっていたから、そこそこできると思う。
 でも、針仕事ができる人くらい、この世界には元の世界以上にたくさんいるだろう。でも、そここそが、つむぎが別世界からやってきたというアドバンテージを活かすところだと思う。つまり、この世界にないもの、元の世界にしかない刺繍の文様を売り出したりすればいいのだ。我ながら良いアイデアなのではないだろうか。
〔君、やっぱり機転は効くんだね〕
 感心したようにリルが言ってくれた。誰かに認められるというのは嬉しい。心がほんわりと暖かくなる。つむぎは顔をほころばせながら礼を言った。
「ありがとう」
〔じゃあ次は、実践訓練だね〕
「え?」
 急に話題が変わったと思った瞬間、近くの森の暗がりから、いびつな姿形をした巨大な生き物がにゅっと現れた。思わずつむぎは飛び退いた。見たことはない。でも、これは魔物だと直感でわかった。その大蛇のような生き物は、舌なめずりをしながらゆっくりとこちらへ向かってきた。つむぎを襲うつもりだということはすぐにわかる。
 前方を進んでいた馬車や、上空を飛んでいた〈雲海獣〉はもうはるか先に行ってしまった。頼りにできそうな人はいない。そのことに気がついた瞬間、足が震えるのを感じた。急に死への恐怖が迫ってきたのだ。
〔〈毒眼蛇〉だね。見ての通り、毒を吐くよ。近くによりすぎないようにね〕
 リルがのんびりと言う。その態度が気になって、つむぎは思わずたずねた。
「何でそんなに余裕があるの?怖くないの?」
〔私はつむぎを信頼してるからね〕
 つむぎは返答に詰まった。軽口なのか、本気で言っているのか判断がつかない。でも、さっきよりは恐怖が薄れた気がする。軽口だろうがなんだろうが、信頼されているならそれに答えなければ。
 手を前に伸ばす。そして、心の中にイメージを思い描いた。頑丈で長い糸。前に魔法を使ったときよりも早く、黒と銀の閃光は訪れた。自分の指先から糸が何本も伸びる。成功だ。
 しかし、〈毒眼蛇〉は獲物の必死の抵抗にさほどの驚きや恐怖を感じてはいないようだった。むしろ、空腹が強まったのかもしれない。口を開いたとつむぎが認識した瞬間、〈毒眼蛇〉はこっちに唾を吐いてきた。
 ポケットの中で少しだけ動いたリルに押されるようにして、つむぎはなんとか後ろに避けた。しかし、靴に少しだけかかってしまった。生温かい感触がある。つむぎはおそるおそる靴を見た。革がどろっと溶けている。リルに教えてもらわなくともわかる。体にかかってしまったら終わりだ。
 いや、逆に考えよう。要は近寄らなければいいのだ。つむぎはふーっと息を吐いた。そして、新しくイメージを思い浮かべた。
 〈毒眼蛇〉が間合いを詰めてくる。つむぎもじりじりと後ろに下がりながら、攻撃するタイミングを見計らった。
 今だ。つむぎは素早く蛇の首に糸を絡みつかせた。かかった。つむぎは喉を強く絞め上げた。しかし、〈毒眼蛇〉の抵抗もすさまじかった。毒を吐いて糸を溶かそうとしている。
 このままではだめだ。つむぎは太い糸を何本か呼び出して、空中で何個か糸くずを作った。そして、〈毒眼蛇〉の喉に突っ込んだ。これで、死ぬまでの時間稼ぎができる。溶かされたら、また押し込めばいいだけだ。
 永遠とも思える時間〈毒眼蛇〉とそうして格闘した末に、とうとう魔物は力尽きた。いや、死んだふりをしているだけなのだろうか。疑心暗鬼で魔法を解除できない。つむぎはリルにたずねた。
「死んだの?」
〔死んだよ〕
 つむぎは途端に緊張の糸がほぐれるのを感じた。足が崩れ落ちる。本当に怖かった。
〔ご苦労さま。せっかくだし、玉でもとっていこうか。よく売れるんだよ〕
「え、玉って?」
 つむぎはしどろもどろでたずねた。呆れたようにリルが答える。
〔だから、首にある緑の玉だよ。ぐいってやれば取れるから〕
 本当だ。緊張のせいで全く気がつかなかった。つむぎは力を込めてぐいっとやってみた。意外にも簡単に取れた。
〔じゃあ、急ごうか。こいつの血の匂いを嗅いで、他の魔物がやって来るかもしれないし〕
 つむぎはしぶしぶうなずいた。次にやって来る旅人のためにもこの死体は片付けたいが、今の自分に処理ができるとは思えない。とりあえず、自分の命だけを考えなければ。
 つむぎは森から街道に戻った。さぁ、急がないと。
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