星紡ぎのファンタジア

夕凪

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闇路の星

A flower that cures all illnesses 1

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〔初めてのまともな食事はどうだい?〕
「おいしい。固いけど」
 つむぎは一心に空きっ腹に固いライ麦パンと変な肉の入ったシチューを流し込みながら答えた。どれもすごくおいしい。前の世界のものと比べたら、格段に貧しいものかもしれないけれど、天国の食事のようだった。
〔その肉は魔物のものだよ〕
「魔物?そうなんだ」
 確かに、ここに来るまで牧場のようなものは全く見当たらなかった。豚とも牛とも似つかない味の答えとしても納得がいく。パンを片手に、エイルがくれた魔法のメモを読みながら、つむぎはうなずいた。
「にしても、夢みたいだ。屋根があって、寝る場所があって、食べるものがあるっていうのはありがたいね」
〔真理だねぇ〕
 そのとき、踊り場の階段の方からキャッという声が聞こえてきて、つむぎは顔を上げた。洗濯物がたくさん散らばっている。それにまぎれるように、宿屋の下働きのような身なりをした少女が倒れている。
〔足を滑らしちゃったみたいだね。お気の毒に〕
 つむぎはメモをポケットに入れながら、急いで席を立ち、そっちへと向かった。大丈夫だろうか。怪我はしていないだろうか。
「あの、大丈夫ですか?」
 つむぎはおずおずと話しかけた。はっとしたように彼女はつむぎを見た。
「あ、大丈夫よ。ごめんなさい」
 首を振って、少女は慌てたように立ち上がった。洗濯物を急いでかごの中に戻し始める。つむぎも邪魔にならないように気をつけながら、それを手伝った。
「ありがとう。ごめんなさいね」
 少女が申し訳なさそうに言った。つむぎは慌てて首を振った。
「いえ、全然。怪我はしてないですか?」
「大丈夫。ちょっと服が破れただけですんだわ」
 にっこりと少女が笑った。本当だ。膝のあたりの布から白い肌が露出している。つむぎは、少し迷ってから少女を見た。余計なお世話かもしれないけれど、たずねてみる。
「直してもいいですか?あの、私、裁縫は得意なので」
「いいの?でもあたし、仕事があるから、そんなに時間がないの」
 すまなさそうに少女が言う。つむぎは首を振った。
「私、魔法が使えるので、大丈夫です。少しだけ時間をくれれば直せます」
「じゃあ、お願いしようかしら」
 少女が嬉しそうにうなずいた。良かった。こちらの提案を受け入れてくれたことに、嬉しさと安堵を覚えながら、つむぎは膝のあたりに手をかざした。糸を操る魔法を使おうとして、ふと立ち止まる。どうせなら、祖母に教わった方法で、ちょっとだけおしゃれに直してみようか。
「その前に、好きな花とかありますか?」
「花?そうね、〈万治花〉かしら。珍しいから、実物は数えるほどしか見たことないけど」
 戸惑う様子を見せながらも、少女は答えてくれた。確か、万能薬の材料になる花だったっけ。ならばリルが知っていたはずだ。つむぎは心の中で、〈万治花〉の特徴についてリルにたずねた。どんな花なのか説明してくれないだろうか。
〔あぁ、そういうことね。でも、説明してもよくわかんないでしょ?百聞は一見にしかずって言うし、画像送るよ〕
 画像?と思った瞬間、つむぎの頭の中に月のような銀灰色をした、こぶりな花の映像が鮮明に浮かんできた。こんなこともできるのか。驚きながらも、つむぎは頭の中で礼を言った。そして、手をもう一度かざし直した。これからやることに必要不可欠な、色を変える魔法はさっき学んだばかりだ。でも、とりあえずやってみよう。
 つむぎはまず、破れた布を糸を操る魔法を使って、〈万治花〉の形になるように縫い合わせた。集中しないと普通の針仕事と同じように、糸が乱れてしまうので大変だ。しかし、なんとかできた。
 つむぎは息をふぅと吐いてから、色を変える魔法をメモの手順通りに頭の中に呼び出した。メモによると、重要なのはどのように色を変えるのかという、具体的なイメージらしい。そうでないと、思っていた色よりも色褪せてしまったり、逆に鮮やかになりすぎてしまうのだという。初めてだから上手くいくかはわからないが、手順通りに行えば問題ないはずだ。つむぎは、リルが頭の中に送ってくれた花の映像を思い浮かべながら、色を変える魔法を使い、花に色をつけた。
「…綺麗」
 つむぎはほっとした。なんとか想像通りにできた。祖母から教わった刺繍入りのお直しの方法だ。喜んでもらえて良かった。それに、魔法でもできるとわかって、ちょっと嬉しい。
「似てますか?」
「えぇ。そっくりよ」
 少女が笑顔を浮かべた。つむぎもつられて、思わずはにかんだ。
「良かったです」
 つむぎは体の向きを変えた。少女の手伝いができて良かった。席に戻って、食事の続きをしよう。
「あ…」
〔とられてるね。しかも、荒っぽそうな連中に〕
 ははっとリルが笑った。その通り、さっきまでつむぎはいた場所は、見るからに乱暴そうな人々に横取りされていた。残っていたパンとシチューもいつのまにかなくなっている。食べられてしまったのだろう。つむぎは心の中でため息をついた。
「大丈夫?」
「あ、はい」
 少女に悟られないように、つむぎは急いで表情を戻した。変に気を使わせたくはなかった。まぁ、食事も一応すませられたし、もういいか。やることもないし、さっさと寝てしまおう。つむぎは部屋に戻ろうとして、立ち止まった。ふと、疑問が生まれてきたのだ。
 しかし、それを少女にたずねようとしたときには、すでに彼女は去ってしまっていた。
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