星紡ぎのファンタジア

夕凪

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闇路の星

The silent forest's wisdom

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 つむぎは反射的に、後ろに飛び退いた。途端に、さっきいた場所を大剣の斬撃が襲った。
 屈強な体つきをした、大剣の持ち主の男はゆっくりとつむぎを見た。その目つきに、つむぎは背中がぞくりとするのを感じた。もちろん、殺されそうになった恐怖もあったが、それ以上に彼の瞳が怖かった。空っぽなのだ。感情が全く映っていない。
 そんなことを考えているうちに、男は素早く距離を詰めてきた。今まで戦ってきた魔物や、あのおばさんとは大違いだ。対人での戦闘に慣れている。それをぎりぎりで飛び退いて避けながら、つむぎはぼうっと思った。ここまで殺されなかったのは奇跡と言って良いだろう。いったい、いつまで避けられるだろうか。
 そのとき、後ろでヒュンという音がした。と思った瞬間、肩を矢が貫いた。真っ赤な血が、こんなにあったのかと思うくらいにどろどろと溢れ出した。思わず抜こうとした瞬間、リルが叫んだ。
〔矢は抜くな!抜いたらもっと傷口が広がるタイプの奴だ〕
 つむぎはその痛みで気が遠くなりそうになるのをこらえた。ここで立ち止まったら、間違いなく命を奪われる。目の前の敵だけで頭がいっぱいになっていて、弓兵の存在を忘れていた。内心でつむぎは、思いつく限りの悪態をついた。
〔君、思った以上に口悪いねぇ。ま、当然か〕
 そんなこと言っている暇があるなら、何か打開策を教えてよ。つむぎは心の中で怒鳴った。
〔了解。まず、ダッシュで後ろにある岩の陰に隠れて〕
 つむぎはちらりと後ろを見た。小さな坂の上の広場のような場所にある、あの大きな岩のことだろうか。つまり、この状態で坂道を全速力で走らなければいけないということか。剣と矢を避けながら。ずいぶん楽しそうだ。
 つむぎは強く唇を噛んで、肩の痛みをこらえながら走り出した。ジグザグに走って、ひっきりなしに飛んでくる剣と矢をひたすら避ける。そして、岩の陰に飛び込んだ。そこには、狭くてわかりにくいが、岩と地面の間に空間が広がっていた。なるほど、リルのやりたいことがわかった気がする。つむぎは、急いでそこに入った。小柄で助かった。
 まさしくその隙間に飛び込んだ瞬間、男が履いていたブーツが現れた。混乱したように、ぐるぐると岩の周りを回っている。今だ。つむぎは、急な坂道ダッシュのせいで息がはぁはぁと切れるのを我慢しながら、糸を操る魔法を静かに呼び出した。その糸で、ここからわずかに見える足を素早く縛り上げた。わけがわからないといった様子で、男が倒れ込んだ。なんとか糸をほどこうと、じたばたしている。そんなことをされては困る。つむぎは急いで、腕も縛り上げた。ついでに、縄くらいの太い糸を呼び出して、男の口も塞いだ。下手に叫ばれたりしても大変だ。
〔おみごと。じゃ、次は傷の対処だね〕
 まだずきずきと痛む傷を、つむぎはじっと観察した。まだ血の止まる気配はない。つむぎは不安になってきた。
「失血死とか、しそう?」
〔残念ながら、充分にありうるね。…ん?え?えっとね、ヴィザがなんとかしてくれるってさ〕
 つむぎは驚いて、ポケットの中のヴィザを見つめた。
「なんとかって、どうやって?」
 ヴィザが可愛くチィと鳴く。わけがわからないと言った口ぶりで、リルが翻訳してくれた。
〔俺に任せろ、ツムギ。心配するな。まずは、傷口のとこまで俺を持ち上げてくれ、だってさ。私に訊かないでよ。私もこいつが何をしようとしてんのか、よくわからない〕
「でも、治してくれるならありがたいな」
 つむぎはヴィザに微笑んだ。そして、言われたとおりに肩まで持ち上げた。血だらけでべとべとしている。そんなマントを軽くめくり、矢の突き刺さった傷口にヴィザが手を当てた。よくわからない言語で何かをつぶやいている。と思っていると、奇妙な左右非対称の小さな模様が、ヴィザの周りに現れた。春の桜の葉っぱのような、明るい緑色の光が辺りに満ちる。つむぎはしばらくその光に見とれていた。
 その光はふいに消えた。それとともに、痛みもまるでなかったかのように消え去っていた。肩が軽い。矢もすっと肩から抜け落ちた。
「ありがとう、ヴィザ!」
 どうやったのかは知らないが、すごい。ヴィザがチィッと誇らしげに鳴いた。
〔ふ、仕事は済んだぜ。って言ってる。あ、寝ちゃった〕
 パタリと倒れ込んでしまったヴィザを、つむぎはそっとポケットに戻した。本当にありがとう。あとはよく眠って欲しい。
〔しっかし、すごいねぇ。〈森隠獣〉が治癒術式からの治癒魔法を使えるなんて、知らなかった。研究する価値は結構ありそうだ。こいつを褒めるわけじゃないけど〕
 感心したようにリルがつぶやく。相変わらずのひねくれ屋だと思いながら、つむぎはふぅっと息を吐いた。
 まだ終わりじゃない。隊商を守るために、全員倒さなきゃ。そのためには、もう怪我なんかしていてはダメだ。もっと魔法を上手く使って、対抗しなければ。
 よし、行こう。つむぎは立ち上がった。
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