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闇路の星
Mirror teacher's magic class
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「本当に、ありがとうございました」
つむぎはぺこりと頭を下げた。本当に、感謝してもしきれないほど、いろいろなことをしてもらった。
「いいんだよ。というか、僕の方こそありがたかったよ。最近じゃ、〈毒眼蛇〉の出没例は減ってたからね。丸ごと手に入ったのは、とっても嬉しいよ」
エイルが無邪気な微笑みを浮かべた。久しぶりに本当の「良い大人」に出会った気がして、つむぎはふいに涙がこぼれ落ちそうになった。でも、こんなところで泣いてはダメだ。つむぎはぱちぱちと瞬きをして、それを誤魔化した。辛さよりも優しさに触れたときの方が泣きたくなってしまうのはなぜだろうか。
「じゃあ、またね。何が目的なのかは知らないけど、たぶん君ならできるよ。困ったら、ヴェルデ王国のリフィアベリグってところに〈鈴鳩〉を送ってね」
そう言い残して、エイルはセロケアに乗って街道に戻っていった。夕暮れ時を示す淡い空の色の変化を感じながら、つむぎは街の方に向き直った。
〔乗れて良かったね。これで三日くらいは短縮できたよ。でも、どうせなら、もっと送ってくださいってお願いすれば良かったのに。君くらいの年の可愛い女の子からお願いされたら、誰だって多少は聞いちゃうもんよ〕
「私はリルと違って常識をわきまえてるから。それに、エイルさん、急いでたみたいだから、あんまり無茶は言えないと思って」
つむぎは簡潔に答えた。ちぇっと、リルが舌打ちする声が聞こえてきた。リルの性格にも慣れてきたつむぎは気にせずに、街の建物たちを見ながらたずねた。
「ところで、〈毒眼蛇〉の首の玉を売れる場所を知らない?換金したい」
〔明日でもいいでしょ、つむぎちゃん。今は早く宿屋を探して休もうぜ〕
リルがあくびをしながら言った。つむぎは困惑して聞き返した。
「何言ってるの?お金がなくちゃ、宿屋には泊まれないでしょ」
〔エイルがくれた包み、ちょいと見てごらん〕
つむぎは急いでマントのポケットから、エイルがくれた小さい袋を取り出した。エイルが、魔法を記したメモとちょっとした菓子を包んでくれたものだ。つむぎは丁寧に袋を開けた。
「銀貨が入ってる…」
つむぎはびっくりしてつぶやいた。それも何枚もだ。
〔宿屋一日分、食事付きが銀貨三枚ってところかな。たぶん、三日くらいは何もせずとも泊まれるよ〕
リルが楽しげに言った。つむぎは袋を思わず握りしめた。本当にありがとうございます、エイルさん。いつかまたお礼を言わなければ。
「いつ入れたんだろう」
〔さぁね。君に余計な気を使わせたくなかったんじゃないかな。つむぎ、見るからにワケアリそうじゃん〕
なんだか鼻につく言い方なのはいつものことだ。今はただ、エイルさんに感謝していよう。つむぎはリルにたずねた。
「このあたりで、良さそうな宿屋は知ってる?」
〔あるよ。でも、まだあるかな〕
一抹の不安を覚えながら、つむぎはリルの案内に従って、雑多な道を歩き始めた。
「リル、ここに来たことがあるの?」
〔昔ね。そうそう、そこ右。ムキムキの魔法使いがいる方〕
つむぎはうなずいて右に曲がった。ふと、また疑問が生まれた。
「そういえば、魔法ってどうやって使えるようになるの?メモを読めば使えるようになるものなの?」
まだメモを見ていないだけに、それが心配だった。せっかくエイルがくれたものなのに、使えなかったらどうしよう。
〔大丈夫。料理のレシピみたいなことが書いてあるだけだから。民間魔法だし、そんなに複雑じゃないよ〕
そうなのか。つむぎはほっとした。そういえば、とふと思う。魔法というものをいつのまにか受け入れてしまってきたけれど、そもそも魔法って何なのだろうか。そんなことを思い浮かべた瞬間、はっと気がついた。こんな疑問、魔法オタクのリルが食いついてくるに決まっているではないか。
〔失礼だね。まぁ、君の疑問もわかるよ。つむぎにもわかるように、簡単に魔法ってものについて説明するね〕
つむぎはうなずいた。簡単に説明してくれるならありがたい。
〔魔法は、身の回りにあるものを魔力で操ったり変質させたりすること。言い換えるならスマホとかパソコンみたいなもの。君の体の中にある電気、つまり魔力を使ってパソコンでいろいろなことをするのが、魔法だよ。その過程にマウス、要は杖とかがあると、もっとパソコンを使うのが楽になる。で、ソフトやアプリをプログラミングするのが魔法理論や術式。だいたいこれが魔法の内容。わかった?〕
「よくわかった気がする」
つむぎはうなずいた。パソコンを持ったことはないが、母が使っているのを見たことがある。少し使わせてもらったこともあった。すごく便利だった記憶がある。
「でも、何でそんなこと知ってるの?パソコンなんて、この世界にはないでしょ」
〔まぁ、いろいろとあってね〕
リルがはぐらかした。もしかして、自分の記憶を覗いたのだろうか。いや、そこまでパソコンに関する記憶はない。じゃあ何だろうか。考えているうちに、赤い屋根の宿屋の前に到着してしまった。
〔良かった、潰れてなかったみたいだ。じゃあ、泊まろうか〕
嬉しそうにリルが言った。つむぎはしぶしぶうなずいた。結局わからずじまいで終わるらしい。つむぎは軋む宿屋の扉を押した。
つむぎはぺこりと頭を下げた。本当に、感謝してもしきれないほど、いろいろなことをしてもらった。
「いいんだよ。というか、僕の方こそありがたかったよ。最近じゃ、〈毒眼蛇〉の出没例は減ってたからね。丸ごと手に入ったのは、とっても嬉しいよ」
エイルが無邪気な微笑みを浮かべた。久しぶりに本当の「良い大人」に出会った気がして、つむぎはふいに涙がこぼれ落ちそうになった。でも、こんなところで泣いてはダメだ。つむぎはぱちぱちと瞬きをして、それを誤魔化した。辛さよりも優しさに触れたときの方が泣きたくなってしまうのはなぜだろうか。
「じゃあ、またね。何が目的なのかは知らないけど、たぶん君ならできるよ。困ったら、ヴェルデ王国のリフィアベリグってところに〈鈴鳩〉を送ってね」
そう言い残して、エイルはセロケアに乗って街道に戻っていった。夕暮れ時を示す淡い空の色の変化を感じながら、つむぎは街の方に向き直った。
〔乗れて良かったね。これで三日くらいは短縮できたよ。でも、どうせなら、もっと送ってくださいってお願いすれば良かったのに。君くらいの年の可愛い女の子からお願いされたら、誰だって多少は聞いちゃうもんよ〕
「私はリルと違って常識をわきまえてるから。それに、エイルさん、急いでたみたいだから、あんまり無茶は言えないと思って」
つむぎは簡潔に答えた。ちぇっと、リルが舌打ちする声が聞こえてきた。リルの性格にも慣れてきたつむぎは気にせずに、街の建物たちを見ながらたずねた。
「ところで、〈毒眼蛇〉の首の玉を売れる場所を知らない?換金したい」
〔明日でもいいでしょ、つむぎちゃん。今は早く宿屋を探して休もうぜ〕
リルがあくびをしながら言った。つむぎは困惑して聞き返した。
「何言ってるの?お金がなくちゃ、宿屋には泊まれないでしょ」
〔エイルがくれた包み、ちょいと見てごらん〕
つむぎは急いでマントのポケットから、エイルがくれた小さい袋を取り出した。エイルが、魔法を記したメモとちょっとした菓子を包んでくれたものだ。つむぎは丁寧に袋を開けた。
「銀貨が入ってる…」
つむぎはびっくりしてつぶやいた。それも何枚もだ。
〔宿屋一日分、食事付きが銀貨三枚ってところかな。たぶん、三日くらいは何もせずとも泊まれるよ〕
リルが楽しげに言った。つむぎは袋を思わず握りしめた。本当にありがとうございます、エイルさん。いつかまたお礼を言わなければ。
「いつ入れたんだろう」
〔さぁね。君に余計な気を使わせたくなかったんじゃないかな。つむぎ、見るからにワケアリそうじゃん〕
なんだか鼻につく言い方なのはいつものことだ。今はただ、エイルさんに感謝していよう。つむぎはリルにたずねた。
「このあたりで、良さそうな宿屋は知ってる?」
〔あるよ。でも、まだあるかな〕
一抹の不安を覚えながら、つむぎはリルの案内に従って、雑多な道を歩き始めた。
「リル、ここに来たことがあるの?」
〔昔ね。そうそう、そこ右。ムキムキの魔法使いがいる方〕
つむぎはうなずいて右に曲がった。ふと、また疑問が生まれた。
「そういえば、魔法ってどうやって使えるようになるの?メモを読めば使えるようになるものなの?」
まだメモを見ていないだけに、それが心配だった。せっかくエイルがくれたものなのに、使えなかったらどうしよう。
〔大丈夫。料理のレシピみたいなことが書いてあるだけだから。民間魔法だし、そんなに複雑じゃないよ〕
そうなのか。つむぎはほっとした。そういえば、とふと思う。魔法というものをいつのまにか受け入れてしまってきたけれど、そもそも魔法って何なのだろうか。そんなことを思い浮かべた瞬間、はっと気がついた。こんな疑問、魔法オタクのリルが食いついてくるに決まっているではないか。
〔失礼だね。まぁ、君の疑問もわかるよ。つむぎにもわかるように、簡単に魔法ってものについて説明するね〕
つむぎはうなずいた。簡単に説明してくれるならありがたい。
〔魔法は、身の回りにあるものを魔力で操ったり変質させたりすること。言い換えるならスマホとかパソコンみたいなもの。君の体の中にある電気、つまり魔力を使ってパソコンでいろいろなことをするのが、魔法だよ。その過程にマウス、要は杖とかがあると、もっとパソコンを使うのが楽になる。で、ソフトやアプリをプログラミングするのが魔法理論や術式。だいたいこれが魔法の内容。わかった?〕
「よくわかった気がする」
つむぎはうなずいた。パソコンを持ったことはないが、母が使っているのを見たことがある。少し使わせてもらったこともあった。すごく便利だった記憶がある。
「でも、何でそんなこと知ってるの?パソコンなんて、この世界にはないでしょ」
〔まぁ、いろいろとあってね〕
リルがはぐらかした。もしかして、自分の記憶を覗いたのだろうか。いや、そこまでパソコンに関する記憶はない。じゃあ何だろうか。考えているうちに、赤い屋根の宿屋の前に到着してしまった。
〔良かった、潰れてなかったみたいだ。じゃあ、泊まろうか〕
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